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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
冬 百合乃婦妻の冬籠り
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137 P-誰とも知れない探し人


 程々にうるさく、慣れてしまえばむしろ心地良く、街の住人(プレイヤー)たちの喧騒が通り中に響く。

 その中にあってただ互いにだけ言葉を向ける、ハナとミツ。ゆっくりと、けれども意図せずとも合った歩調で、二人は歩いていく。


「――そもそもカメラって、どんな仕組みで動いてるの?」


「……分っかんないやぁ」


 肩を並べるハナとミツは、しかしどちらも、求めるアイテムの実物さえ碌に見たことがないわけであるからして。

 最初の糸口を見つけるべく、二人は揃って、一眼レフなる物について考えを巡らせる。


「なんか……すっごい、中に色々入ってそう」


「うんうん、きっとすごい仕組みとかがあるんだろうねぇ」


 恐ろしく曖昧で、何の考察にもなってはいなかったが。


 見た目や機能、使い方なんかは、少し調べればすぐに知ることが出来はした。が、しかし、それを作る、そのために内部機構を理解する、といったレベルの話は、二人にはまだ少々難しかったようである。年代的に縁遠いというのも、勿論あるのだろうが。

 多機能デバイスが名前通り多機能過ぎるが故に、その手の一部用途に特化した機材に疎いのが、彼女たち世代の問題とも言えないような問題であった。


 まあ極論、ここはゲームのセカイなのだから、見た目と機能さえ再現出来ていれば、中のプログラム(仕組み)なんてどうでも良いといえば良いのだが……現時点でどんなプレイヤーにどう声をかけてみるのが良いのか、そのとっかかりすら掴めないのが、二人がカメラというモノを全く知らない点に起因しているのもまた事実。


 ……そも、複雑精緻というのであればそれこそ、誰もが普段使っている多機能デバイスなどの方が段違いに高性能な代物なのだが。物心ついたときには既に身近にあるのが当たり前だったものだから、今一つそのありがたみが分かっていないあたり、まさしくハナとミツは、二人揃って現代を生きる少年少女の典型例であった。


 兎角カメラとは、二人にとっては見慣れないカラクリマシンであり、なんか凄そうなアイテムを作るにはやはり、なんか凄そうな生産職を探すのが妥当な所であろうか。科学技師系(漠然としたイメージ)の、凄そうなプレイヤーを。


「いっそのこと、『セカイ日時計(CLOCK)』を作った人とかなら、カメラくらいチャチャっと作れちゃいそうなんだけど……」


「流石にそれは……ちょー有名人だし、そもそもどこに居るかも分かんないしー」


「だよねぇ……」


 その手のなんか凄そうなクリエイターといえば、一年ほど前にセカイの時間に干渉する意味不明アイテムを制作した輩が、飛びぬけた有名人ではある。

 しかし有名過ぎて流石に気安く声はかけられない、それどころか神出鬼没で足取りさえ掴めない。

 比較的平和だったハロワ内で始めて、それなりの規模のPVP対戦をも勃発させた件の女性プレイヤーは、今や全プレイヤーから畏怖の対象として認識されていた。


「まあ、仮にその人にお願いできたとしても、なんかとんでもないアイテム作っちゃいそうな気もする」


「確かに、カメラを超えた何かができちゃいそぉー……」


 少し前に起きた簒奪戦、それに勝利したクランですら未だ、手中に入った『セカイ日時計(CLOCK)』の恐るべきスペックに慄き、検証段階で留まっているというハロワの時間事情。人となりすらほとんど知らないながらも、彼女が残した結果や噂話等も相まって、そう思わずにはいられない二人だった。


 何せその『セカイ日時計(CLOCK)』とやら、想定される最大出力のぶっ飛び具合から、流石に運営から何かしらの介入があるのではないかとすら噂される程に意味不明なアイテムなのだ。それをたった一人で作り上げた人物に、ただのいちプレイヤーに過ぎない自分たちがアイテム作成を依頼するだなんて、それこそ冗談でしか言えないことだろう。


「あーでも、『セカイ日時計(CLOCK)』のさんだつ戦?っていうのは、参加してみたかったかも」


「たしかにー。大人数のプレイヤー同士で戦うなんて、今までなかったもんねぇ」


 アイテムそのものよりも、それを巡って勃発したプレイヤー産コンテンツの方に興味を示すハナとミツ。そうやって笑い合いながら、街の大きな通りを、二人は並んで歩いていく。


 ヘファの鍛冶屋を出て、ひとまず『フリアステム』商業区内を周り、それっぽいものを作れそうな雰囲気の店なんかを探してみたハナとミツではあったが。

 会話の通りカメラのカの字にも明るくない二人のふわっとした基準では、やはりそれっぽいプレイヤーを見つけることなど出来はしなかった。


「……うん。さすがに、同じ街の商業エリアにそれっぽい人がいたら、ヘファちゃんが知ってるだろうしねぇ」


「やっぱり、カメラとかそれっぽいものをわざわざ作ろうとする人なんて、そうそういないものなのかもね」


 それっぽいという言葉の頻出っぷりからも、いかにこの二人が、ざっくりゆるっと事を進めているのかが窺える。 


 カメラが欲しいと思った発端がまず、ちょっとした好奇心。

 デバイスをカメラに見立てて娘を撮るなどというミツの父親の奇行を話し聞き、自分たちもやってみたいと思ったのが始まりなのだから。

 緩やかな空気で、遊び(ゲーム)の一環として二人が取り掛かっているのも、それは当然のことだと言えよう。



 [HELLO WORLD]のサービス開始間もない頃からペアを組み、この自由過ぎるセカイを楽しんできた二人の、それこそが不動のスタンス。



 気の向くままにあちらへそちらへ、時に戦い、時に探索に明け暮れ、時によく分からない催し物にでも首を突っ込んで。心持ちはカジュアル勢だけど、進む速度はまちまちだけど、火が付けば満足するまで遊び倒す。


 リアルの世界ですら出会ったことがないほどに馬の合う友人なんぞ出来てしまえば、この年頃の少女二人、どこまでだって歩いて行けてしまうのだ。


 一人だと尻込みしてしまうようなことも、二人揃っていれば怖くない。

 ぱっと見だと怖そうな鍛冶屋のお姉さんとも仲良くなれたし、何やらいつの間にか、二人の追っかけ(ファン)らしい流浪人のお姉さんもいたりして。


 二人でなら、何をしたって楽しい結果に繋がってしまう。


 ここ二年程のハロワ生活で、すっかり二人でいることが当たり前になったハナとミツ。一緒なら何だって楽しいと、そう思えるほどの相手がまさか見つかるだなんて、二人とも思ってもみなかったけれど。

 今となっては、初めてこのセカイに足を踏み入れたその瞬間出会えたことに、感謝してもしきれない。



 友人を超えてもはや大親友……すらもちょっと飛び越えつつあるんじゃないかと、赤毛のクリエイターの中でもっぱら噂な少女二人は、今日も今日とて手を繋ぎながら道を行く。


 二人の拠点だってある慣れ親しんだこの街なんて、軽く飛び越えていけるくらいに。


「取り合えず、『アカデメイア』とか交流のある街とかも回ってみる?」


「そうだねぇ。いろんなエリアの商業区を見て回れば、それっぽいアイテムとか、作れそうな職人さんとか、見つかるかもしれないしねぇ」


 ふとした切っ掛けで始まった、科学技師探し。

 学校の宿題なんかとは違って、自分たちがやりたくてやっていることで、期限なんかもないことだし。『フリアステム』にはいなくとも。『アカデメイア』で見つからなくとも。その次の街も徒労に終わってしまうとしても。

 それはそれで、楽しい無駄足というものだろう。


「よーしっ、じゃあしばらくは、色んな街で職人さん探しってことで」


「おっけーぃっ!」

 

 いつも通りゆっくり二人で、観光がてら探してみようか。


 そんな心持ちでハナとミツは、『フリアステム』商業区を後にした。


 次回更新は2月10日(水)18時を予定しています。

 よろしければ是非また読みに来てください。

 あと、感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告などなど頂けるととても嬉しいです。

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