134 R-せいなる夜
クリスマスとは。
赤い衣装のあんちくしょうが独断と偏見で良い子とやらを選別し、今日日そうそうありもしない家の煙突へと貢物を投げ込んでいく、狂気のイベントである。
またの名を、性の六時間ともいう。
……少なくとも、華花と蜜実の生きる現代社会においては。
最早原義など欠片も残っていない資本主義的催し物ではあるが、それに異を唱えるでもなく乗っかるのが、現代人の現代人たるスタンスだろうか。
「じゃーんっ」
「おぉーっ」
現代っ子のご多分に漏れずクリスマスムードに便乗する蜜実の今宵の格好は、ミニスカでへそ出しなサンタコスチューム。
生活圏の経緯度的に、聖夜にそんな肌面積の多い恰好をするなど愚の骨頂とすら言えるのだが、しかししかし、英知よりいずる文明の利器――『エアコン』の力を以ってすれば、むしろ室温の方がコスチュームの適正温度に擦り寄ってくるというのだから、つくづく世界というものは人間に都合の良い作りになっているようだった。
可愛らしさと肌色面積相応の色気が混ざり合った、赤白二色のめでたい衣装。
ハロワの方でならいざ知らず。現実世界で非日常的な衣装を見る機会など、それこそ何がしかの催し物があるときくらいなものだから、蜜実のレアな格好を前に、華花も素直に感嘆の声をあげるしかない。
まあ、その華花自身も、既にお揃いの衣装に身を包んでいるのだが。
「どぉ?どぉ?」
「かわゆい」
小さくステップを踏み隅々まで曝け出す蜜実の、三角帽の先のボンボンまで連動させて揺らすその姿。ベッドに座り眺める華花の語彙力は、いつもの三割増しの速さで消失していた。
「ありがとー。華花ちゃんも可愛いよぉ」
「そう?ありがと。へそ出しとか、正直ちょっと恥ずかしいけど」
恥ずかしいなどと宣う割に、どうせ蜜実にしか見せないし……いやむしろ、蜜実にだけ見てて欲しいし……なんて惚気たことを考えている華花の顔は、薄暗いベッドの上に似つかわしく赤く火照っていた。
今日の華花がいつになく素直で乗り気なのは、数刻前からリビングでシャンメリーをばちこりキメているからである。
自身のリードによって既に心身とも解れている彼女の様子に、蜜実はますます上機嫌に。
最近また一つタガが外れ、ハロワ八周年からこっちリアルでもコスプレをさせようと密かに画策していた蜜実の、入念な下準備の成果というやつだろうか。
その目に映るのは、日常生活ではまずお目にかかれないレベルの際どいスカート丈。蜜実にはそれが、まるで華花の美脚を見せびらかすかのように見えていて。
「とぉーっ」
「わっ」
ベッドに飛び込み、もつれるように抱き着いた華花のそのおみ足へと、蜜実は迷うことなく頬を擦り付けた。
「んぅー……たまらん~……」
「ぁっ、蜜実ってほんと、ん、足好きだよね、っ」
座ったまま、太ももに埋められた頭を撫でる華花。
接触から生じる情欲と、変則的膝枕という状況が生み出す慈愛が、彼女の中で今、絶妙な比率で配合されていた。
「すき~……」
くぐもった声。蕩けた声。
何にせよ華花を悶えさせて止まない声音で答える蜜実。
「あ~でも、脚だけじゃないよぉ~……」
言葉を続けながら、華花の腰に巻き付けていた両腕を動かし、そのまま背中の方に手を当てる。
「背中とかも好き~……」
へそ出しということは必然、腰の方も、それどころか背中の大部分も剥き出しということで。太ももに溺れたまま器用に腕を動かし背面まで愛でる蜜実の指先に、華花の背筋はぞくぞくと泡立っていった。
「ん、ふぁ……」
指を立て、丸く切り揃えられた爪の先が肌を擦る度に、華花の声が上擦っていく。
優しい手付き、だというのに硬い爪の感触がちょっとだけ意地悪で、不規則でありながらリズミカルな指使いが堪らない。
「他にもー……」
目を細めて快感に浸る華花の顔を思い浮かべながら、蜜実の攻勢はさらにエスカレートしていく。
「おへそも好きー……ちゅっ」
「あぅっ」
少しだけ顔を上げ、太ももに顎を置いて、至近距離にある小さな窪みへと口付け。
じんわりと、それでいて熱過ぎるほどの熱が、華花のお腹の辺りをきゅんと疼かせた。
「はむっ、ぁむあむっ」
「――ぁっ、はっ、はぁっ……!」
一度だけでは飽き足らず、何度も唇を押し付け、食み、吸い付く蜜実の愛情表現に、華花の身体は悦び屈し、くの字に降り曲がっていく。
膝上に乗ったままの蜜実の頭をぎゅっと抱き込み身体を震わせるたびに、その後頭部に押し付けた双丘が形を変えて。控えめではあるが確かに自己主張する胸の感覚に、蜜実のうなじ辺りも快感でチリチリと焼けていく。
一方で華花もまた、視線の先にある蜜実の身体に目を奪われていた。
うつぶせに倒れ込んだままの、その両脚がもじもじと擦り動くたびに、自分と同じくらい短い蜜実のスカートの端が揺れて。腹部と背中両面から来る快感に目を細めながらも、蜜実の足先、膝裏、腿の裏を注視せずにはいられない。
ぎゅっと目を閉じ、触覚からの熱に全神経を集中させる蜜実。
まぶたを何とか開き、視神経からも興奮を得ようとする華花。
視線は合わさらずとも、二人ともどこまでも貪欲に互いを求めていく。
「っ、ん~~っ……!」
背筋を一気に撫で上げられ、吐息とも呻きとも取れない声をあげる華花。
かと思えばその反撃に、眼前に広がる蜜実の背中に手を伸ばし、同じことをやり返す。
愛撫され震えてしまっているせいか、その指先はやられた分よりもっと不規則に、その背を責め苛んでいく。
「ぁ、ぁ、っ……華花ちゃんの……はぁっ、指も……すきぃっ……」
あまりにも甘美な因果応報。
蜜実の吐息はますます熱く火照って、そうすればまた、唇に吸い付かれたままの華花のお腹も疼きを強めていった。
どくんどくん、ずきんずきんと。
熱くて甘くて、けれども疼くたびに、もっともっとと更なる愛を求めてしまう。
接触部を中心に熱量は二人の身体の隅々へ、それどころか仄暗い寝室中にまで広がっていき。
気が付けば自動調整機能付きのエアコンも、空気を読んでスイッチオフ。
「はぁーっ、はぁーっ……!」
熱に浮かされ湿り気を帯びた酸素を、雑把に取り込む華花の呼吸音が、蜜実の耳にするりと入り込む。
そうして音に聞いてしまえば、それを直接取り込みたくなってしまって。
「ん、れぇー……」
へそに吸い付いていた唇を緩め、舌をもっと伸ばし、上へ上へと舐め上げる。
みぞおちを突っつき、胸骨の硬さを舌先に感じた時には、這い上がるようにして華花を押し倒していた。
「は、ぁぁっ……」
幾度となくこうして組み敷かれ、その度にきゅんきゅんと鳴き始める自分の心臓のちょろさに、華花はいつも不安を感じずにはいられない。
いつの日かこの胸は、負荷に耐えきれずに止まってしまうんじゃないかと。
けれどもその直後には、視界を覆い尽くす蜜実の煽情的な微笑みに、そんな小さな悩みなんて頭から抜け落ちてしまうのも、これまたいつものこと。
「ふふ……」
ほんのすぐ手前、指一本にも満たない隙間を残して止まる蜜実の吐息が、華花の唇をくすぐった。
「……っ!……!」
吐き出す二酸化炭素の中に、強烈な媚薬でも混ぜ込んでいるのかと思ってしまう。
それほどまでに、至近に迫る蜜実の息遣いは、華花を狂わせていく。
ほんの少し顔を上げれば届くのに。
お預けを言い渡す潤んだ瞳に見つめられては、ただ息を荒げ待てをするしかない。
「……はぁーっ……」
「んっ、はっ、はっ……!」
熱い吐息。
「……ふぅーっ……」
「~~~~っ……!」
冷たい息吹。
余りにも容易く弄ばれる華花の呼気を糧にしながら、蜜実の加虐心は今日も燃え上がっていく。
それを求めて顔を寄せたはずなのに、気が付けば、それを求めさせたくて堪らない。
妖しく濡れる瞳を揺らし、熱の籠った脳髄で、蜜実は考える。
――今日はどんな風に、華花ちゃんにキスをおねだりさせようかなぁ。
次回更新は1月30日(土)18時を予定しています。
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