127 R-お祭りの余韻、少しだけ
すみません、年末年始が少し忙しく執筆が難しいため、年内の更新はこれが最後となります。
ちょうど今話で二年次秋編も終了となり、一月からは二年次冬編を予定しています。
『隔離実験区域02』での、婦婦と母娘の喜ばしい再会からそう日を置かずに、[HELLO WORLD]八周年記念イベントも、遂に終わりの時を迎えることとなった。
それに合わせてプレイヤーたちのアバターも、多種多様な魑魅魍魎から普段のそれへと戻っていき。名残惜しくも噛み付き感染プレイ納めを済ませた華花と蜜実も今は、現実世界で僅かばかりの余韻に浸りながら、まったりとイベントの振り返りに花を咲かせていた。
「今年は、ある意味今までで一番衝撃的だったねぇ」
「そうだねぇ」
ベッドの上、壁にもたれてだらけながら蜜実が言えば、対面して座る華花も頷いて返す。
「二人が元気そうで良かったよー。アイザさんは、相変わらずシンちゃん好き過ぎだったけどー」
「逆に、あの子がアイザさんにべったりじゃなくなってて、ちょっとびっくりしたくらい」
音信不通気味な旧友母娘の転身を、まさかこんな形で知ることになろうとは。
驚きと、交流がしやすくなったことへの喜びは、成程確かに、これまでの周年記念の比ではないだろう。
「あと気になることと言えば、モンスターのリスポーンが常設なのかどうか、かな」
結局のところこの同一個体の復活現象は、イベント中のちょっとした催し物だったのか、それとも今後は、これがあのセカイの常識になっていくのか。
「どうだろうねぇ……」
運営側に回ったアイザが、まさしくモンスターの進化に関する先駆者であること。その彼女が、自然環境云々に関する部門の所属になったこと。
この辺りから察するに、かの天才が此度の現象に関わっていることくらいは、華花と蜜実にも想像が付くのだが。
「ま、その辺はまた追々、判明していくだろうし……」
友人とはいえプレイヤーと運営側。
情報の漏洩など望むべくもなく、そもそも、二人も望んでなどいない。
過ぎたネタバレはつまらないのだから。
「……それよりも私、ここのところ気になってることがあるんだけど」
というわけで、あっさりと話題は移る。華花の興味の赴くままに。
「なぁに?」
首を傾げる蜜実の方を……正確には、その豊かな胸元に目をやりながら、一言。
「蜜実、最近ちょっとおっきくなった?」
その瞳の向かう先を見て、何がという問いは必要ないだろう。
促されるようにして蜜実も、自身の双丘に目を落とした。
「……そうかなぁ?」
もう一度首を傾け直すあいだにも、華花の顔はどんどんそこに近づいていく。
圧倒的ッッ……!!……というほどでは流石にないが、同年代の女子たちと比べても豊満な方であるのは、自他共に認めるところ。
その二つの丘が成長を遂げているのか否かが、目下、華花の探求心をくすぐる命題であった。
「多分、ちょっとだけ、だけど」
「カップ数とかは変わってないけどー……」
体重の変化もさほどなく、蜜実自身ですら、言われてみればそんな気もしないでもないような……といった程度の、ほんの少しの変化を示唆するその言葉は、或いは単なる錯覚に過ぎないのか。
口にした本人も確信を持てないそれを、折角なのでぽろりとこぼれたこの機に確かめておこうと、華花は両の手を伸ばした。
「……ん……」
「んー……」
秋用のクリーム色のパジャマ(お揃い)の上から優しく、ゆっくりと、けれども感触を確かめるようにしっかり、五指をその膨らみに沈みこませていく。
左右の手をそれぞれの丘陵にあてがい、もにゅもにゅと軽く揉んでみたり、下から持ち上げてみたり。
「……んー……」
「どう、かなぁー」
「……服の上からじゃ分かんない」
肌寒い季節に応じた厚手の寝間着越しでは、ましてやその下にナイトブラまで備えているとなれば、精密な調査など出来るはずもない。
至極真っ当な探求心に突き動かされるようにして、華花は蜜実のパジャマのボタンを外していく。わざわざ許可を取るそぶりなど微塵もなく、また許可など口に出すまでもなかった。
あっと言う間にシャツの前をはだけさせ、そのままブラのホックもぱちりと外す。けれどもまだ脱がせはせず、空いた前の方から潜り込ませるようにして華花は、パジャマを羽織ったままの蜜実の素肌に両手を添えた。
「ふむ……」
未だ謎に満ちた宇宙の深淵を探る科学者の如くかしこまった表情で、手を動かす華花。
先程と同じく柔らかく揉みしだいてみたり、手のひらにかかる重さを確かめるように、下からゆすってみたり。
かと思えば指先を立て、慈しむかのように柔肌を撫でる。振れるか触れないかのフェザータッチ、それで一体何が分かるのか定かではないが、膨らみの先端を上手く避けながら這うその指使いは、まさしく日々の営みの賜物だと言えよう。
「ん、んー……、ぁっ……」
本気のそれに比べれば随分と優しい微弱な刺激。
だと言えどもやはり、すっかり華花にほぐされた蜜実の身体はそれだけでも、得も言われぬ心地良さに背を震わせてしまう。ほんの少しだけ。
ぱちんと明確にスイッチが入るほどではないが、一方で少しづつ少しづつ燃料をくべられていくような。
「んぁ……ぁ……」
焦らし、とすら言えないような柔く淡い触れ合いに、気が付けば蜜実は目を閉じ体を預けていた。
壁にもたれきり、手足は弛緩させて成すがまま。
肌は程よく温まってきて、それよりも少しだけ低い、華花の指先の温度が愛おしい。
呼吸も徐々に深く伸びて、吐息に合わせて胸が上下すれば、その度に指との触れ方が変わっていく。
「すぅー……はぁ~……、っ……」
とろ火のように僅かながらも、確かに蓄積していくぞわぞわが、蜜実の息遣いにも熱を加えて。
「華花ちゃん……、どぉ?おっきく、なってる……?」
閉じた目を再び上げながら、少しふやけた声で問うてみれば。
「……ごめん、ちょっとムラムラしてきたかも」
開けっ広げな言葉の割に、相も変わらず神妙な表情をした華花の顔が、さっきよりもずっと近くにあった。
「……ふぅ~ん……」
探求心に押されて前のめりになっていたものだから、華花は双丘を挟んで蜜実の視界の下側に位置している。
半ば見下ろすような視点から見えるのは、うつむき加減な凛々しいかんばせ、上二つのボタンが開いたお揃いのパジャマ、白く細く綺麗な首筋。
何も阻むもののないその光景を見た瞬間、蜜実の頭の片隅で、ぱちりと小さな音が鳴った。
「……そっかぁ~……」
壁にもたれていた身を起こす……いやむしろ前に倒れ込むようにして、華花をベッドに押し倒す蜜実。
性急さのないゆるりとした攻勢は、けれども確かな重力に従って、抵抗の余地を与えず華花を抑え込んだ。
「……あぇ、みつみ……?」
背と壁のあいだに挟んでいた枕が静かに落ちたその時にはもう、二人の身体は折り重なっている。
押し倒される瞬間も、華花の手は蜜実の胸に当てられたまま。となれば当然、押し倒された後には、その両手は二人の胸のあいだに挟み込まれてしまっていた。
「わたしも、ちょぉっと、むらむらしてきちゃったかもー」
ちょっと、少しだけ、弱火程度に。
そんな枕詞の通り、常以上に緩やかな動きで、蜜実は唇を近づける。
まるで献上するかのように眼下に敷かれた、華花の首筋へと。
両手で頭を抱え込めばもう逃れようもなく、ますます密着した体の真ん中で、華花の指が期待に小さく蠢いた。
「これって、華花ちゃんのせいだと思うんだけどー……」
「……ぁぅ……」
触れる寸前で止まった唇が、意地悪な吐息で肌をなぶる。
探求だなんだと言っておきながら、邪な言葉を吐いた不届きものに。
華花の心に、火を灯すように。柔く緩く、蕩けるような静かな熱を生むように。
「どうかなぁ……?」
「……ぅ、ん。私のせい、かも……」
蜜実のそれよりもさらに小さくか細い声で、華花が答える。
言いなりのように見えるけれど、大丈夫。
少しだけ、少しだけぼぅっとし始めた思考の片隅で、手のひらに覆いかぶさる蜜実の柔らかさと、手の甲を支える自身の感触の差を楽しむくらいの余裕はある。
そう、これは余裕だ。決して、包み込むような蜜実の身体に呑まれているわけではない。
「……じゃぁ、責任取って、貰わないとねぇ……?」
だから、蜜実の好きなようにさせてあげよう。そうしよう。
「……うん……」
肌をくすぐる吐息に促されるようにして、華花はゆっくりと目を閉じた。
咎に相応しい罰を待つほんの数秒が、こんなにももどかしいだなんて。
「ぁぁー……かぷっ」
「ぁ、ぁ、ぁ……」
首筋を優しく噛まれる甘い痺れから、どうやったって逃げられないこの永遠が、こんなにも気持ちいいなんて。
「……あむ、はむっ……、はぁっ……ほぉら華花ちゃん、ごめんなさい、は……?」
「ぁ、ご、ごめんなさい……、みつみ、を……んっ、やらしい気分にさせちゃって、ぇ、ごめんなさい……」
優しく理不尽な責め苦。
強いられる謝罪の言葉。
或いは、仮想のセカイで屍人としての主従を謳歌し過ぎたせいか。
誰が主人かを分からせられる犬歯の感触に、華花の心は、またしてもあっさりと屈服してしまった。
次回更新は1月6日(水)18時を予定しています。あいだが開いてしまい申し訳ありません。
今年も一年、本作にお付き合い頂きありがとうございました。よろしければ来年もまた読みに来て下さると、もの凄く嬉しいです。
それでは皆様、少し早いですが、よいお年を。




