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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
春 百合乃婦妻が出会ったら
12/326

12 V-お嬢様、踏み出す


「では、まず初めに、MMOを遊ぶうえでいっちばん大切なことを教えます」


「は、はいっ」


 珍しく真面目な表情をしている蜜実……ミツの言葉に、少し上ずった声で返事をしてしまう麗。


「それはぁー……はいっハーちゃん!」


「知り合いを本名で呼ばないこと」


「でーす!」


 身バレ防止、大事。


「なるほど」


 そこはしっかり気を付けねばなるまいと、麗は深く心に刻み込んだ。


「なのでノーラちゃん。こっちでは、わたしのことはミツ」


「私はハナって呼んで」


 麗改めノーラに向かって、ミツとハナは揃ってこちらのセカイでの自己紹介をし。


「あたしはフレアでヨロシク」


 少しゴツめのプレートアーマーに身を包み、大剣を背負った未代、もといフレアもあとに続く。


「はい、改めまして皆さん、よろしくお願い致します」


 そんな三人に向かってノーラは、地に着かんばかりに長い深緑色の髪を揺らしながら、質素な初期装備(レザーアーマー)に見合わないほどの、優雅なお辞儀をして見せた。



「しかし何と言いますか……本当に凄いですね、このセカイは」


 今四人がいるのは、最大自由都市『フリアステム』。

 元々は初期リスポーン地点の小さな町だったものが、有志のプレイヤーたちによる整備・拡充によって、特定の思想に依らない都市としては最大規模にまで発展していった場所である。


 初心者から、それこそハナとミツのような廃人まで、様々な層のプレイヤーが集うゲーム内でも有数の大都市。元の町の面影を残した中世ヨーロッパ調(のRPG風)の町並みの中に、様々な種族や格好の人々が行きかう様はまさに自由、或いは混沌とも呼ぶべき様相で。


 それがとんでもないリアリティでもって眼前に広がっているのだから、ノーラが感嘆の声を漏らすのも当然のことであろう。


「あはは、それさっきも言ってたじゃん」


 現実(リアル)とは逆の位置で結んだオレンジのサイドポニーを揺らしながら、フレアが笑う。

 一足先にログインした彼女とチュートリアルを終えたノーラは、ハナとミツが来るまでのあいだ、ひとまずハロワの世界観に浸っておこうと、街中をぶらぶら探索していたのである。


「そ、そうでしたっけ?」


「まぁ、始めたての頃はびっくりするよねー」


「始めたての頃、か……」


 ミツの言葉にハナは、自身がこの地に初めて足を踏み入れた時のことを思い出す。

 チュートリアルを終え、開けた視界の中心に立っていたのは、この美麗なセカイよりもなお美しい――


「あーハイハイ。そういうの今いいから」


 ――回想終わり。


「んで、ノーラは戦闘とかもしてく感じ?別にこのゲーム、戦ったりしなくても全然楽しめるけど」


 まずは基本方針を定めるべく、何をしたいのかを問いかけるフレア。戦闘か、生産か、はたまたそれ以外か。


「折角ですし、魔法?だとか、その辺りのものを使ってみたいとは思っているのですが……」


 先の実習のリベンジ、ひとまず戦闘を経験してみて後は追々と、ノーラは考えていた。


「だったらとりあえずは、杖を装備しておけば良いんじゃない?」


「杖、杖、と……なんだか、鈍器のようにも見えますね」


 アイテム欄から取り出したその武器……初期装備として配布されている杖は、木の枝のような細長い形状ではなく、指先から肘ほどまでの大きさの、メイスに近い見た目をしていた。


「鈍器としても使えるよー」


「使えるんですか!?」


「このゲーム、それこそどんな物にでも攻撃判定があるからねー」


「どんな物にでも?」


「うん。タンスの角で小指殴ると、初期状態ならHP一割くらいは減るんじゃないかしら」


「それはまたリアルですね……」


「イヤイヤ、タンスの角で殴るってどういう状況なの……」


「あとー、紙で指先をしゃーっと」


「ぎゃあぁぁぁ聞くだけで痛い!!」


 おもむろに、フレアの精神にダメージが入った。


「知り合いの教祖様は女神像で殴ってくるし」


 小さな聖母像的なものを持って殴りかかってくる修道者を想像し、思わず苦笑するノーラ。


「それは、何というか不信心なのでは……?」 


「女神様公認だから大丈夫だよー」


「許可おりてるんかい」


 今のは許可が下りる(・・・)と神が下界に降りる(・・・)をかけた、フレアの超絶激うまジョークだったのだが、残念ながらその場にいる誰にも伝わることはなかった。


「まぁ杖って言ってもいろんな種類があるし、そもそも別に装備してなくても魔法使えるから」


「おいおい好みの武器を見つけて行けば良いよー」


「そうなんですか?」


「そうそう。このゲームってさ――」


 [HELLO WORLD]にシステム上の『職業(ジョブ)』の概念はない。

 プレイヤーは得られた経験値を元にステータスを自由に割り振り、望むスキルを習得、時には作り出し、好きな装備を身に纏って戦う。或いは一切戦闘などせず、やりたいことをやりたいようにやる。経験値の入手手段はごまんとあるのだから。


「極論、両手に馬鹿でかいハンマーを担いだゴリマッチョ魔法使いとかにもなれる」


「いえ、さすがにそれはちょっと……」


「ステ振りどうなってんのさそれ……」


「STRとINT極振りー?」


「馬鹿かな?」


 だが、そんな最高にインテリジェンスな馬鹿がきっとどこかにいる。それが[HELLO WORLD]というゲーム(セカイ)であった。


「取りあえず、初期ステはINTに多めに振ってー」


「インテリジェンスに、と…………」


「スキルツリーから初級の魔法いくつか取る感じかな」


「スキルツリー……す、凄くいっぱいあってよく分からないですね……」


「ここでソートして、うん、そうそう――」


 スキルツリーは全プレイヤー共通で、かつ新たに生み出されたスキルも全てその中で体系化される。

 つまり理論上、どのプレイヤーも全てのスキルに触れられる可能性があり、また、新たなスキルが生成された場合は、その存在が即座にゲーム中に知らしめられるということでもある。


 ゲーム開始から七年超という歳月によって膨大な数に膨れ上がったスキルは、これからも無限に増え続けていくことだろう。


「よしっ、できました!」


 慣れない操作にやや苦戦しながらもノーラは、いよいよもって『ノーラ』としての一歩を踏み出した感覚に、顔を綻ばせる。


「とかなんとかやってる間に丁度、街の出入口にも着いたし」


「早速リベンジ行ってみるー?」


「え、いつの間に!?」


 ノーラの方針を聞いた時から、元よりそのつもりで町の外へと向かっていたのだが。当の本人は、ゲームの説明やステ振りに夢中だったためまるで気付いていなかったようで。

 顔を上げ視界に入った巨大な門に、本日何度目かの驚きを示した。


「ここは最初の街だからさ。外にいるモンスターも強くないしイケるって!」


「な、何だか緊張してきました……!」


「それこそリベンジにはちょうどいいしねー」


「うん、チュートリアル用の例のアイツだから」


 ミツとハナのその言葉で、ハロワ歴の限りなく浅いノーラも門の外に何がいるのか見当が付いたようで。


「……よし!わたくし、頑張ってみます!」


 友人たちの激励と共に、街の外へと繰り出した。



「わぁっ……!」



 そこに広がっていたのは、広く広く、どこまでも伸びる草原。

 実習で見た光景と同じようでありながら、今度こそこの景色は果てなく広がっているのだと、ノーラは直感的に理解する。


「すごいっ!!」


 街中とは違う吹き抜けるような自由に、このセカイに来てよかったと、彼女はは心の底から思い。


「さ、ほら!にっくきアイツらをボコしてやろっ!」


「はいっ!」


 その反応を見てフレアは、連れて来てよかったと、心の底から思った。




「えいっ!」


 ぼこぉ。


「やぁ!」


 ぼこぉ。


「たぁー!!」


 ぼこぉ。


「いや殴るんかい!」


 ノーラは イノシシを なぐりたおした!!


 次回更新は11月24日(日)を予定しています。

 よろしければ是非また読みに来てください。

 あと、感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告などなど頂けるととてもうれしいです。

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