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百合乃婦妻のリアル事情  作者: にゃー
秋 百合乃婦妻とお祭り騒ぎ
105/326

105 R-遅れてきた思春期?

 いつも拙作を読んで頂きありがとうございます。

 突然ですが今月中の期間を使って、作品全体の誤字、脱字、表記揺れその他の修正作業を行おうと考えております。

 この作業に伴う更新頻度の変更等はありませんので、今後もまったりゆっくり楽しんで頂ければ幸いです。

 活動報告の方でもアナウンスさせて頂いておりますので、詳しくはそちらをどうぞ。


 三年一組の出し物は元々、最初から最後まで和風を貫いたお化け屋敷となるはずだった。


 しかし、その中核を担う生徒の持つ厄介な性質が、早々にその計画を頓挫させることとなる。


 その生徒――初対面の内五人に一人が幽霊ではないかとの疑念を抱く隠れ美少女、槻宇良 卯月は、しかしそのおどろおどろしい雰囲気を、仮想の世界に持ち込むことが出来なかったのである。


 大人し過ぎるほどに大人しい現実世界での卯月と違い、仮想世界での彼女は、それはもう弾けに弾けまくっていた。


 テンション、態度、語尾を照らす☆、そのどれもがオンオフの効かない暴走状態の発露であり、例え舞台がうら寂れた古屋敷であったとしても、そのハイテンションっぷりが揺らぐことはない。



 無論、クラスメイトたちは頭を抱えた。

 どんな役を宛がっても、彼女はちっとも大人しくしていないのだから。


 鏡の中の影をやらせてみれば、狂ったように踊りだす。


 障子の後ろに潜ませてみれば、片っ端から指で穴を開け初め。


 ならば市松人形はどうかと言えば、人形のくせに無駄にセクシーな挙動でウィンクを飛ばしまくる。


 床の軋みでビートを刻み、庭の池はナイトプールに。



 どこに配置してみても、彼女という満月が陰ることはなかった。

 ……いや、どれもそれはそれで恐ろしい光景ではあるのだが。


 何にせよ、仮想世界での卯月を和風ホラーなどというお淑やかなジャンルに押し込めることなど到底出来はしなかった、という話であり。


「やぁーごめんねっ、自重出来ないおねーさんでっ☆」


 満面の笑みを浮かべながら悪びれずに言う彼女を、誰も責めることが出来なかったのは、ひとえに顔が良かったからであろう。


 そう。

 何せ、顔が良い。


 前髪で隠していなければ、背を丸めて縮こまっていなければ、卯月はとんでもない美人なのである。

 そんな彼女の、大人びていながらも無邪気な笑みを、どうして責めることが出来ようか。



 そうして、様々な葛藤を抱えた三年一組の生徒たちが、紛糾の末やけくそ気味に出した答えが、


 ――もう彼女の好きにさせてしまおう。


 というものであり。


 言われた卯月が熟考(3秒ほど)の末に選択したのが、物理的に襲い掛かってくるピエロという、あまりにもB級ホラーめいたそれであった。


 アトラクションの最後の最後、ここまでの雰囲気をぶち壊すかのように派手に暴れまわる彼女の姿は結果的に、足を踏み入れた者たちに「なんかヤバい」という雑味たっぷりな恐怖を提供することに成功していた。



 そんな、一つの仮想世界で最強の一角に名を連ねる婦婦をも打倒した卯月最強形態(随時更新)。

 されども、長い廊下の端で相対した未代が抱いた感想は、



 ――センパイ、めっちゃ活き活きしてるなぁ。


 であった。



 道化の姿で高笑いする卯月は彼女に、ハチャメチャな恐怖などではなく、むしろ不気味な館をさ迷っていたらばったり知り合いと出くわしたかのような、安心感すら与えてくれた。


 恐怖心よりも先に立つ、センパイが楽しそうであたしも嬉しい的思考。


 そして、そう思えばこそ。

 このような状況下ですら卯月を卯月として認識できてしまう事の……つまり、自分から卯月への(・・・・・・・・)好感度の高さを自覚してしまった未代の、撲殺される直前の表情は、恐怖ではなく羞恥に歪んでいたという。


 ちなみに、物理攻撃主体のホラーにはめっぽう強い麗が未代の敵討ちも兼ねて卯月にタイマンを挑み、本日初の生還者となった。




 ◆ ◆ ◆




「申し訳ありません槻宇良先輩っ、なんとお詫びしたら良いか……」


 きっちり九十度に腰を折って、頭を下げる麗。


 その謝罪の向かう先は、つい先ほど仮想のお化け屋敷の中でノックアウトしてしまった槻宇良 卯月その人であった。


「……、……っ」


 気にしなくていい、という意図を込めて小さく首を振る卯月だったが……身を縮こませ、前髪で表情も隠しているものだから、対面する麗には、彼女が恐怖で震えているようにしか見えない。


 そんな目の前の光景に加えて、「いざという時に臆せず立ち向かえなければ、護身術は何の意味も成さない」という教えに基づき半ば反射的に()ってしまったこともあって、麗の申し訳なさは留まるところを知らなかった。


 実際には、ピエロな卯月は怯えるどころかむしろ積極的にバトりにいっており、敗北を喫し現実世界に帰ってきたとて、その本質自体が揺らぐことはないのだが。


 それを上手く伝えることが出来ないのが、リアルでの卯月という人物。

 そしてそんな卯月とすら意思疎通が図れるのが、未代というコミュ力お化け。

 勿論、二人の仲が相応に深いからこそ、というのは言うまでもないことだが。


「まぁセンパイも楽しんでたっぽいし、あんまり気にしなくていいんじゃない?ね、センパイ?」


「ぅ、ぅん……大丈夫、だから……」


 あっけらかんと笑う未代の言葉に、今度は首を縦にこくこく振る卯月。蚊の鳴くような小さな呟きに、麗もようやく頭を上げた。


「槻宇良先輩が、そう仰るのでしたら」


「いやぁでも、結構見応えあったよ」


 ゲームオーバーとなってすぐに、未代は観戦モードで行く末を見届けようとしていたのだが。

 超ハイテンションなピエロ(美形)と洗練された武闘派令嬢(美形)の戦いなど、ホラーというよりむしろ、殺陣(たて)にだけ妙に気合の入ったB級アクションを見ているようで、それはそれで面白いものであった。


 ――未代さんの仇は、わたくしが取ります……!


 なんていう麗の台詞に、ちょっと(ちょっととは言っていない)ドキッとしてしまったのは内緒だが。

 さらに言うと、自身へ棍棒(バトン)を振り下ろす瞬間の卯月のガンギマリな瞳に、ちょっと(ちょっととは言っていない)魅入られてしまっていたのも内緒である。


「ま、あたしはあっさり()られちゃったけど」


 気恥ずかしい部分は努めて隠し、面白かったと笑顔だけを見せる未代。


 麗も卯月もその様子に、なんだか言葉に出来ない程度の小さな違和を感じはしたものの……まさかあの未代が、自分たちのことを意識(・・)しかけているなどとは考えもつかない。


「いえ、そんな。むしろ最後以外はリードして頂いて、わたくしの方が助かっていたくらいです」


 迎撃出来ない類の怪異が苦手な麗からしたら、一歩前に立ちあのうら寂れた屋敷を先導してくれた未代の背中は、やはりどうしたって頼もしいものであった。


「やっぱり、未代さんは頼りになりますね」


 だから、いつも通り優美な微笑みを浮かべながら、あっさりとそう言えてしまう。


「そ、そう?なら良かった、うん、良かった……」


 何故だか――そう、何故だかこれまで以上に眩しく見えてしまう麗の顔。

 何やら微かに、チリチリと胸を焦がすような感触を覚え、未代の舌は常より少しばかり縺れてしまっていた。


「……未代ちゃん……可愛……かった……」


 卯月の方も、自身(ピエロ)を前に立ち尽くす未代の呆け顔を見られたことで、実は結構上機嫌。

 故にその呟きが、決して難聴系ではない未代の耳に入ってしまうのも、当然のことであろう。


「……ぅ……」


 いつもなら、それはどうもと軽く返せるはずのセンパイの言葉に、上手く反応することが出来ない。


(美人って連呼するたびに恥ずかしがってたセンパイの気持ち、分かっちゃったなぁ……)


 仲が良いと自覚している相手からの飾り気のない賛辞が、これほどまでにむず痒いとは。


「……どうかしましたか、未代さん?」


「……私に殴られて、目覚めちゃった……?」


 鈍感に当てられ過ぎた弊害とでも呼ぶべきだろうか。兎角二人とも、どうせ真意など伝わりもしないだろうと、接し方はいつもと変わらぬそれで。


「や、大丈夫。面白かったなぁって……ね?」


 だからこそと言うべきだろうか。

 今の未代にとっては、何かこれ仲良すぎじゃね?と思うほどに、距離感が近く思えてしまうのであった。


 いや、最初にその距離を縮めていったのは、間違いなく未代の方なのだが。




「……わ、私たちだって反撃アリって分かってれば……」


「そ、そうだそうだー」



 なお後ろの方では、華花と蜜実がごにょごにょと負け惜しみのようなものを口にしていたが……現実準拠のアバターでは、いかな二人といえども、仮想世界での覚醒度が段違いな卯月に勝てたかどうかは微妙なところであろう。



 ――こんな感じの一幕も交えつつ、その後も午後の公演、合間の時間での出し物巡りなど、四人は学院祭の一日目を大いに満喫していった。

 若干一人ほど、未知の感覚に胸中をくすぐられながら。


 次回更新は10月14日(水)18時を予定しています。

 よろしければ是非また読みに来てください。

 あと、感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告などなど頂けるととても嬉しいです。

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