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白い花 ~忘れないで~

作者: 飛沫

家族と考えた合作です。

楽しんで頂けたら嬉しいです。

「コクゴ! ノート!」

  甲高い声が玄関に響く。

「あ! そうだった!」

  (かえで)は履きかけた靴をポイと脱ぎ、走って部屋に戻る。

「……行ってきまーす!」

  慌ただしく出ていった。バタン!とドアが閉まった拍子に、棚の上に置かれた植木鉢の白い花がそっと揺れた。


  白い花。種類は分からない。ずっと昔、まだ楓が生まれる前、家に泊めていたある人が、旅立つ時、お世話になったお礼に…と置いていった物だと楓は聞いている。なんとも不思議な花で、忘れ物を叫んで教えてくれるのだ。

楓はその超常的な現象をあまり気にしていなかったが、人が頭の奥では必要だと分かっていながら思い出していないことを花が探知し、教えてくれているのだろうとなんとなく思っていた。


  そそっかしく何かと忘れ物が多かった香山家だったが、この花を玄関に置くようにしてから非常に助けられている。

  父の出掛ける際、花は叫ぶ。

「スイトウ! スイトウ!」

 母が靴を履こうとすると、

「ハンカチ! ハンカチ!」

 妹が登校する時、

「カサ! カサ!」

  忘れ物はなくなり、皆安心して生活していた。


  白い花と過ごす平穏なある日。

  連日仕事続きで疲労がたまっていたのだろう、父は朝ふらりと起き上がると青白い顔でそのまま仕事へ向かおうとした。

「ちょっとパパ、大丈夫?」

 家族の心配をよそにふらふらと玄関へ行き……。

  不安げに見守る皆の耳を、甲高い声が貫いた。

「イノチ! イノチ!」


  突然のことだった。夜のうちに、心臓が止まっていたという。苦しまずに済んだのだろう、死んだことにも気づかず、父は仕事に行こうとしていたのだ。


  落ち着いてから、このまま鉢植えにしておくのは酷だということで、家族は白い花を庭に植え替えた。父の死の衝撃は大きかったものの、徐々に日常を取り戻していった。今では花の力を借りずとも、皆忘れ物も少なくなり、自立して生活している。

  日々の生活に追われ、皆が一生懸命に人生を見据えている時に白い花は叫び続けるのだ。

「パパ! パパ! パパ!……」

ご意見、ご感想等お待ちしています!

どんなことでも構いません。今後の参考にさせていただきます。

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