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マジック・F  作者: kingyo
1章 入学編
3/3

2 涙のキャンパス 

 真っ白のキャンパス。

 突如そこに、ベッドに横たわる1人の女性が浮かびあがる。

 桜色の唇。長く、そして少し茶色がかった長めの髪。年齢は……15歳くらいだろうか。雪のように白い肌。優しそうな瞳。でも、なぜかそこには涙を(たた)えている。

 その光り輝く涙は、とりとめも無くあふれ出す。そして、それに呼応するかのように微笑んでいた口元も歪んでいく。

 次第にキャンパスは涙で埋め尽くされ、彼女の姿はぼやけていく。


 ――ねえ。どうして泣いているの?


 答えはない。どんどんキャンパスが滲んでいく。


 ――ねえ。答えてよ。なんで、なんで泣いてるの? 泣かないで……。泣かないで……。


 言い終わったときには、もうキャンパスには何も描かれてはいなかった。そこに彼女の影はなかった。彼女の流した涙すら、無かった。


 そこにあったのは、「大切な何かが無くなっていく」という後味の悪い感覚だけだった。



 ◆◇―◇◆



 光を感知した俺が、瞼を開けるとそこには、想像を絶する光景が広がっていた。

 

 俺の視界には、どこまでも広がっているであろう広大な森があった。いや、本当に森なのかは分からないが、どこまでも木が連なっていた。

 生い茂る木。そこに差し込む木漏れ日。その全てが美しく――そんな陳腐な形容詞で表現できるかは分からないが――整合性が保たれていた。まるで絶対的な力を持つ何者かが想像したかのように、雑草の1本1本に至るまで調和()()()()()気がしてならない。

 木陰に座っている俺は、ふとそんなことを思っていた。いや、()()()()()()()のかも知れない。それでも、「どこか安心する」ということだけは紛れもない事実だった。どこからともなく聞こえてくるせせらぎの音。かすかな自然の香り。そして葉の擦れ合う音。その全てが、疲れ果てている俺を優しく包み込んでいくように……。

 


 俺は運悪く通り魔に遭い、命を落としてしまった。そうと仮定するなら、必然的に、「ここはどこか」という疑問が湧き出てくる。俺がひねり出した、可能性として考えられるのは3つ。


 1つ目に、死後の世界、すなわち天国(俺の善行とこの美景から地獄の可能性は排除された)であるという可能性。この場合は、地球で死んだ全ての善人がこのような状況に陥っているということだ。そう考えると笑えてくる。

 2つ目に、何らかの因果によって俺を死んだと思わせている可能性。つまり、ここは地球上のどこかということになる。もしそうなら、俺を騙した奴を本当に殺したいが。

 最後に、別の世界である可能性……。転生、というのだろうか。とにかく死んだことによって別の世界で生まれ変わっているということだ。つまり、この体は「立花颯真」ではないということになる。もしそうなら、これから相当苦労することになるだろう。


 以上の3つの内、まず1は違うだろうと考えていた。先入観ではあるのだが、「天国」というのは現実ではない幻に包まれた場所であると思う。そのため、このようなリアルな質感は感じられないのではないか、と漠然と考えた。

 また、2つ目も違うなと、これは確信していた。なぜなら、地球にこのような場所があるとは到底考えられないからだ。地球にいた頃よりも鮮明に、五感が「今」を描写している。この柔らかい光に包まれた風景がもし、地球に存在するならばぜひ行ってみたかった。だが、水の惑星には失礼極まりないが、そんな場所があるはずがない。これは違う世界のものだ、と俺は感じていた。



 ――すなわち、ここは異世界である。というのが俺の考えだ。俺はもう立花颯真ではないのだ。



 そう思った瞬間、俺の体から何かが抜け落ちていくような感覚を覚えた。しがらみ、というのだろうか。今までの生活から解放されたのだ、という高揚感に俺は包まれた。

 俺が地球にいた頃は、「今のままでも十分」と思っていたが、今の感情は別格だ。自分に煩わしくまとわりつくものはもう何もない。俺は自由だ。


 

 適度な興奮とともに、俺は立ち上がった。すると、体のいくつかの場所に違和感を覚えた。具体的には、数センチほど身長が高くなっていたり、数センチほど身長が高くなっていたり、数センチほど身長が高くなっていたり。俺は転生したことを確信した。

 服はそのまま。制服だ。この森の中で一人制服。違和感しかない。それでも誰も見ていないからと割り切って記念すべき一歩を……。


 そのとき、まさにそのときだった。


「グ……グギャァァァァァアアアアアアアア!!」


 この森の雰囲気が豹変した。俺の脳を破壊するような、どす黒いという言葉の似合う鳴き声が聞こえた。そして、


「ダダッ ダダッ ダダッ ダダッ」


 足音が聞こえる。だんだんと足音は大きくなる。先ほどの鳴き声はこの足音の主のものなのだろう。


「ダダッ ダダッ ダダッ ダダダダダッ!」



 ――その音の主は、俺の目の前にいた。銀色に光る刃を(たずさ)えて。

初めまして、kingyoです。

お読みくださりありがとうございます。

評価とか感想とか貰えたらテンション爆上がりします。

よろしければ、是非!!

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