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あなたの青に

作者: 151A



 徹夜でラブレターを書いていたお蔭でゴミ箱は飽和状態、床は丸めた紙が散乱しているしお肌の調子もすこぶる悪い。

 本当はあなた好みのナチュラルメイクにする予定がくっきりとついた目の下の隈と、荒れてくすんでいる肌を隠すためにリキッドファンデーションを使わなきゃならないなんて。


 どこまでも私はついていない。


 今時ラブレターなんて流行らないことしようなんて思いついた昨日の私をベランダから逆さに吊るしてやりたいくらいだ。


 なんて爪を噛んでいる間も時間は容赦なく過ぎていく。


 ああ、もう。

 バカな私。


 せっかくネイルサロンで綺麗に整えて薄いパールピンクで可愛くしてもらったのに。

 もったいないことを。


 憧れの陶器肌も手に入らなければ、女性らしい愛らしさも手が届かない。


 私が人に自信を持って誇れるのはあなたへの情熱だけなのだ。

 それだけでもいい。


 ほら見て。


 手編みのレースが襟についた可愛らしい菜の花色のワンピース。

 この日のためにアンティークのお店で奮発して買ったやつ。

 袖のゆったりとしたドレープもハイウェストできゅっと絞られたボリュームのあるスカートも実際より私を華奢に見せてくれる。


 着圧効果のあるストッキングを穿けば裾からほんの少しだけ見える脹脛も足首もきゅっと引き締まって自分の脚じゃないみたいだ。


 昨日ヘアサロンで入念にトリートメントしてもらった髪は編み込みで結い上げて。

 ここでのポイントはキラキラとした髪飾りもリボンも使わないこと。


 リップは自然なピンクを選択。

 はみ出さないように気をつけて。


 うん。

 いいんじゃない?


 鏡の私ににっこり笑って頷く。


 おっといけない。

 もうこんな時間だ。


 最後にこれだけは忘れないでつけていかなくちゃ。


 サイドテーブルの上に置いていた紺色の小さなジュエリーケースから純白に輝くパールのイヤリングを取り出す。


 窓から差し込む光を照り返す淡い輝き。

 ドキドキしながら耳朶につけるとふるりと揺れて。


 その確かな重さと存在感にしばし恍惚となる。


 ああ。

 失敗したかもしれない。


 リップは赤い方がそれっぽかったかも。


 ううん。

 でもいい。


 赤はいつもつけているから、こっちの方がいつもと違ってずっといいはず。


 さあ。

 深呼吸して。


 後は玄関で青いハイヒールを履けば完璧。


 鞄の中を最終チェック。

 財布とスマホ、ハンカチとメイク直しの道具が入ったポーチ。

 それから入場に必要なチケット。


 おっと。

 大事なものを忘れてた。


 机の上のラブレター。


 ちゃんと入れて。


 準備はOK!

 気合は十分。


 さあ行くわよ。


 今からあなたの元へ。


 深い深いその青は誰もが惹かれて恋に落ちる。


 あなたに夢中な私はあなたに包まれ息もできぬまま溺れるのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 恋をした女の子が想いを成就させるため念入りに準備を行う様子を文字化するだけで、短編が一作できるのですね。 これだけの準備をしてから好きな人に会いに行くのですから、恋人同士に…
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