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クラブ ドゥ シエスタの昼下がり

作者: 阿久津 慶子

フリーワードは会員制、クラブ。ハローワークの求人サイトで、この二つの単語で曖昧検索をかけてみたら、気になる求人案件が見つかった。仕事の内容は、会員制紳士クラブでの、接客その他アシスタント。留守番的な要素も含まれる。

 補足:視察をして情報を集めていただくこともあります

 資格:一般的なパソコンスキル(ワード エクセル パワーポイント)

 英会話に英文メール必須、フランス語が出来れば尚可

ワタクシ、目下、失業給付金を頂きながら、就職支援学校に通い半年間のビジネス英語講座を受けているのだが、給付期間は残すところ一か月になる。寝しなに求人サイトを見ていたら遅くなってしまった。明日、この求人に応募しようと思う。私はバイリンガルではないが、春に受けたTOEICは大台の800点を越えることができた。この会社の代表者名はカタカナでミッシェル・デュポンとある。先に資格の欄で、フランス語尚可ということだし、彼はフランス人だと思う。従業員の数は、現在二名で、今回募集の勤務地の従業員は一名となると。サイトで見られる詳細はここまでだった。


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 フリーワードは会員制、クラブ。ハローワークの求人サイトで、この二つの単語で曖昧検索をかけてみたら、気になる求人案件が見つかった。仕事の内容は、会員制紳士クラブでの、接客その他アシスタント。留守番的な要素も含まれる。

 補足:視察をして情報を集めていただくこともあります

 資格:一般的なパソコンスキル(ワード エクセル パワーポイント)

 英会話に英文メール必須、フランス語が出来れば尚可

ワタクシ、目下、失業給付金を頂きながら、就職支援学校に通い半年間のビジネス英語講座を受けているのだが、給付期間は残すところ一か月になる。寝しなに求人サイトを見ていたら遅くなってしまった。明日、この求人に応募しようと思う。私はバイリンガルではないが、春に受けたTOEICは大台の800点を越えることができた。この会社の代表者名はカタカナでミッシェル・デュポンとある。先に資格の欄で、フランス語尚可ということだし、彼はフランス人だと思う。従業員の数は、現在二名で、今回募集の勤務地の従業員は一名となると。サイトで見られる詳細はここまでだった。

 

 この冬から通っている就職支援クラスは、文科省の委託を受けて、開講されている。新宿駅ビルの2フロアを占める民間のビジネス予備校の中にある。インスタントミルクコーヒーとジャムバタートーストの朝食を済ませ、9時になる少し前を見計らって、学校に電話した。ハローワークに行くので今日は休む、と言うと、ビジネス英語クラスの世話係パート婦人は、快く許可してくれた。ハローワークの相談窓口で、ハンコをもらって明日提出してねと、どんぐりが話しているような声で言った。就職支援の受講生が、在校中に職に付けば、文科省に顔がたつのだと思う。

 身支度をして、顔におしろいをはたき、鍵を閉める前に窓をあけてみた。アパートの窓の外には、スダジイの樹が一本立っている。去年の夏、仕事をやめて、年末年始は一人でスダジイと過ごした。失業期間中は、予想以上に充実したが、このままではいられない。新宿にもハローワークはあるが、今日は遠出して飯田橋に向かう。飯田橋オフィスは特別で、東京在住の外国人労働者向け相談や、外国人雇用主へ英語で連絡できる相談員がいるからだ。高田の馬場へ向かう電車に乗り、ドアのそばに立った。雑多な街並みが、流れていく。会員制クラブといって思い浮かぶ名前は、ロータリーにアメリカンクラブ。昔、大阪のローカルCMでエスカイヤクラブの宣伝があった。バニーガールのいる会員制レストラン。ポロロポロと夜空に響く鉄琴の音。大人の社交場、憧れたものだ。けれど、今はもう、パチンコ屋やら金貸しなど金にまみれた掲示板が車窓の向こうで翻っている。ハローワークの案件だって、公共のものだから安心かといえばそうでもない。

 高田馬場から、地下鉄の東西線に乗り換えた。電車は暗闇に進んでいく。例えば、去年の冬に、気になる案件があって、新宿のハローワークに出向いたことがあった。相談員の女性の顔は思い出さないけれど、あの表情だけ覚えている。彼女は求人詳細をパソコンで見ると、目を泳がせ、「この案件はやめておきましょう」と言った。あれは事故求人だったに違いない。業務内容は秘書で、今回と同じく、一人業務、月収が30万円というのも魅力だった。応募不可に至った理由は聞かなかったが、あの求人は経営者が恐ろしいかセクハラか、どくろマークがついていたのだろう。今回応募の会員制クラブの給与は、試用期間中は時給1200円、交通費は実費で支給。社員登用後は、社保込みで給与が25万円程度とのことだから、事務系の仕事としては良いほうだが、一般的な条件だとは思う。


 飯田橋の高架下は、大型トラックが行きかって、もわもわとした生ぬるい空気が充満していた。私は、水色のペンキが塗られた鉄橋の向こう側に立つビル、ハローワーク飯田橋の横文字を確認すると、階段を上った。鉄橋の向こうから、私よりは若いが、もう20代ではなさそうな青年がふてくされた様子で歩いてきて、空き缶を蹴った。飲料水の空き缶は、しょんぼりと転がり、くぼみに落ちていくのを眺めながら、このお兄さんも、浮かばれない求職者なのだろう、と余計な決めつけをしてしまう。ビルの前で、手鏡を出して、リップクリームをひきなおした。

 13010-99872021、求人番号を控えていたメモを相談員の男性に渡すと、彼はメガネを持ち上げて、ゆっくりとテンキーを押した。メモを高いところで手に持ち、PC画面と照らしあわせ、エンターキーを押した。きっと引退前は、部長職くらいまで勤め上げたのだろうと察する。物腰が柔らかい方で、ほっとした。

「この求人はねぇ、今のところ、応募者は7人、内、面接まで進んでいる方が3名です。で、あなたの経歴ですが、ハローワークカードはお持ち、かな?」

 私は膝に置いていたクリアファイルをデスクに置いた。

「私のハローワークカードです」

「では、ちょっと失礼して」

 彼は、はがきサイズのカードに書かれた私の求職番号を、また、ゆっくりと入力してエンターを押した。

「春にTOEIC835とられたのですね。接客経験は8年、事務経験も5年ほどあると」

「事務の仕事は、いつも大きな会社で派遣雇用でした。派遣はもうやめようと思いまして、今は、就職支援の学校で勉強させて頂いています」

「うん、分かりました。では、このオフィスに電話してみましょうかね」

 彼は、デスクトップの横に置かれた、電話の受話器をあげると、ダイヤルを丁寧に押した。4コールくらいで、ハローと言い、話し始めた。応募のチャンスはまだあるのか聞いている。あいづちを打ちながら、オーケー、オーケーと言い、それから、バーイで受話器を明るく置いた。私が、伏せていた目を上げると、

「会社のアドレスに、英文でレジュメとジョブヒストリーを送ってくださいって。あなた、この仕事に受かるといいね」

 それから、求人検索サイトでは公開されていなかった、会社名とメールアドレス、面接地の地図の書かれた紙を頂いた。


 2

 面接は帝国ホテルのオフィス棟にある事務所で行われた。帝国ホテルのオフィス棟をHPで調べてみたら、8階にインクワイリコンサルタンツと記載されていた。面接時の言語は、英語かフランス語ということで、英語で話す心得で来たが、自信はない。アイボリーの扉をノックし、最初に現れたのは日本人女性だった。この前、履歴書を送ってから、面接の案内で電話やメールをくれた人だと思う。辛坊さんという名前で、背が高く、長いスカートをはいている。髪も長いが、前髪は切りそろえていて、サイドを髪留めでとめている。地味ではないが、張り切った雰囲気でもなく、波長が合うように思った。辛坊さんが、すぐに奥の扉をたたいたら、Come inという英語が聞こえてきた。辛坊さんは、どうぞ、と言ってにこりとして、私が入ると扉をしめた。

 Nice to meet you、グレーのスーツ姿のムッシュ、ミッシェルを前にして、お辞儀した。ミッシェルは奥の事務机から、私が送ったレジュメ一式を持って応接セットに移動し、私に座るように言った。以下の会話は直訳したもの。

「このオフィスはすぐに分かりましたか?」

「はい、インペリアルホテルのレストランに二回来たことがあります。今日はずいぶん早く着いたのでホテル棟のロビーにいました。以前と変わったので、少し驚きました」

「オフィス棟が建てられて、ここにオフィスを移し、便利になりました。私の日本滞在中はいつも帝国ホテルを利用するので、ボン、では、始めましょうか。自己PRをしてください」

 ミッシェルは、聞く構えを見せた。

 

 先週、面接の連絡を頂いてから、考えた。実際、働いてきて、私に自己PRできることなんてないと分かった。詰めが甘くてお人よしなせいで、グループの中で働くと、なめられがちだ。団体ワークに疲労困憊。忘年会のあとカラオケに行けば、一目置かれるようになるのだが、そんな話をアピールしてもなんにもならない。実際、私は歌唱力があるのではなく、ヘタウマがうけるだけだ。事務員としての方針は、仕事を計画的にすすめること、整理整頓して効率よくすすめること、無理なことがあればはっきり伝え、相談し問題点を改善していくこと。これらを経験上、実践できることが私の強みです、いかがだろうか?


「トレビアン、接遇についてはどうですか」

 土日に考えたこと、日本人向け接遇業務に関して、私のモットーは、でしゃばらないこと。put myself in customer’s shoes.というそうだ。出しゃばりも同じくグーグル翻訳で調べたのだけど、ネガティブな単語なので、控えめのmodestと柔和のsoftを使用した。ミッシェルは聞き終わると、君の英語と雰囲気はナチュラルで、いいですねと言ってくれた。私は、にっこりした。応接室には、背の高い観葉植物があって、半開きのブラインドからこぼれる日差しを受けて、ミッシェルの瞳は青色だ。

 それから、具体的にPCと語学スキルの話をした。他に、私がこれまで、派遣で英文事務の仕事をしていたときの派遣元の社名を聞かれた。人材会社は、テンタティブスタッフとインテリムサービスだと答えた。

「アンテリムは暫定的の意味。君はここで長く勤務できると思いますか?」

「そう希望しているので、今回こちらに応募しました」

 ミッシェルは、サロンが開始した頃、バカンスに入るそうだ。バカンス中も、ビジネスメール連絡は休まないので、簡潔で明らかな報告書を送ってほしいと言った。それから、私の休暇についても気にかけて、何かリクエストがあれば、調整するが、一か月の試用期間後になるとのこと。

「あなたが休みにやりたいことは?」と、最後の質問。

「趣味は、湘南のサイクリングと、歌うこと、カラオケボックスで、一人でです」

「一人で?孤独が好きなのですか」

「孤独は結構好きですが、たまには誰かに私の歌を聞いてもらいたいものです。あまり上手でないのですけれど」

 ミッシェルは、くすりと笑い、下の者に対する柔らかな表情になった。今度はミッシェルが話し、私は待遇をおおまかに聞き、細かいことは、経理担当のベニコから説明するとのことだった。ベニコさんは辛坊さんのことだ。それから、ミッシェルは立ち上がり扉を開放すると、言った。

「ベニコ、ヨリコをクラブに案内してください。あなたの業務は守秘義務を要するので、君の信用情報を調べます。問題がなければ採用としたい。クラブを見てから、このオフィスで働くかどうか、あなたの返事を聞かせてください」


3 

 就職学校の講座は、6月いっぱいで終わる。6月に入ってからは、ビジネス英語の授業は終わり、中途退職者向け面接のコツの講義で、つまらなかった。学校にいる午後3時ごろ、採用の連絡があり、その日の講義終了後に、講座退会の申し出をした。勤務先名称、インクワイリコンサルタントと一筆書かされた。所属はクラブドゥシエスタ、これが、紳士クラブの名称だ。講座担当のご婦人は、私が退会書類に書いた、社名を見て、何をするところかさっぱり分からないが、よかったじゃないのと、どんぐりみたいな眼差しで見送ってくれた。

 怪しい勤務先かと誤解されそうなので、言わなかったが、私の勤務先名は、日本語にすると、お昼寝倶楽部。(フランス語では、シエスタはシエストゥと発音するが、ここではシエスタで統一させてもらう。)大阪に住む母に電話して、帝国ホテルに本社を構える、きちんとしたオフィスが運営する新しい会員制クラブで留守番的な仕事をすることになってんで、と詳細を話したら、一緒になって喜んでくれるのとともに、ぽつりと心配された。

「ヨリちゃんのほかに誰もいないって、危なくないのん?」

 確かにそうだ。実際、紳士クラブは、都心にそびえる高層の複合ビルをイメージしていたのだが、あにはからんや、辛坊さんに連れられて、目にしたマンションは全体的にひっそりとしていて、昭和のまま置き去りにされたような佇まいだった。共有の郵便ボックスには、ミッシェルの会社名がアルファベで書かれてはいたが、表札は出ていない。守秘義務のため、最寄り駅をここで明かすことはできないが、霞が関、大手町などから、車でほどなく来れるオフィス街に位置し、最寄りの駅からは徒歩12分。緩やかな坂をおりたところの小さな裏通りにある。マンションは、1980年台の新築時は、一億円以上の価格だった。独り者だった持ち主が亡くなって、遠い親戚がようやく見つかって連絡がついた時には、高い修繕費に管理費と税金が5年分たまっていて、相続放棄され、法人のものとなった。ちなみに、相続放棄された前のオーナーが亡くなったのは介護施設で、しかも大往生されたらしく、この物件は事故物件ではない。役人経由で、ミッシェルがシエスタとして使用することとなり、リフォームをして、今後は管理費のみ負担する。


 勤務初日の日は、オープンの準備をする。シエスタの勤務時間は10時から18時。昼休憩は適当な頃合いに、1時間は必ずとるよう言われた。駅周辺には、大きな通信社や出版社があり、ランチには不自由はない。コンビニや弁当販売の店先を通り過ぎながら、大通りを道なりに進んでいった。辛坊さんと来た時、天ぷら屋が見えたところで、左折すると覚えていた。接待専門のような、高い天ぷら屋を曲がると、また、勾配が緩やかに低くなっていく。下っていくと、三本道にでてくる。左に進んで、菓子パンとお米が置かれたお店で右折すると、レンガ造りのマンションが見える、あそこだ。オートロックの玄関をくぐると、管理人のおじさんが、横向きに座って新聞を読んでいた。会釈したら、新聞で顔を隠されたので、何も言わず、エレベータのボタンを押した。エントランスには、応接セットがあり、花瓶の絵がかかっている。住宅使用のマンションだが、館内の共有部は間接照明で家庭的な雰囲気ではない。これも辛坊さんに聞いたのだが、往年の大女優が住まれているとか。エレベータに乗ったら管理人のおじさんが、ちらっと私を見た。ここにクラブがあることは、管理人さんは知っているのだろうか?あとで、辛坊さんに、管理人さんに挨拶したほうがいいか聞こう。

 5階を降りて、雨樋にかけられたキーボックスの暗証番号をあわせた。キーボックスの中に入っているのは2本のカギだ。青い鈴のキーホルダーが3LDK(右側)のもので、赤い鈴が左の1LDKだ。まずは、小さい方の部屋のインターフォンを、念のため押してみた。応答はなく、おそるおそるドアをあけたら、人の気配はなかった。カーテンをあけ、エアコンをオンにした。ここは30平米くらいの間取りで、キッチンの入り口にかかっている昭和風の玉すだれが、私の好みだ。コンポや中型のテレビもある。ここにもお客は来る予定なのか、応接セットの後ろには、コニャックなどの並んだ棚がある。ガラステーブルの上に置かれたノートPCを使用することになるだろう。バッグから、自前の青いエプロンとビニールスリッパを取り出して、身に着け、髪をまとめた。面接の時にも話したが、私は、掃除には自信がある。

 2LDKの部屋の広さは、70平米くらい。今はまだ、キッチンや洗面所はピカピカしているが、毎朝の掃除は、二部屋あわせて1時間半くらいは見たほうがいい。リビングの分厚いカーテンを4枚、開け放すと、レース越しに光が注ぎこんできた。ベランダから階下を見たら、さっきの菓子パンの店が見えた。ベランダはリビングルーム横の独立型キッチンから玄関脇の個室まで、コの字型につながっている。ベランダをくるりとまわって、玄関わきの個室内に入り、玄関に戻って拭き掃除から始めた。玄関から通路は人工の大理石で、壁は白い。広い玄関には、鉢が据えられ、水草が水の中に浮かんでいる。ここに大小のビー玉を買ってきて、いれてみよう。リビングの前に、分厚いガラスの格子扉がある。こちらのソファは隣におかれているものと同じ深緑色の皮製だが、円形で10人くらいは座れる大型だ。リビングの右は独立型のキッチン。左にマッサージルームがあり、ここだけ床が高い。中央に大きめサイズのマッサージ台が置かれている。ミッシェルはその分天井が低いと言っていたが、身長160cmの私には、これくらいの高さが落ち着く。マッサージルームの窓ガラスに、目隠し用の細工か、小さなシールが施されている。赤色や、葉の緑、青いしずくの水色が、表通りの光に反射して、白いブランドのすきまからゆらゆらと、かけっこをしている姿が、時折天井や床の端に見え隠れして、またその姿を変えたりしている。


 掃除はなかなかの労働だった。コードレス掃除機の熱風で私は汗ばみ、ハンカチタオルで額をぬぐった。アイボリーのフローリングは渋みがあるが、実際、光の下、わずかなホコリでも目立ってしまう。ホコリをとって、掃除機をかけて、ワイパーで水拭きをしたので、つやつやしていた。ポットから音楽が鳴って、お湯の用意も出来た。ビールを買ってきて冷やしておこう。キッチンの引き出しに、一万円札が一枚、五千円が二枚、千円が10枚。コーヒー豆は、辛坊さんが棚に入れたのだろう。紅茶もあるし、緑茶も随分よさそうなのがある。冷たい緑茶も作ろうか。大型の冷蔵庫の製氷室に新しい氷は十分できている。

 マンションから歩いて行けるところに業務用のスーパーがある。ビールの配達に合わせ、ビーフジャーキーやチーズ、念のため、冷凍の軽食も買った。それから百円ショップに寄りビー玉を買って、合計4,800円ほど使った。小さな箱寿司屋で、自分のがま口でお弁当を買った。買物用のバッグの中でシエスタの鍵がチリンと嬉しそうにしている。 

 部屋で箱ずし弁当を食べ、そのまま奥様ドラマを観ていたら、ブザーが鳴った。電波時計は14時過ぎ。モニターに顔は映っていない。エントランスではなくて、5階の玄関前からだ。

「シエスタさんですか?」

 おとなしそうな男の人の声だ。

「そうです」

「システムのコバヤシです」

 そうそう、辛坊さんから、聞いていた。ミッシェルが日本で仕事をするときに、御用達のシステムエンジニアさんだ。小林さんというヒト。今週の早い目に、彼が作ったシエスタシステムの試運転と、使い方についてレクに来ると聞いていた。小林さんは、ポケットから、名刺入れを取り出した。

 JJシステム、代表者、小林譲二

オフィスは飯田橋にある。小林さんは私より8歳くらい年上の人、辛坊さんと同世代だ。

「わたし、隣の502に入らせてもらっていいですか?パソコンの作業があるので」

「どうぞ、どうぞ。鍵がいりますよね」

「雨樋にキーボックスがなかったから」

 私はお金の入っているキッチンの引き出しに入れておいた、赤い鈴のキーホルダーの鍵を渡した。


 備品のチェックをしていると、電話が鳴った。隣の部屋もそうだが、このサロンは商用の雰囲気はないが、この白い電話機だけは、オフィス使用のものだ。トゥルトゥルと内線番ボタンが点滅している。隣で作業中の小林さんから呼び出しだった。隣に行くと、玄関に小林さんの黒いスポーツシューズが無造作に置かれていた。靴の向きを整えて、私は裸足で入った。床にてんてんと、ノートPC、周辺機器、紅茶のペットボトルが並んでいる。

「どうぞ、テーブル使ってくださいね」

「ありがとうございまぁす」

 小林さんは、ペットボトルをあけ紅茶を一口含むと、ボトルを依然として床に置いた。代わりに、私が使うことになるノートPCを床からテーブルに戻した。私はソファに座るように言われ、小林さんは立ち上がって、斜め後ろに行き、システムの使い方のレクを開始した。

「IDはyori_kawaで初期パスワードは00001。あとで、パスワードは変えてください。このちょうちょのアイコンをクリックしてください。はい、パピヨンシステムが開きました。まず頼子さんが使うのは、勤怠ボタン、タイムカードの役割です。出納項目で、預かり金の使途を入力して、試しに入力してみましょう」

 小林さんは、すらすらと言った。出納ボタンをクリックしてみる。

「始めに言っておきますが、アクセスは結構遅いです、固まることも覚悟してください、サーバーはフランスにあるので」

「固まった時はどうするのですか?」

「まずは何度か再起動してください、それでもダメなら、僕に連絡してください。フランスのサーバーを一旦リセットします。他にも、インターネットのことなら、どんなことでも、なんだって聞いてください」

 小林さんは親切そうだ。トップ画面には他にも、いくつかボックスが並んでいる。

「この名簿ボタン、会員情報ですか?」

「ああ、でもそこは、まだ頼子さんはアクセスできないんだな」

 残念、紳士情報を検索しようと思っていたのだが。

「スケジュールボタンは大丈夫ですよ。ここを押したら、予約者の氏名と年齢、最低限の肩書だけ分かります」

小林さんは6月7日(金)のタブを押した。

「予約、入っていますよ」

 武藤忠之(56)シンクタンク CEO

 

 4

オープンは金曜日。私は思い切って新調した淡い水色の襟なしブラウスを着ている。夕方、ミッシェル、辛坊さん、小林さんと私の4人で、ここで、私の歓迎会兼オープニング祝いとのことで、内輪だけのソワレをする。約10か月の失業中の私がソワレだなんて、おこがましいが、私自身は質素なもので、手製の海苔弁当を持ってきている。夕方まで、シエスタには私しかいないし、武藤様がお昼寝に来られて、どの時間帯で部屋を出ていいか予想できない。お弁当は、白米の上に鰹節をふりかけ、しょうゆをたらし、海苔をひき、その上に、昨日の残りのコロッケと手製のぬか漬けをのせたものだ。

 シエスタの小部屋の棚に今年の紳士録の本があって、武藤様のフルネームを見つけた。大学はT大で年齢もあっているから、この人に違いない。元省庁の事務キャリア。事務次官の手前で辞任、読んでみても、あまりピンとこない。掃除をすませ有線放送を流し、お弁当を食べかけていたら、ブザーが鳴った。モニターを見ると、ゴマ塩頭のおっちゃんが映っている。

「こんにちは、アタシ、ヤンさん」

 武藤様到着は14時で、マッサージ師も同行とのことだった。まだ早いのに、指圧師のヤンさんが来てしまった。取り急ぎ、食べ始めていたお弁当にふたをして、独立型のキッチンの調理台に置いた。玄関を解錠すると、じきに、ヤンさんが上がってきた。ブザーが鳴っている。はい、今開けます、

「はじめまして、河合と申します」

 白衣姿のヤンさんは、私を見下ろして言った。

「河合のなに子ちゃん?」

「河合頼子です」

「頼子ちゃん、宜しくね」

 白衣姿のヤンさんは私に名刺をくれた。

「安部指圧院、へー、新大久保にあるんですね。私いつも高田馬場経由で来るので通り道です、それに私、マッサージ大好きなんです」

「いつでもいらっしゃい。お店来るは、一時間、大体五千円。スタッフみな上手、強もみも、もみ返しなし」

 ヤンさんは、指圧学校の学長もされているそうだ。両方の長い親指を立ててみせた。ヤンさんのお店なのに、なぜ安部指圧なのか、不明だ。ヤンさんは、中国訛りであると同時にお姉言葉で話す。うさん臭さすぎて、逆に爽やかだ。しかし、武藤様御用達の一流の指圧師だそうだ。

 ヤンさんは、本日使用のマッサージルームを確認してから、応接室のソファにどんと座って、頭を倒し、居心地良さそうに、目を細くして言った。

「いいね、この部屋。毎日来たいわ」

 それは困る。

「ヤンさんは昼食は食べました?」

「アタシ、新大久保で担々麵食べた」

 とりあえず、ヤンさんは冷たいお茶が欲しいというのでお出しした。ヤンさんは一気にグラスのお茶を飲み干して、立ち上がった。自分の部屋であるかのように、キッチンに入り、冷蔵庫から冷やしたお茶を取り出して、トポトポとつぎたしている。ヤンさんは、白衣で包まれた大きなお尻をこちらに向けて言った。

「頼子ちゃん、お弁当食べたのか?」

「そうそう、武藤様が来られるのは、14時ですから、私隣の部屋で昼休憩しています」

「ちょっと待った。この音楽、ダメよ」

 ヤンさんは、指を振り、にんまりとして言った。この部屋の雰囲気にあうと思って選んでおいた有線放送のチャンネルなのだが。

「昼下がりのボサノバチャンネルなんだけど、お好みにあいませんか?」

「だめよ。ムトさん、いつも聞くはクラシック」

 私はチャンネルをかえ、ピアノのソロで止めると、それもダメと。結局、壮大なワーグナー交響楽団のチャンネルに落ち着いた。

 ヤンさんは、自信にあふれ言った。14時に来られる武藤様のことは、長い間知っている。週一ペースで、世田谷のご自宅まで指圧に通っているからだ。武藤様は気難しいお客だが、役人の悪口を言うと大喜びする。だから、ヤンさんは武藤様が土建屋の大物社長と思い込んでいる。武藤様は仕事一辺倒の人でちゃらちゃらした人を毛嫌いするという。今日は、武藤様が来られてお茶出しだけしたら、頼子は退散してほしいと言われた。母が心配していたように他に誰もいない部屋の中、よしんば会員紳士に言い寄られたりしたらどうしようも何も、むしろ先に拒否された。休憩は武藤さんが来られてから、とるように。足湯のお湯がいるわよ、ビールはどこのメーカーか、つまみは何があるのか、玄関にスリッパが出ていない、など、ヤンさんは人使いが荒い。


 14時前に、少し遅れると運転手さんから、電話で一報があった。車で来ることが分かり、先に駐車場前で待機した。じきに黒塗りの車が降りてきて、私はマンションの駐車場のシャッターをあけて案内した。運転手さんは、すんなりと車庫入れさせると、車から出てきた。後ろの扉をあけられ、武藤様が現れた。髪はやや薄くなっているが、艶のいい顔色だ。お待ちしておりました、と言うと、こんにちはと言われ、穏やかな笑みをみせられる。運転手さんは、武藤様が出てこられると、私の方を見て言った。

「ボクちょっと、近場で食事したり、ゲームしたりしているので、出る前に連絡してください」

 彼は私に名刺を渡した。専用車と思っていたら、彼は日本交通のドライバーだ。お抱えの運転手さんにしては大分若い。経済社会に興味のなさそうなだらだらとした運転手さんの後ろ姿を見送り、駐車場のシャッターを下ろした。武藤さんは、彼はすぐにどこかに遊びに行ってしまうのでね、と言った。駐車場に声が反響した。固くて、低音の声。私もなるべく堅い声で、運転手さんも暑いのに大変ですね、と言ってから、変な返事をしてしまったなと思った。B1からエレベータにご案内した。ここからなら管理人さんの前を通る必要はなく、エレベータでも誰にもあわない。エレベータの箱の中、私の後ろにおられる武藤さんは、権力と威厳が漂っている。事務系キャリア官僚というよりも、土建屋の社長とヤンさんが思い込んでいるのも分からなくはない。しかしゼネコンの社長にしては有識っぽい。大物政治家の雰囲気かといえば、腹黒くなさそうだ。善良な学者には、線が太すぎる。とにかく、私の接客経験で培った、VIP職業別ボックスにあてはまらないタイプの紳士だ。

 玄関に入ると、武藤様は、内装をほめ、フランスの人はセンスがいいですな、とおっしゃった。リビングに入ると、ヤンさんがいるので、ほっとしたように、やぁーと言って、アタッシュケースをサイドテーブルに置かれた。私は、おしぼりを出した。お飲み物を伺うと、熱いお茶をいただけますか、と言われた。お茶をだして私は、どうぞごゆっくりなさってください、と言って、自分は隣の棟にいると伝えた。武藤様は、「それから鍵は施錠しておいてくださいね」、と言って、すぐに私から視線をそらした。一般人に対して警戒心の強い方だと承知した。


 1LDKの部屋でお弁当を食べながら旅番組を見ていたら、内線が鳴った。

「頼子ちゃん、来てよ」

 ヤンさんだ。急いで、メインルームに行くと、マッサージ用の浴衣姿で武藤様が円形ソファに浅くこしかけている。

「どうぞ」

 浴衣姿でますます堅い感じの武藤さん。私は彼が私を直視しなくてすむ程度の位置を選んで座った。私の視線の先にいるのはヤンさん。マッサージ台のそばで、タオルを整えている。

「あのね、あなた、えーっと」

「河合と申します」

「ああそう、河合さんね、あなたは派遣会社を経由して、事務職のアルバイトをされてきたそうですね」

 ミッシェルに聞いたんだろう。

「はい、派遣経験は5年以上あります。アルバイトではなく、フルタイムでした」

「ああそう、どこの派遣会社に所属しておられたの?」

「実際に勤務紹介して頂いたのはテンタティブスタッフ、アンテリムとか、他に登録だけしていた事務所もあります」

「マイカルグループには在籍しておられるの?」

 マイカル、確か昔、大手町の本社まで登録会に行ったと思う。あそこは手広すぎて、派遣社員の間であまりいい噂を聞かない。

「以前に登録したことはあります。就業実績がないから、当時の登録が残っているか、分からないですけど」

「ああそう、実はね、僕は勝どきにある小さなティンクタンクの理事長のポストに就いているのですがね、ちょっとうちの事務が繁忙期で人手が足らない。そこであなたに手伝ってほしいのですが、引き受けて頂けますか?」

 求人票に書かれていた、会員の希望による視察業務って、こういうことだろうか?

「それはミッシェルの指示に従うところです。ただ、その場合、そちらのシンクタンクではどんなお仕事をするのですか?シンクタンクみたいな難しいところで・・」

「そうね、何をしてもらいましょうか」

 武藤様は手を組んで天井を見上げた。背後にワーグナーの行進曲が流れていた。


5

 大阪の母に土曜日の午後、電話して2時間以上話した。シエスタで最初の一週間働いてみて、業務内容がはっきりしない部分もあるのだが、決して怪しいところではない。最初に来られた会員は、カチンコチンに堅い人で、一般人に線を引いている。

「なんか知らんけど、来週から、その硬い官僚のための視察業務があって、3週間、某省直轄の研究所に出向かなあかんねん」

「よりちゃんが、政府の研究所で仕事するなんて、日本も終わりやな」

 母は毒舌なので笑っているが、私はちっとも面白くない。シエスタと違って、一般的な勤務時間だから、満員電車にもまれなければいけないし、HPで役員名簿を調べてみたら、長々しいさまざまなタイトルの理事が57名もいる。その中で武藤様はトップ、理事長だ。武藤様が大物であることは、先週の金曜日によくわかった。シエスタで武藤さんは私を呼び出して、今度の派遣入りの話を打診してから、すぐにミッシェルに内線を入れた。私はミッシェルに、数週間、武藤様のシンクタンクで簡単な仕事をするように言われた。それから、武藤さんは私に、すぐに大手町のマイカルに行って、社長を訪ねるようにと言った。そして、武藤さんの名刺を渡すようにと名刺を一枚あずかった。16時前に大手町のマイカルビルに到着したら、ロビーにマネキン人形みたいなお姉さんが私を迎えに来ていて、私は武藤様のサインの入りのお名刺を渡した。マネキンのお姉さんは、トランシーバーで何か話し、私は最上階の美術品があふれる役員フロアの待合室の一つに案内され、湯のみ茶碗のお茶を出された。マイカルスタッフに私の登録は残っていた。それから15分くらい待って、マネキン嬢からロゴマーク入りの封を渡された。中には労働通知書が入っていた。


この度の契約の条件は下記の通り

就業場所 財団法人 シンクタンク・アンビション

     〒104 東京都中央区勝どき

業務内容 ファイリング及びその他業務

業務機関 6月14日~7月7日(更新の可能性あり)

就業時間 9時15分~17時

就業曜日 週4日(別途指示書に従う)


 月曜日、シエスタの最寄り駅を通過して、東西線の茅場町で日比谷線に乗り換え、二駅目の築地駅で降りた。マイカルのロゴ入り労働通知書はバッグに入っている。シンクタンク・アンビションの最寄り駅は、勝どきだが、派遣には交通費は出ないし、大江戸線は料金が高い。期間中、少し歩いてもいいので築地から通うことにした。築地本願寺を背にして、晴海通りに向かう。築地市場の門の横を渡るとき、大型のトラックが出てきた。今時分はもう、競り市が終わった様子で、作業員が地面の水をほうきで掃いて片づけている。市場を通り過ぎると、塩気を含んだ海風がふいていた。勝鬨橋の向こうに立っているビルを確認した。迷わず来られたので、橋の途中で、足をとめてみた。海と空の境目は、こんなにまっすぐだったのかと思った。研究所でしばし勤務するのも悪くはない成り行きだ。青と水色の境界線を見ながら、うっすらと勘定をしてみる。シエスタの試用期間の時給は1200円で、大体、来月は18万の収入の見込みだったが、急きょ、派遣の時給も加算されて、大幅に増額となる。使用期間が終わったら、夏休みに大阪に行こうと決めた。市場の前で見かけたイカ墨ソフトクリーム、それだって食べてみようと思う。海風で紺色のスカートがパタパタ波打った。欄干に白いかもめ達が並んでいて、すがすがしい。かもめに見送られながら、目的地が近づいてきた。遠目には分からなかったが、平たいビルだ。

 エントランス右手の壁に各フロアの社名プレートがある。シンクタンク・アンビションは17階と18階。エレベータは片面だけにしかなく、数えてみると横に10基並んでいた。初日のみ開始時間は10時だったので、人の出入りは少ない。17階でおりると、ここでも一直線の廊下が視界に飛び込み、細長い通路を隔てて、目の前に無機質な壁が張られていた。壁には、ところどころ、扉があって、開放されている。総務課の札を見つけて、扉をくぐりカウンターの呼び鈴を押した。

「おはようございます。マイカルスタッフの河合と申します」


 カウンター越しに現れた顔は、化粧っ気のない、ひっつめ髪の、機嫌の悪いお姉さん。32歳から34歳くらいだろう。床にうずくまりでっぷりとした背中を見せ、ごそごそと、積まれたコピー用紙をさわっていたのだが、誰も返事しないので、重そうな臀部を持ち上げ、私を睨みつけながら近づいてきた。

「おたく、何課に配属ですか?」

「総務課を訪ねるようにと伺ったのですが」

 私は、マイカルの労働通知書を見せた。近づいた彼女の顔をちらっと見て、目つきの悪いのは斜視のせいだと分かった。洋服はコットンのパンツに、グレーの絵柄入り長袖Tシャツという軽装だ。お姉さんは総務課に座っているご婦人達一人一人に、私の通知書を持ってファイリング頼みました?と聞いて周る光景をカウンターから見ていた。ご婦人は皆順番に私をちらちらと見る。同様に感じが悪い。事務机は縦二列で向かい合い、横に4脚並んでいる。同じ並びのブロックがもう一つ。ここに座っている婦人たちの、3分の1は30代、残りは50代から60代。一人だけ、70前くらいの婦人がいて、私に一瞥を投げ、口角を下げて見せた。全体的に、平安時代のひな段に並んだ女官のイメージだといえば分かってもらえるだろうか。総務のお姉さんは、病院の診察室に置かれているようなパーテーションの裏に入った。彼女とスーツ姿のシルエットがそこに映っている。じきに、ほっほっほーと笑い声が聞こえた。卵型の顔に丸メガネの男性、影絵のシルエットがカラーになって現れた。

「わたくしが、昨日マイカルさんに依頼をかけました、総務部長の、アサノオミでございます」

 私は右手の個室に通され、これから3週間の業務内容を伺った。

「うちは目下、プロジェクトチームの正規事務職員の産休合戦で、多忙なため、河合さんには適時いくつかのチームを転々と渡り歩いていただき、ルーティーンワークをしていただく、そういう予定で組んでおります」

 アサノオミさんは慇懃に言葉を選びながら話す方だ。では、ご案内させて頂きますと、アサノオミさんは立ち上がって、背筋を伸ばし、それとなく権威を示しつつ、まっすぐ進み始めた。勝鬨橋のある方角、西のほうに一直線の通路。グレーのクロスじゅうたんは、まだ新しい感じがする。通路側と反対の壁は天井まで一面ガラス張りで、墨田川沿いにいるような気分がした。朝の川面の日差しをうけてまぶしいガラスを背に、横並びの一直線で、大きいサイズの事務デスクが、等間隔に配置されている。PC画面に向かって顔はこちらに向いているのだが、ガラスに降り注ぐ日差しの逆光で、影絵のように見えた。HPの役員名簿にずらずらと書かれていた理事さん達のラインなのだろう。私が歩いている通路と理事ラインの間には職員さんが、セクションごとで詰め込まれている。人口密度は高いのに、この静けさはどうだろう。電話で話す声も、パソコンをたたく音も聞こえない。ぶくぶくと、遠くで空気の漂う音がする。まるで、金魚鉢の中にいるよう。


6

「木島さん、マイカルの派遣の方をお連れしました」

 アサノオミさんは、計量チームと書かれたデスクの辺りで止まると、そう言った。カウンターのすぐ裏の席で、左向きの横顔を見せていた赤茶のカーリーヘアの女性が立ち上がった。

「おはようございます、マイカルスタッフから参りました、河合と申します」

「河合さんには、今日明日は計量チームの作業を手伝っていただきます。こちらの木島さんが指示いたしますので」

 アサノオミさんはそう言うと、丸メガネの下に充満した含みのある目の色を私に残して、またするすると、東の方向に戻っていった。木島さんは、嗄れ声で、私の仕事、資料差し替え作業を説明した。皮膚のあつそうな油っぽい顔、上がり目の切れ長な目、往年のプレイガールみたいで、研究員には見えない。ブラインドのかけられた窓のある個室で作業した。途中で、木島さんと背中合わせで座っている東嶋さんと言う事務員さんが作業に参加してくれ、お昼を一緒にとることになった。

 最上階の共同ブュッフェに行ってみたのだが、二人で座る場所はなく、1階売店奥の簡易カフェに行った。ここからなら、勝鬨橋が、すぐ後ろにある。東嶋さんは、パスタランチ、気持ち唐辛子が乗っているペペロンチーノにサラダとコーヒーが付いていて950円、私は、無難にカレーライス、850円だ。午前中は個室の扉を閉めて、お話ししながら作業した。東嶋さんも私と同じ派遣で、それもマイカルからきているというので、気楽だった。東嶋さんは、細身の少女っぽい人。私が夏から、就職が決まっていて、ここでは3週間の期間雇用しかありえないと話すと安心して、色々と聞かせてくれた。シンクタンク・アンビション、略してアビ研は、実際は使い込みヘブンである。彼女は、アビ研の計量チームにきて、最初の1か月後に6か月契約で更新したが次の契約更新はしたくないそうだ。直属のリーダー木島さんの話を聞いた。その話は、ミッシェルに報告しようと思う。 

 水曜日には配布資料の差し替え作業が終わり、15時でアビ研を早引きさせてもらい、シエスタに寄った。辛坊さんが、のびのびと涼しそうにリビングで経理件留守番業務をしていた。

「頼子さん、研究所の仕事はどう?」

「研究所なんていって何してる所やら。経費で遊楽するのが本業ですって。各課に配属された派遣もそれに甘んじていて、まともな人は逃げるそうです」

「行政法人、外郭団体、どれも、そんなところでしょう」

「私はこんな世界知らなかったからびっくりです。宴のほかに、クラブ活動費、レクリエーション費という予算があって、フラメンコ、歌舞伎に、ミュージカルに屋形船、全部経費に請求できるんです」


 総務の女官たちは感じは悪いが、彼女らは不正はしていないそうだ。彼女等は不正を知りつつ、処理をさせられ因縁をため込んでいる。性質の悪いのは一見おしとやかな企画課の正規事務職員。アビ研では、職員同士のコミュニケーション費用で個別に家族旅行しているそうだ。例えば一人が週末に箱根で家族旅行に行っては、仲間の同僚数名と出かけたようにして連名で架空請求をする。一連ぐるになって順に個人旅行しているそうだ。旅行中の飲食代や、乳飲み子のミルク代はレシートを添付し請求しているという。新幹線や飛行機代は、実際のチケットのコピーなしで請求できる。ホテル代は、一人の代表者の名前の予約表さえ提出すれば通る。武藤さんはこれらのことを知っているそうだ。省庁に密告の電話が入っていて、正すためにもともと武藤さんが選任されたのだ。


ボンソワール ミッシェル

件名 アビ研業務 6月14日~16日

業務内容  シンクタンク・アンビションでの業務詳細、ページ差し替え3000件。

この3日間、配布資料の差し替え作業をしました。色々な不正申請の話を聞きました。このことは、武藤様はご存知だとのことですね。このメールで報告したいことは、元派遣社員で先月から嘱託雇用に昇格された木島さんと、専務の船場氏の不貞行為のことです。木島さんには、ご主人と成人した娘と息子がいます。船場さんも、もちろん妻帯者です。相手の女性、木島さんが昇格したのは、船場専務との交際と何か関係があるのではないかと、所内の一般職員や研究員が不審に感じています。武藤様はご存じなのでしょうか?日本の役所では、こういったことは処罰の対象になりうるので念のため報告しました。


7

 翌朝、ミッシェルから返信メールが届いていた。CCは経理の辛坊さんと、システムの小林さん。

武藤さんは船場専務と木島女史の不貞行為のことは関係会社から本省に密会の写真添付で最近通報されてご存じで、立腹している。武藤さんが、木島さん昇格の稟議書に捺印を押したのが、5月の初旬。この時点で、彼はこの私的な事情を知らなかった。稟議書を理事長に提出したのは、計量チームの後藤常務理事。武藤様は、現在事実関係を調査させ、彼らに課す処罰を検討中だ。

 頼子にお願いしたいことは、マダム木島がいつから、船場氏と交際しているのか、二人はアビ研に来る前からの知り合いではなかったか、の二件である。ボンクラージュ!

  

 4日目の木曜日から、地球環境チームでファイリングをすることになった。いずれ作業内容は似たようなもので、近く行われるシンポジウム参加者の名簿と申し込み票に書き込まれた記載事項に漏れがないか、チェックしていく。18階のフロア全体の中央に設けられているコーワーキングスペースのテーブルで、一人で作業している。一般職員のエリアを挟んで、隅田川沿いの窓際に並ぶ理事ラインと対面して座っている。スペースの裏手に給湯室があって、コーヒーサーバーが置かれているのでやや落ち着かない。窓ガラスに水色の理事の背中と職員の退屈そうにあくびしている横向きの様子が映っている。先週ここに来た時に、金魚鉢の中にいるみたいと思ったのは、この反射のせいだ。

 座席表をいただけたので、船場さんの席を探した。船場さんは遠くない位置にいた。トップエナジーから出向されたばかりの60歳。まだ甘さが漂っている。上等そうな三つ揃いのスーツに身を包んでいる。船場さんは携帯をいじくって、にやにやしていた。

 木曜のお昼休みは、大会議室にヨガの先生が来て、フリーレッスンがある。東嶋さんと彼女のランチ仲間、あまり日本語を話さない研究員の劉上上さんに寄せてもらい、ヨガクラブを隅っこで見学させてもらった。そこに、いつも、木島さんが参加していて、船場専務も参加するようになったと聞いていたからだ。参加者は軽装になって、各自貸し出しのヨガマットを持ちフロアにいた。インストラクターは、皆に床に胡坐をつかせた。口で息を深く、出しましょう、それから、鼻で息をゆっくり、吸って、骨盤を下にどんと落として、壁にもたれるようにして。呼吸法が終わって、腕を前に組むなど、初心者向けのコースだ。船場専務の体は堅そうだ。ゆっくりとした動きの中で、ちらちらと城嶋さんのことを見ているのが分かる。木島さんの背中、手を後ろにしてピンと伸ばしてからストン。

アビ研で長期採用されている事務員は、おとなしそうで、ポワンとした、民間企業では使い物にならないタイプの人だそうだ。そんな中で、母の貫禄と情婦の要素をもつ木島さんの風貌は目に留まったのだろう。実際、船場専務が、ボストンから帰国されてアビ研に就任し、歓迎会の二次会で、始めてみた木島さんのことを、場末のママみたいだ、と小声で悪く言い、アサノオミさんに彼女の名前を聞いていたそうだ。その時、近くに居合わせていた東嶋さんは、木島さんは専務の目についてしまい、契約終了になるかもと期待していたそうだ。この記憶から、船場専務と木島女史の出会いはアビ研であろう。武藤さんが、勘ぐっているのは、船場さん馴染みの女性をアビ研に採用させたに違いない、ということだが、これは思いすぎだと思う。

 今、船場専務がアタッシュケースをデスクに置いた。今日は定時で帰られるのだ。木島さんが、16時半くらいから、廊下の女子トイレに二度も出入りする後姿が、前のガラスに映っていた。17時30分に右側の扉から木島さんが出ていき、追って船場さんが総務課の扉から出ていく様子をガラス越しに見送った。船場さんは、とてもエリートで財務のCFOだったのに、これで、隠せていると思っているのか、本当は隠すつもりはないのだろうか。しかも、木島さんは、5月に嘱託に昇格してから、便乗して昇格した元派遣の独身女性2名に、専務との交際を自ら吹聴している。武藤様の懸念するように、木島女史は関係会社の回し者、工作員かもしれない。


 金曜日、私は、アビ研には行かず、シエスタに行った。武藤様が来られて、ランチミーティングをした。


社内メールサーバーに発見された本件に関連するやり取り

小林さんの報告より。

昨年 10月15日 10:30

to 船場専務 from 城嶋

件名 金曜日はありがとうございました!

昨日のチーム合同宴会で、お話を聞いてもらってしまい、ありがとうございました。

心強い思いになり、これから、正念場に入る決意でおります。また、相談にのってくださいますか?


同日 15:07

to 木嶋 from 船場

件名 RE:金曜日はありがとうございました!

貴方のことを考えていました。プライベートな内容であり、私のポストなど度外視し、相談してください。


同日 15:15

to 船場専務 from 城嶋

船場専務

ありがとうございます。私の携帯のアドレスはこちらです。

 ******@docomi.co.jp


 武藤さんが、印を押した派遣社員を嘱託採用にする稟議書も見つかった。その一枚紙は、カウボーイ風の出で立ちの、計量チーム常務理事、後藤氏のPCで作成されていた。実に簡易なワードの文書だ。派遣に作らせたのなら、もうちょっと見栄えを気にすると思うので、後藤常務が一人で作成したのだろう。見出しの『稟議書』の文字だけかろうじて、フォントが大きい。派遣社員を一年間、雇用している経費と、嘱託に切り替えた時の人件費の差、嘱託の方が経費は少ないと数字で表されている。更に、優秀な派遣雇用の職員を直接雇用することで、研究職員が落ち着いて、長期的な研究に従事することが出来る、とのゴシック文字の文章で精神的なメリットが入力されている。その下に、何の工夫もない表が挿入され、昇格候補の4名の派遣社員のスキル表。名前は、横枠、能力は縦。能力の項目は、PCスキル、正確性、順応性、の3項目に対して、◎〇△のいずれかが各ボックスに入力されている。あからさまに、城嶋さんが、優位に番付してあった。

 私は、その一枚紙を見て、よくこんな雑な報告書に印を押したものだ、と感心した。武藤様は、現役の事務系キャリアの頃、マクロ分析に卓越した大物だったのに。

「確かに、この一枚紙をもって来られたのは、船場さんではなく、後藤さんだ、いったいどうなっているんだ、皆で一連となって僕をだましたとしか考えられない、彼らをおもんぱかるのは、僕はもういやだ!」

 と言って、握りこぶしで応接テーブルをたたきそうになるのをこらえて、膝に手をやった。木島さんが、プロの工作員かどうか、来週も調査を実行するようにと言われたが、どうやって探るのか、見当がつかないが、武藤さんに、工夫してください、と言われた。


8

 翌週。木島さんは、土日にイメージチェンジを図られた。赤茶色だった染髪は、カラスのような漆黒に染められ、ストレートのロングに変わった。シルクのインナーをのぞかせ、全身黒のパンツスーツで統一している。これは結構高い値段のものだと思う。船場さんの好みに替えられたのだと、私は思う。月曜の朝一番から、プンプンと熟年女性の妖気を漂わしている。

 月曜の朝はアビ研職員一同で朝礼を行う。縁台に武藤様がいて、低い声が響いている。演説がなされたあと、本日は、当ティンクタンクのコアバリューの宣言を船場専務にお願いしますと言われた。船場さんがマイクの前に立った。

 一つ、我々は、りんりかんをもち、せきにんあるこうどうをいたします、

 船場さんは、出向社員や派遣社員のしらっとした雰囲気を感じることなく、また、隣にいる理事長の顔色が怒りでどす黒くなっている表情にも気が付かず、訓示を終えた。木島女史は絶好調であごをしゃくって戻っていった。私も18階のフロアに戻り、今週は何をするのか総務課のアサノオミさんに聞きに行った。

「本日ですが、先週名簿チェックしていただいた方が来られるシンポジウムが、今日と明日の午後、開催されます。河合さんは語学力があるので、大使館対応の受付をぜひお願いしたいと、原子力チームの多村理事からのご依頼です」

 私は、喜んで引き受けた。早々に出かけ、現場の銀座第一ホテルに入り、帰りは直帰していいと言われた。出かけようと喜んでいたら、総務課のお姉さんが、また私を睨んできた。


 勝鬨橋を渡って、築地の交差点から銀座方面に、30分くらい歩いたが、苦にならなかった。シンポジウムは14時から。私が着いたのは、11時前、他に受付を担当する予定の、不正申請旅行で有名な企画課職員3人娘は来ていなかった。第一ホテルの宴会・イベント用の大広間ローズの間で今日のセミナーは行われる。先週申し込み者の名簿をチェックしたので、どういう方が来るのか知っている。民間企業は会員のみ、割と若い人たちで、彼らは有料だ。私の担当する大使館席は無料招待だ。計200名くらいで、講演者は、省庁の官僚と海外から招いた武藤様の知人の賢者が数名だ。

 ローズの間の中を覗いてみると、小柄なスーツ姿の多村理事がいた。私が、挨拶しようと近づいて行ったのに気が付き、手を軽くあげ、にんまりとした。私よりも背が低い小柄で気楽そうだ。

「河合さんですね、お願いいたします。多村です」

 多村理事は名刺をくだすった。

アンビション研究所 研究理事 多村 我聞

 多村さんは私に紙袋に積み上げられた仕出し弁当の箱とお茶を渡してくれ、先に控室で昼食を済ませるように気遣ってくれた。

 早く昼食を済ませ、シンポジウムが始まる前の1時間くらいは、ターバンを巻いた御一行様や、鋭い目つきのロシア人大使館員などが来て、活気があった。それに、バカンス前のインクワイアリーがここに来た。名簿には名前はなかったが、開演少し前に武藤様と現れた。

 企画課の不正三人娘の一人が近づいてきて、ゆっくりとした口調で言った。

「私たちは、セミナーがはじまりましたら、中に入ります。すみませんが、ここで、受付をしてもらって、いいでしょうか」

 分かりました、という私の返事が早口に聞こえる。


9

 拍手の音が聞こえてきてローズの間の両開きの扉を、ホテルのボーイさんが閉め、受付周りはしんと静かになった。お手洗い案内と、早くお帰りの方に本日の資料を渡すこと、くらいしか、セミナー終了までさしてすることもない。早く帰りたいので、受付で使用した、蛍光ペンや名簿などを片付けようと、元の段ボール箱に入れていたら、我聞さんがローズの間からするりと出てきた。

「河合さん、受付ご苦労様。休憩してください」

そう言って、我聞さんは受け付け台の私の横に、適当な丸椅子を探して置き、私の横にちょこんと座った。

「一人で受付とは気の毒だ。いいでしょう、僕はあなたといっしょに受付をいたしましょうかな」

「そんな、研究理事がわざわざ受付なんて、申し訳ないですし、わたしなら、一人で大丈夫です。せっかくのセミナーですのに」

 我聞さんはコーヒーをしゅるっとすすって、横目で言った。

「いいの、いいの。僕はね、アビ研主催のセミナーに、まったく興味がない」

 我聞さんは、『まったく』を強調した。

「そうなんですか?あまり多村理事には面白くない内容なのですか?」

「まあ、民間企業の新入社員あたりが来て、同業他社の社員と親睦を図るためのものですからね、こんなシンポジウムは、実にくだらん」

「そういうカラクリですか。だから賛助会員しか入れないのですね。有料たって、どうせ経費で落とせるでしょうし」

「河合さんは、なかなか回転がいい」

 広間には、今誰もいない。遠くでボーイさんが、ワゴンの用意をしている姿だけが見える。

「多村理事は出向でアビ研に来られたのですか?」

「そうです」

「トップエナジーからですか?」

「そうですとも」

 多村理事は前を向いてうなずいた。

「ということは船場専務と同じ会社ですね?」

「そうです。河合さん、よくご存じですね、専務の出向元まで」

「こちらで業務させてもらっている間に、専務さんの噂話、ほうぼうから耳にしたものですから、木島さんとのことで。噂をご存知ですか?」

「あゝ、あれはですね、そうですなあ、船場さんとしてもやむをえないことで」

 我聞さんは、額に手をあて、おおとかああとかうなっている。

「でも、トップエナジーの方なんて、みんなエリートで頭がいいのに、なんだって、こんな知れ渡るようなことされてしまって。遊びたいのなら、経費で銀座にでも行かれていれば、安全だったでしょうに」

「あゝそれはですね、トップエナジーという閉鎖的な組織にいて、最後に出向となり、今までのほころびが出てしまったというわけですな」

「ほころび?」

「そもそも官僚は悪いことしかしない。その反対勢力に対抗できなかった我々民間企業の情念も手伝って、ほころぶわけです」

「官僚が悪いことしてるって、そんな風に見えないけれど」

 私は、武藤様の所作やものの言いようなど、思い浮かべた。現に今回の件では、民間企業出身の取り巻きに陥れられたということで、立腹しているのだ。私は我聞さんに、霞が関ではどんな悪いことが行われているのか、聞いてみた。けれど、我聞さんは教えてくれなかった。我聞さんは、庶民がネットなどを通じて理由も知らずにあれこれ幹部に批判する風潮に反対なのだそうだ。

「昨今ではインターネットなどで、当社のことを悪く言っているようだが、では、アルバイトの人が、電力を供給するシステムを開発できるのかな、できないよね。嫌ならば使わなければいいんだ。僕たちは、税金で食べている、役人とは違う」

 ひょうひょうと、我聞さんは蓄積された憤りを覗かせた。

 ホールの飾り時計が15時前になって、ボーイさんは、用意していたコーヒーの大きなワゴン2台をホールの左右に持ってきた。ローズの間の扉がボーイさん二人の手であけられた。聴講者たちが、ぞろぞろと出てきて、コーヒーを振る舞われている。そして、嘉門さんの言ったとおり、細身の若手スーツ姿たちは名刺を互いに差し出し合い談笑し、ホールは特権階級の雰囲気に変わった。インクワイリは前半で帰っていた。それから、この前ヨガの会でお会いした中国人研究員の劉さんが、我聞さんを見つけ、近づき、多村しゃんと声をかけた。3名の同世代らしき30過ぎの男性と連れ立っていた。多村理事が受付をしているので、おかしいのだろう。男性達は、微妙な表情をしていた。


 只今より、第二部を行います、とアナウンスが流れ、人々はローズの間に戻り、また分厚い両扉は閉められた。

 我聞さんは、短い足を組んでいる。私は、何か適当に話しかけてみた。

「さっき、声をかけてこられた劉さんは、多村理事の部下なのですか」

「そうです、彼女は私よりアビ研在籍は長い。2年半ほど前にアルバイト研究員で入られ、半年前に正規の研究員に昇格しました」

「多村理事が昇格を取り計らったのですか」

「いやいや、船場さんとアサオノオミさんがね、処理された、と思いますよ。そもそも、彼女は日本語をほとんど話せないのでね、どうかと思いましたが。まあ職員になってからは少しずつ話すようになってはいるみたいですが。ご主人は日本人ですからね」

 東島さんが劉さんと仲良くしていたのは、東嶋さんは中国語専攻だったこともある。確かにヨガに行ったとき、私が日本語で話しかけたら、視線を反らしていた。我聞さんは続けた。

「さっき、いっしょにいた彼ね、あの頼りなそうな。あれが彼女の旦那です。省庁の事務キャリアでね、国費留学中に劉さんと知り合ったんだ。劉さんは航空が専門だったのだが、彼の帰国について来て、アビ研の環境チームに配属されたのだが、ほとんど彼女の専攻とは関係がないのが実情だ」

「分野違いの研究員って変ですね。もしかして、旦那さんがキャリア官僚だから、口添えしたとか?」

 我聞さんは、横を向いたまま、ふんふんと二度頷いた。

「アルバイトの頃は、彼は日本人の妻子と暮らしていてね、彼女は、家族の近くのワンルームマンションに住み、ここで働いていた。めかけの面倒をみるには30過ぎの官僚の安月給では無理だろうて」

「でも、今は劉さんは日本人と結婚されてるっていうことは、もしかして略奪?」

「おっしゃる通り、相手の家庭を壊し、半年前の冬にお台場で結婚式をあげまして、さらに同時に職員に昇給したということです。あの旦那も、女性関係に頼りがない。出世はまず無理でしょうな」

 我聞さんは、ぽつぽつと、彼らの暗雲たる未来を希望し、予想した。

「つまりね、河合さん、この財団に出資しているのは、ほぼトップエナジーなんだ。船場さんも釈然としなかったのでしょう」

「若手官僚の下の後処理する金銭までも民間に頼っているということ、ですか?」

「大当たり」

「武藤理事長はそのことご存じなんですか?」

「どうでしょう」

 我聞さんは、遠くを見るような目つきでホール中央から1階に向かう、らせん階段の方を見ていた。実を言うと、私は劉さんのことをなんとなく嫌な感じがすると思っていた。見た目の麗しいことにやっかんでいるわけではない。175cmくらいある長身のほっそりとした人で、面長の卵顔、丸っこい瞳に、昔風のカール髪、桃色の頬をしていて、オフィスで大きなバラ柄のワンピースを着て闊歩している。30台過ぎの女性で、あんなに純情そうな人は滅多といないだろう。いつまでも彼女の純粋さを保つためなら、公費を使ってでもいいと思っているのだ。彼女は中国高官の娘だそうだ。悪女っぽい木島さんの方が悪意は少ないと思う。


10

 水曜日までの全3日間、同じ時間帯でシンポジウムは開催された。その後は、オフィスで、参加者の集計や、配布したアンケートの結果のとりまとめ等、エクセルを使って業務を済ませた。さて、武藤さんご依頼の調査二点目、木島さんは工作員なのかどうかという件だが、私はシンポジウムが終わって数日で、あっけなく、プロではないと言える証拠を見つけたのだ。あれは午後の3時過ぎ、私は、多村我聞理事のチームにいくつか空いているデスクの片隅で事務作業をしていた。東嶋さんが、通路を歩いてきて、立ち止まり私に手を振っている。はっとしたような表情をしていた。彼女のジェスチャーに従って立ち上がり、総務課のコーナーの一か所に来た。そこに置かれた、こげ茶色の厚紙でできた箱を東嶋さんは指さした。郵便物用の箱だ。ここに入れておくと、一日2回の集荷の際に、巡回郵便配達人が発送分を局まで運んでくれるのだ。その箱の中には、いくつかの大小の封筒があって、頂上に、宛名面が上向きで定型3の茶封筒が投げ込まれていた。無名な土建会社の名前、所在地は江東区、宛名は木島雄一だ。その文字は怒りに満ちた筆ペンのもので、私はすぐに気が付いた。東嶋さんは、声を出さず、封筒をひっくり返した。送り主は、木島女史で、彼女の自宅らしいマンションの住所が書かれていた。この怒りに満ちた字、封筒の膨らみ具合、わざわざ彼女の勤務先から夫の勤務先に送り付けているということ。以上を鑑みて、中に入っているものは、離婚届けに違いない。

 背後に総務課の、ご婦人が立っていた。郵便物は、総務課の職員が交代で処理していて、彼女が今日の担当なのだと思う。私と東嶋さんが慌てていると、彼女は何も言わず、唇に指をたてて、箱と、そのそばに置かれた切手貼付用の水の入った器と、そばに吊るされていた切手管理ノートを持ち、私たちに手招きして、3人で個室に入った。部屋に入ると彼女は鍵をしめた。そして、木島さん差出の封筒を、少し湿らせた。彼女は封筒を開けるようだ。

「誰かノックしたらどうしましょう?」

 私は言った。

「大丈夫です。今日の切手使用数と実際に使われている枚数があわないので、あなたたちに頼んで確認中だと言いますから」

 彼女は、それから、ヘアピンでそっと開封した。何度か、こういうことをしてきたのだと思う。


 私のミッションは、完了した。契約終了日まで、最後の3週目の水曜日、私は又、木島さんと東嶋さんのいる計量チームでファイリング業務をしながら様子を見ていて、オペラグラスが欲しいくらいだ。後藤常務、船場専務、アサノオミさん、それから理事長室のラインで動きがある。武藤様は、現役官僚時代に、組織的で大がかりな裏切りに合われ傷心となり、以降、破格に疑り深くなった。今回、船場さんや、この件を通報した一連のグループが、武藤様を業界から引きずり下ろすために仕掛けたものと思っていた。調査の結果、今回に関しては、偶然の出会いから互いの原因で起きた個人的な不祥事だと、納得して頂けた。木島さん他派遣社員の昇格を理事長に依頼した後藤常務理事に関しては、相当船場専務にとりいっていたメールの記録がサーバーから発見された。アサノオミさんも、得体が知れない。この人も船場専務に取り入って、アビ研のシステム専門職員の中年男性を左遷させていた履歴がサーバーに残っていた。システム職員不在中につき、小林さんが、派遣エンジニアとして調査できたのだが。


 最終日の金曜日、船場さんがすっかり意気消沈されている様子を見届け、東嶋さんに挨拶して業務終了した。木島さんはデスクにはいなかった。東嶋さんには言えないが、木島さんは、嘱託雇用の労働条件にのっとって、一番に解雇されるだろう。東嶋さんに、また単発で声がかかったら宜しくお願いしますね、と言って手をふってお別れした。彼女には、本当にお世話になった。勝どき駅のプラットフォームに一人でいると、多村理事が階段を下りてくるのが見えた。私の方に近づいてきた。

「河合さん、昨日の打ち上げ会にいらしてなかったじゃないですか」

「せっかく誘っていただいたのですが、私は単発ですし、遠慮しておきました。実は、今日でここのお仕事は終了なんです」

 私は、そう言って頭を下げた。

「今日でやめられるとは噂に聞いておりましたよ。次はどうされるのです?」

「新しいところで働きます」

「また、派遣で?」

「直接雇用の仕事が、もともと、決まっていたのですが、入社まで期間があったのでそれまで単発で働いたのです」

「なるほど、どういったところに務められるのです?」

 多村理事はしつこい。風が吹いて、トンネルから電車が来た。電車の騒音で私は大きな声で言った

「フランス系の会社です、じゃあ、私、この電車に乗りますので」

 理事は、私の後をちょこちょことついてきて、私の隣に腰かけた。理事は電車が動くと言った。

「フランスの会社といえど、外資は先が不安定でしょう。実は、河合さんを秘書にお願いしようと考えておりましたが」

「それは、ありがとうございます。でも私はその会社のこと、気に入っていて、タイミングが合わなくてすみません、せっかくお声がけいただいたのに」

「いえいえ、あなたほどの方なら、引く手あまたでしょうがね、それにしても、フランス系とは」

 多村理事は私に軽く飲みにいかないかと言ってきた。アビ研にもう用はないが、私もミッション終了で晴れやかな気分だったので、一杯飲みに行くことにした。


 二駅目の大門で降りた。我聞理事の家は横浜で、いつもここで乗り換えするそうだ。大門から、歩いて貿易センターに行き、最上階、中華のスカイレストランに案内された。スカイレストランでは、個室に通された。5人かけくらいの丸テーブルには小さな花とキャンドルが置かれている。まだ外は明るかったが、春海湾の景色や高速道路が目の前に広がり、眺めは最高だが、我聞さんとではしょうがない。幸い、横に並んで座っているので気楽だが、窓ガラスに映っている我聞理事の顔は、幼少のころ書いた、へのへのもへじの顔にあまりにも似ていることに気が付いた。まずビールが運ばれてきた。

「お疲れさまでした、あゝ美味しいし、きれいな景色だこと。こんな素敵なところ、アビ研の部下の方たちとも来られるのですか」

「いやあ、彼らとは、殆ど付き合いがないのでね。河合さんは特別にお誘いしました。なんでも好きなものを頼んでください」

 我聞理事は、自分はメニューを見もせず、私にメニューブックを渡した。メニューを上から見てみると、結構な値段だ。前菜のあわびが6千円、ふかひれの姿煮7,560円、好きなものを頼んでと言われても、気が引ける。 

「多村理事は、中華では何がお好きなんですか?」

「僕はね、麻婆豆腐とえびシュウマイが好きなの」

 麻婆豆腐なら、二人分で1200円だ。シュウマイや餃子などの点心類はメニューにはなかった。私は、五目炒飯を付け加えた。しばらくたって、大きな丸テーブルに、麻婆豆腐と炒飯が並べられた。我聞理事は、嬉しそうに小皿をとって、小さな手で、麻婆豆腐をよそっている。私は、炒飯をよそった。

 二杯目のビールを飲むと、理事は赤らみ饒舌になる。彼の人生で最大の危機が今起きていると言い出した。そして、それを当てるようにと。因みに、彼は独身で貫いてきている。最大の危機は家庭問題ではない。

「なんでしょうかね、悪女につきまとわれているとか、船場さんみたいに」

「それはありません、僕は木島さんのような悪女には近寄らんことにしています」

「仕事の関係ですか?」

「そうですね」

「部下とうまくいかないとか、人間関係ですか?」

「いえ、それ以前の問題なの」

「チームの研究がうまく進まない?」

「だから、それもそれ以前の問題なんですな」

 多村理事は、ビールグラスについた水滴を指にとり、テーブルで、くるくる円を描きながら、それ以前の問題、それ以前の問題とぼやいている。私はいくつか挙げてみて降参した。

「最大の危機、それは、僕の研究分野と現在のポストが全く異なっていたということです」

「へー、そんなこと?」

「分からないかな?僕はね、トップエナジーでは、クリーンエネルギーが専門でした。地球にやさしいエネルギーと原子力はね、全然違うんだ」

「ふうん、すみません、エネルギー分野の知識がないもので」

「では、分かるように説明しましょう。ある日、顧問から電話があって、呼び出されたんだ。あわてて顧問室に行ってみると、君にまったくぴったりのポストが見つかったという」

「トップエナジーは退職されたってことですか?」

「定年でした」

「それで、アビ研に来られたのですね」

「さようです。けれども、元々武藤理事長は、トップエネに対して原子力の専門家を要請していたんですよ、クリーンエネルギーではなく原子力、ね、最大の危機でしょう?」

 私は失礼だが、笑い出してしまった。

「あははは、赤毛のアンみたいな感じですかね?」

 我聞さんは、水滴をテーブルにこすりながら、おかしいでしょう、わらっちゃうでしょう、と言っていじけているので、ようやく気の毒になった。

「それって、トップエナジーが武藤理事長へ嫌がらせしたってことですか?」

「アビ研に来て初めて理事長室に挨拶に伺いまして、僕の専門はクリーンエネルギーだと言うと理事長は唖然とされていましたよ」

「人員換えにならないで済んだのですか?」

「武藤理事長は、他社に原子力のエキスパートを送ってくるように要請しました。身の置き場もなく、毎日アビ研にいるわけです」

「いたたまれないですね。トップエネの人事に訴えて、他の出向先に変えてもらうとか、申し出たほうがいいんじゃないですか?」

「そのように根回しをかけてはみたものの」

 我聞理事は、人生最大の危機を語ると、最後に小皿に唇をあてがい、炒飯の残りをひゅっと吸い込んだ。私は根回しうまくいくといいですねと言って、そろそろ行きましょうかとバッグを手にとった。

「もう少しいいじゃないの」

 我聞さんはそう言って、デザートに杏仁豆腐を追加してくれるわけでもなく、私の私生活について質問を始めた。私が独身であることは知っているのだと思う。私は、聞かれるままに、派遣での時給や、夏休みは収入が減るので、事務センターにアルバイトに行っていた話をした。

「いつも思うのだけれど、その手の人たちってどうやって生活しているのだろう、不思議だ」

 私は、むっとした。

「別に月収20万円でも、まあまあ、暮らせていけますよ」

「僕はね、最大の危機を味わって、最終的に貢献したいという思いに、到達しました」

「貢献欲ですか?ボランティアすれば、簡単に満たされそうですけど」

「実は、今年、親父の財産を相続しましてね、マンションを購入しようと計画しているのですが、一緒にモデルルームを見に行きませんか?オール電化の新築ですよ」

 レストランを出て、通りに下りると、我聞理事はまだどこかに行こうと言う。私は、ちょうど、男性3500円 女性1000円、2時間飲み放題、歌い放題の文字が目に入り、一つこの理事に意地悪をしようと思い、雑居ビルの地下にあるカラオケバーに我聞さんを連れて降りて行った。


11

 前に話したと思うが、私は歌うとエリートから馬鹿にされなくなる。そのカラオケバーで、うまくいった。普段、一人カラオケで歌っているので、選曲がよいのだ。ボサノバ風の歌謡曲を歌い、他のテーブルの人からリクエストされ、セルジオメンデス&ブラジルのover youを英語で、フランス語では、ポルナレフを何曲か歌い、最後はピアノ伴奏で日本語のブルース歌謡を歌った。カウンターのママさんもしんみり聴いてくれた。我聞さんは、帰りに私にバッグを買った。アパートに帰って、小林さんから着信があったことに気が付いた。

 そうだ、今日の夕方、シエスタに立ち寄ることになっていたのに忘れてしまった。慌てて、電話をしたら、小林さんはいつもどおりひょうひょうとしていた。私は歌が好評で、気持ちがよく、お酒も飲んでいたので、小林さんにアビ研の送別会でバッグまで買ってもらったことを言った。

「河合さんって、軽く見られてるよね、その財団のピンク系のおばさんみたいにおっさんに取り入って雇ってもらえばよかったのに、切るね、明日早いので」

 小林さんは、怒ったみたい。私は、なんだか、ここしばらく色々なことがあって興奮していたのだが、出鼻をくじかれ、布団をしいて小林さんに言われたことを思い返し、じきに眠ってしまった。


 Bonjour, Michael,

モナコの休暇はいかがですか。7日付け武藤様のシンクタンク視察業務は完了しましたが、一つ、確認事項があります。7日に、総務部長のアサノオミさんから、商品券(des bons d’achat)をいただきました。なんと、金額は10万円分です!この商品券はいかがしましょうか、指示を頂けるまで、そのままにしておきます。Yoriko


Bonjour Yoriko, Ca va? 武藤氏も納得のいく結果となり、最初のミッションの君の成功を嬉しく思っています。10万円相当のチケットは、武藤氏から君へのお礼です。シエスタに寄付したいのなら、断りませんが、君が使うなり貯金するなりお好きなように。来週から君は正式採用となることをお知らせします。それから、月曜日に船場氏が予約。Michal


モナコはまだ金曜日、土曜日の朝起きてみたら、ミッシェルからメールの返信があった。私は、大阪の母に電話して、本採用になってん、と開口一番言った。これで、来年から年収は350万円になる。去年の冬は失業中で大阪に帰れなかったのだが、近いうちに遊びに行く。それから、私は武藤さんから頂いた商品券を金券ショップに売って現金化し、水道橋のフランス語学校に週1回通うことにしたのだ。善意を優先させ情に流されてきた私だけど、それも、欺瞞だったと気づいたのは、有識者の武藤様がおもんぱかっては騙されている流れを見て、思うところがあったのだ。

「賢い人もよう利用されて、我聞さんにしてもよりちゃんに苛められ気の毒やで」

 母曰く、私は元来十分意地悪な要素を持ち合わせているそうだ。

「夕方、築地に行くねん。イカ墨ソフトアイスクリーム食べて、しゃれたレストラン行くねんで」

 小林さんが今朝メールをくれ、待ち合わせの約束をしている。


Merci!Michal, 採用のお知らせをいただき、母も私もとても喜んでいます。月曜日にシエスタに船場さんが来られるというので、ヤンさんの指圧院から、マッサージ師の手配をしておきました。それから、頂いたお金でフランス語の学校に申し込みました。武藤様に宜しくお伝えください。アビアント、Yoriko


よりこ、元気ですか? 武藤氏も納得のいく結果となり、最初のミッションの君の成功を嬉しく思っています。10万円相当のチケットは、武藤氏から君へのお礼です。シエスタに寄付したいのなら、断りませんが、君が使うなり貯金するなりお好きなように。来週から君は正式採用となることをお知らせします。それから、月曜日に船場氏が予約。検討を祈る。ミッシェル


ミッシェル、モナコの休暇はいかがですか?採用のお知らせをいただき、母も私もとても喜んでいます。月曜日にシエスタに船場さんが来られるというので、ヤンさんの指圧院から、マッサージ師の手配をしておきました。それから、頂いたお金でフランス語の学校に申し込みました。武藤様に宜しくお伝えください。アビアント、頼子。


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