52話!
「セルカ君」
ヨルセダの声が聞こえて、僕達は振り向く。
「ヨルセダさん……ご心配かけました」
「よかったのじゃ、無事に帰ってきて」
少し泣きそうな表情でヨルセダがそばまでやってくる。
「ケガはないかの? ……変な事はされてないな?」
「ケガはないですし、変な事もされてません」
ニコリと笑ったセルカを見て、安心したのかヨルセダは大きく息を吐いた。
「見つかったという報告はあったがやはり心配での」
そう言うとヨルセダがセルカの二の腕辺りを手でさすった。セルカという存在を確かめるような、そんな触れ方。
「本当に心配かけました」
「いいんじゃ……さて、まだ他の場所に挨拶へ回るかの?」
「あぁ……今日行く必要ないので大丈夫ですよ?」
「そうかでは執務室へ来てくれるかの、マントの男について詳しく聞きたいのじゃ」
ヨルセダがそう言うとすでに表情は元に戻っていた。仕事モードの表情だろう。
「あまり伝えられる情報は多くないわ、いいかしら?」
「構わんのじゃ」
僕達はヨルセダに促され、執務室に向った。
夜になると僕はセルカを誘って宿の外に出た。ネピアは連れてきていない。本当に僕とセルカ二人だけだ。
「どうしたんですか?」
「ちょっとね、何も聞かずについてきてほしいな」
僕が微笑んでそう言うとセルカが「わかりました」と笑顔ともに返してくれた。僕は北門の方へ足を向ける。
「今回は本当にありがとうございました」
「え? そんなお礼を言われる事は」
「エルさんにとってなんでもなくても、私には感謝の気持ちがあるんです」
「あ……うん、そっか、どういたしまして」
僕の言葉にセルカが微笑む。
「不幸中の幸いは私のブラッドスキルを目覚めさせてくれた事ですね」
「そうだね……でもブラッドスキルって家の人は知らなかったの?」
僕の問にセルカが少し考える素振りをする。しばらくそのまま歩いて北門を出たあたりでセルカが口を開いた。
「今も考えてみたんですけど、言われた覚えはないんですよね」
「ずっと続いていたけど、どこかで伝えられなくなったとか?」
「うーん、わかりません、私の実家って村にあって普通より貧しい方ですから、ブラッドスキルを大事に守るような家じゃないんですよ、消えて無くならなかったのが不思議です」
セルカが笑いながらそう言うと言葉を続ける。
「まぁはっきり言ってどうでもいいです」
「はは、まぁそうだよね」
「このスキルをしっかり磨いて使いこなさないと、そっちの方が重要です」
ガッツポーズをしながらニッコリと笑ってセルカがそう言った。
「そうだね……そろそろここでいいかな」
僕は街道の途中で立ち止まる。遠くの方にセレンが見えた。
「目的地はここですか?」
「うん、ここだよ……実は一緒に見たいものがあって……セルカは見た事あるかもしれないけど」
僕は空を指差す。それにつられてセルカはチラリと上を見た。
「星空……キレイです、もしかして?」
「セルカと一緒に見たかったんだ」
僕がそう言うとセルカはくすぐったそうに笑って僕の腕に抱きつくように寄り添った。
「嬉しい……一緒に見ましょう」
「あと何かしてほしい事とかほしい物とかない?」
「え? どうしてですか?」
「なんというか……再会のお祝いと言うか、この日の記念みたいな」
僕はなぜかとても恥ずかしくなって、顔が熱くなる。照れ隠しに少しおどけたように僕は言った。
「女王様の言う通りに……いたしましょう」
セルカがクスクスと笑うのが聞こえる。
「エルさん可愛い」
「なっ、可愛いって」
「ふふっ、じゃあ女王様の所望は」
そこまで言って言葉を切るとセルカは僕に顔を近づけて耳もとでささやいた。その言葉に僕はより一層、顔が熱くなった。
「じょっ……女王様の……言うと通りに」
2回目!
これで本編は一旦区切りです