26話!
「そう……うん、わかった」
ネピアはそのまま特に表情を変えることなく言った。僕の押し付けなんだろうか。道具として生まれたネピアに人間として生きろなんて。勝手に幸せを押し付けていただろうか。
「エル……二人来た」
ネピアのその言葉で僕は前を見た。クレブリアとヴェールがこちらに向かって歩いてくる。
「おはよう」
「おはようだぞ」
「おはよう、待たせちゃったかしら」
それぞれが挨拶を交わした。
「そんなに待ってないよ……さぁ行こうか」
僕が立ち上がるとネピアも合わせて立ち上がった。
「ところでヴァルツゴって近いの?」
僕がそう聞くとクレブリアが答える。
「歩いて行けば丸一日らしいわよ、馬を借りて半日」
「え? 馬? 馬車じゃなくて?」
「馬車だと半日じゃつかないわ、昼に出発すると夜につかないのよ」
荷台を引いてる分、馬車の方が時間がかかる。馬に乗っていけば一番早いという事だ。
「もともと馬で行けばいいと思ってたのよ、レガルは確認程度だけど、できるだけ長くと思ってたから」
予定通りに行くべきなら、馬を借りて行ったほうがいいという事。ただちょっと乗れるか心配だった。練習する時間がいるかも。
「馬乗りたいぞ!」
「ネピアも興味ある」
ヴェールとネピアがそう言って、僕とクレブリアは吹き出してしまう。
「なっ、なんだよ!」
「いえ……別に何にもないわよ」
「僕も馬は気になるから、馬がいいかな」
僕とクレブリアは少し笑いが残った状態でそう言うとヴェールが口を尖らせて言う。
「なんだよ」
「何でもないよ」
僕が頭を撫でるとヴェールは頬を膨らませてちょっと怒る。乗れるか心配だったのがちょっと恥ずかしい。
「ネピアも興味あるんだね」
僕がそう聞くとネピアが頷いて答えた。
「なんていうか、エルの記憶の中で乗ってる記憶あって」
「え? そうだっけ?」
全然記憶にないけど。僕は頭をかしげて必死で思い出そうとする。
「エル、小っちゃかった、部屋以外の唯一の記憶」
「あぁそうか……馬に乗ったんだ」
牧場みたいなところに子供の頃行った記憶はかすかにある。その時、乗馬体験をやったんだと思う。
「エルは小さいときに乗っただけかしら?」
「うん、みたい、記憶ないんだけど」
最近、記憶喪失の設定をつい忘れてしまいそうになる。嘘ついてる手前、一応つき通そうと思ってるけど。そこにネピアが付け加える様に言った。
「ネピアが誕生した時、エルの記憶の断片を見た、それで」
「なるほど、そういう事なのね」
2回目!