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羽野静稀はヒールアイドルである  作者: 五十嵐留依
4/8

第三話:こうして静稀はヒールアイドルに出会った。

第三話です。

ご感想、ご意見をお待ちしております。

 ホールの外はさらに賑やかしい空間だった。

 入学式を終えた新入生を待っていたのは、さらに手厚い歓迎。上級生が手当たり次第に声を掛けている。

 扉の前だというのに、人でごった返しており、まるでバーゲンセールのような状態だった。

 その光景に目を丸くし、扉を出てすぐに棒立ちになってしまう羽野静稀(うのしずき)


「驚いているね」


 何気なく聞こえた言葉。肩を叩かれてようやく、自分に掛けられた声だと気付く。

 そしてその声は珍しく、真横から聞こえてきた。

 静稀が彼女の声に振り向くと、ちょうど目が合った。


「えっと」

「あぁ、私? 私は三年の夜絃魅乃(よつるみの)。よろしくね」


 一目見て、静稀は彼女に圧倒された。

 静稀と視線の高さが同じだということは、彼女、魅乃も女性にしてはかなりの高身長である。普通に生活していれば、それだけ背の高い女性を見ることも稀だが、ここはアイドル学園である。

 人気モデルを目指す少女などとなれば、静稀と同じぐらい背の高い者も在籍しているのは珍しくない。

 けれど、魅乃の魅力は背の高さだけではない。

 腕や太ももから見える、その鍛え抜かれた肉体が凄まじい迫力を帯びていて、力強さを感じさせる。

 短く切り揃えられた髪や険しい印象を抱かせる容貌は、武闘家のようであった。

 可愛らしい少女ではなく、ただただ強い女性。

 アイドルというイメージは湧かないが、それでも、彼女自身は魅力に溢れていた。


「は、はい、よろしくお願いします」

「おう、いい返事だ」

 

 元気溢れる彼女に感化されて、静稀の返しも大きな声になる。

 それに満足したように、にこやかに頷いた。


「この光景にびっくりしたかな?」

「え、えぇ」

「だよね。毎年、入学式終わりの新入生にこうやって群がっているんだよ」

「かなり有名なアイドルもいますね」

「そうなんだよね。引く手あまたのアイドルが必死で、新入生に声を掛ける。面白いよね」


 ケラケラと笑う魅乃に、なぜか目を奪われた。アイドルらしからぬ笑い方なのに妙に彼女に合っている。

 じっと見つめてしまう静稀に、魅乃はそっと笑いを止めた。


「どうした?」

「い、いえ、なんでもないです」

「そうかい。で、なぜこうやって話しかけているかってのも、まぁこの時に教えるんだけど、聞いていく?」


 魅乃は静稀をその人混みから連れ出した。といっても、その人混みが見える少し離れた廊下まで、引っ張り出しただけだった。


「この学園って、色々なグループに分かれているって知っているかな」

「はい。歌手を目指したり、女優を目指したり、アイドル活動を中心に置いたり、ですか」

「そうそれ。よく自己紹介でもエールトライトの○○所属です。みたいな話をしているじゃない? その所属がアイドルグループそのものであったり、ただの集まりだったりと様々あるけど」


 この学園のアイドルは決して孤独なものばかりではない。

 グループに所属して活動するものが大半であった。グループに所属してもそのグループ名を必ず名乗る必要はなく、籍を置いているだけのアイドルもいる。


「グループに所属するメリットは大きい。活躍する先輩アイドルから情報を得たり、グループを通じて仕事を掴めたりするからね。いち早く活動したいなら、良いグループに所属することが最も有効だと思うよ」

「なるほど」

「で、グループ側としても有望な新入生を獲得したいんだ。だって、学園だから上級生は卒業する。そうして生まれた穴は大きい。それを埋めるために、新入生を自分のグループに引き込もうとするんだ」


 ほとんどのアイドルがどこかのグループに所属しているなら、新たな加入が見込めるのは入ったばかりの一年生である。何よりも早く声を掛けたいから、入学式が終わるのをホールの前で待っていたのだ。


「そうなんですね」

「そうそう。……そういえば、君の名前を聞いていなかったね」

「あ、羽野静稀です」

「静稀ちゃんね。静稀ちゃんは何か希望のグループがあるのかな。もしよかったらどこかのグループを紹介するよ。何か得意な分野はある?」


 静稀はすぐには答えなかった。

 希望するなら、親友である佐倉灯叶(さくらひかの)と同じグループである。グループを決めるなら彼女と話してから。そう考える。希望は灯叶と同じグループだった。

 次に、得意な分野について考えを巡らせた。歌もダンスもこれといって秀でているものはない。ギリギリでこの学園に入学できた自分に誇れるものは何もない、と結論付けた。

 

 そこまで考えて、静稀は、魅乃に聞きたいことを思い付いた。


「えっと、質問で返してしまうんですけど、夜弦さんはどんなグループに所属しているんですか?」


「ん? 希望するジャンルとかないの?」


「すぐに答えられなくて。参考にまで先輩のグループの話を聞きたいなと」


 魅乃は静稀の言葉に納得したように頷いて、はっきりと答えた。


「あぁ、私のグループは『ロスト』。ジャンルとしてはヒールアイドルかな?」

「ヒールアイドル?」

「そう、ヒールアイドルだよ」


 その時初めて、静稀はヒールアイドルという言葉を耳にした。

 



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