第二話:こうして静稀は覚悟を知った。
学園外からの祝辞を挟んで、新入生代表の挨拶。
新入生代表として佐倉灯叶の名が呼ばれる。
羽野静稀の目の前で彼女が勢いよく立ち上がると、会場にいる全ての視線が灯叶に集中した。
ここで新入生を含む、入学式の出席者は、灯叶が誰よりも優秀な成績で入学したことを知る。
彼女に向けられた視線は校門から校舎までの一本道を歩いていた時の比ではない。
先ほど以上に多くの、そして複雑な感情をはらんだ視線が向けられるが、灯叶は堂々と壇上に上がった。
灯叶は壇上から、座席側に向かって声を上げる。
「新入生代表の佐倉灯叶です」
「今、アイドルになりたいと考えれば、そこにはたくさんの選択肢が用意されています。アイドル事務所のオーディションを受ける選択。別の分野で活躍してからの転向という選択。個人発信で知名度を上げるという選択。あまりにも多く、その全てに未知なる可能性が秘められています」
「そんな中、私たちは『エールトライトアイドル学園』に入学して、アイドルを目指す、という道を選びました」
「この選択を取ったからこそ、私たちはここでしかできない学園生活を送りたい、いえ、送らなければなりません」
会場全体を見渡しながら、話を続けていた彼女はここで一呼吸置いた。
そして、彼女は舞台上から見て右側、職員が集まる場所に身体を向ける。
「この学園を、アイドル業界を席巻するようなアイドルになるため、私たちは先生方、職員の方々に大変お世話になります。三年間、よろしくお願いします」
彼女は舞台上から見て左側、上級生が集まる場所に身体を向ける。
「私たちはまだ若輩者ですから、先輩方の背中を見て、立派なアイドルになれるように精進します。先輩方にも大変お世話になります。よろしくお願いします」
最後に彼女は同級生の方を見た。
「これは新入生代表としてではなく、私、佐倉灯叶からの言葉です。私はこの学園に一番の成績で入学しました。そして、これからも一番、という座を譲るつもりは全くありません。みなさんと敵対する気はありません。共にアイドル活動に励みましょう。しかしながら、一番は私が取り続けます」
宣戦布告、挑発ともとれる発言だった。静稀はそんな彼女の言葉に、不安げに周りを見た。喧嘩を売るに等しい言葉で反感を買うのではないかと、感じたからだ。
けれど、新入生の反応は彼女の考えとは異なっていた。灯叶の言葉に奮起されたように、表情をキラキラさせていた。
挑戦的な言葉であったが、彼女は嘲るように発したわけではない。あくまでその発言が本心であり、今ここで発するべきだと考えたから、言葉にしただけだった。
その思いを新入生はしっかりと受け取ったのだろう。ここで彼女を目指すべき目標としたか、超えるべきライバルと認識したか、新入生は自身の目指すアイドルというものをさらに明確なものにしようとする。
静稀は彼女たちをより一層、眩しい存在だと感じた。
「ご清聴ありがとうございました」
灯叶は自身の言うべきことを全て明かしたからか、すぐに一礼する。彼女に学園長からの挨拶に劣らない盛大な拍手が鳴り響く。彼女は満足げに舞台から降りた。
静稀は灯叶の覚悟を改めて知った。これだけの気持ちを持って、この学園に入学したのである。
そしてそれに劣らないぐらい、周りの新入生も覚悟を決めている。
静稀自身も、灯叶のそばにいたいという強い思いを持っているが、彼女たちの感情を肌で感じて、少し気圧された。
目をつむって俯いて、灯叶の発言を強く胸に刻み込むことにする。
閉会の挨拶はさらに端的なものだった。
こうして、初々しくも、強い意志を持ったアイドルの卵が誕生した。