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5_遊び続けるための用意。

 「どんな遊びでも、大切なのはみんなで楽しむことです」優さんが言います。

「『つくたん』にもかなりページを割いて書かれていましたね」詩織さんが答えます、そして該当のページ、冒頭の方を開きます。

「ロールプレイングゲームは、みんなで話し合って物語を作っていくような、対話を中心にしたゲームです。相手の発言を最後まで聞いてあげましょう、不快な表現はできるだけ避けましょう、ゲームの進行を阻害するほどの議論は、とりあえず棚に上げてしまいましょう、後で場外で乱闘してください。つまりはできるだけ相手のことを慮って、誠実な態度で臨みましょう、という趣旨のことが描かれていましたね」

「その通りです、優さん覚えているんですね、すごいです」詩織さんが感心します。

「ある程度年代が新しい、RPGのルールブックには必ずそのようなことが書いてあるんですよ、ゴールデンルールと呼ばれることもありますね。僕が最初に知ったのは、お尻で水道管を破裂させることが得意なアメリカお化けさんが、書かれた文章でしたでしょうか。細かいところは忘れましたが、熱くなりすぎるといけないのだなぁと、客観的に自分を省みれるようになりました」あの頃は僕も若かったなぁ、と懐かしむ優さんでした。が、優さん、あなた別にそれほど年寄りなわけではありませんよね。

「すごいですね、水道管をお尻で、ですか!」

「いやそっち!?」


「それほど、黎明期、この日本という国のRPGの夜明けあたりには、混沌としていたんですよ。ルール通りにするのが一番であるとか、いや、演出やストーリ進行が美しければそのあたりは2の次だとか」とつとつと語る優さんです。

「ええとそれはつまり、このタイミングで死ぬのはお話的におかしいから、矢は当たらなかったことにしようとかですか?」詩織さんが尋ねます。

「逆に、ここでこのキャラが死亡する方が自然だよねと、他のプレイヤーに自分のキャラを死亡させることを、圧力を込めて意見したり」

「それはひどい」

「ルール神格化はそれはそれで、ささいな点でもルールに当てはめようとか、解釈しようとかするのでプレイがこうカクカクと止まるんですね。ついにはそれはルールに設定されていないからできないとか言い出したりもするわけです」

「できるだけルールは守るべきではないんですか?」詩織さんが首をひねります。

「全く無視するのはもちろん論外ですが、そもそも現実世界の出来事を全てルール化して、難易度とか目標とする達成点とかを数値化することは不可能ですので、そのあたりはフレキシブに対応しないといけないとは思うのですよ、でもその柔軟に対応するといっても何らかの基準が必要になるわけでして」

「ああ、ですから、皆さんが不快に思わない、楽しめるように、というのが」

「はい、基準として設定されて、明文化されるようになってきたのでしょうね」

「RPGにも歴史があるんですね」詩織さんがうなづきます。

「まだまだ浅いですけれどもね」優さんが付け加えます。



「演技をどこまでするのか、という問題もあるんですよね」優さんが続けます。

「ええと、キャラになりきるということですか?それはいけないことなんでしょうか?」詩織さんが疑問点を返します。

「キャラの設定があまりにも反社会的で不快であるという場合もありますよね、でそのようにこう嫌われ者キャラでそのままなりきってプレイされてしまうと」

「あー確かに、それはその場が不快になりそうですね」ちょっと納得する詩織さんです。

「じゃあ、そういうキャラクターは設定してはいけなんですか?」疑問点を返してきます。

「別に設定してもいいですよ、ただし、それは架空のキャラクターでありそれを操っているプレイヤーとは別なんですよということをしっかり意識する必要があるでしょうね」

「ええとよくわかりません、優さん」

「そのキャラクターの行動が、ゲームをより面白くしたり、お話を盛り上げて、進展させてくれるなら、それの心情とか立ち位置とかあまり問題にならないのですよ。例えば、そのキャラクターは利己的に動いているつもりでも、結果として謎を解決したり、囮になったりして事態が動いたり、誰かの盾に偶然なってしまったりする、ように、プレイヤーが動かすわけです」

「なるほど、つまり神の視点で動かすことを意識するということですね」

「詩織さんは、たまに小学生離れした表現をしますねえ」

「こう見えても、読書家ですから」ちょっと胸を張る詩織さんです。


「その場合でもあまり汚い言葉やら、気持ち悪い描写は避けるべきでしょうけどもね。だいたいはゲームを始める前に、どの程度のレーティングでやりますのでとか軽く認識を合わせておく方が、事故が防げていいと思いますよ」

「そうですね、私たちのするゲームではどのくらいのレーティングでするんですか?」X指定ですか?と続けて尋ねる詩織さんです。

「僕ら未成年ですよ、でも身内で楽しむ分にはいいんですかね?そういえば文章表現では成人指定がないんでしたっけ?」わいせつな文章だとダメなんですか、ちょっとタブレットで調べてみた優さんでした。

「配布がダメなので、個人で楽しむなら問題ないのでしょうか?」同じく調べていた詩織さんが言います。

「そうなのですかね?」優さんが首をひねります。

「私と優さんが個人的に楽しむなら、X指定でもいいということですか」

「いやその表現問題がありますよね、わざとですか詩織さん、そんなに通報案件にしたいのですか」疲れた顔で反論する優さんでありました。

「そもそも青少年保護育成条例とかに引っかかりそうで、この状況とか落ち着かない時があるんですけれども?」さらに続けて言う優さんです。

「優さんはそんなことしませんよ、というか既に剥かれてますよね私?」言った後で赤面する詩織さんです。

「ううう、小学生が剥かれるとか言わないでください。わいせつ行為は断じてしていませんからね」こちらも赤くなっている優さんです。

「はい、少し話しただけでも、わかります、優さんはいい人です」

「む、無条件の信頼が眩しいのですけど」

「だって、私まだ体無事ですよ?えと、それとも何か悪戯してます?」こう、手を胸の前で開いて、左右の手の指の先をくっつけてもじもじとする詩織さんです。

「してません!小学生女児に欲情するほど、変態じゃないです!」小さく叫んだ優さんでありました。

 その慌てる姿を見て面白そうに笑う詩織さんでした。意外に性格が黒いのかもしれません。


「話を戻しましょう、僕らの遊ぶ『つくたん』の世界は結構、魔物とか悪人を退治するときに暴力的な表現をすることもある世界観ですから、その辺はちょっと濁す程度でいいですかね?」優さんが言います。

「ダンジョン探索の、ソロシナリオで結構エグい表現とかありましたから、別にその辺はもっと直截的でもいいですよ?」詩織さんが、ちょっとハイライトの入った目をしながら返します。

「あー、あれは確かに、えげつない描写がありましたね」同じく目から光が消えている優さんでありました。

「松明を片手に構えた状態で上から油が満載のバケツが降ってくる場面とか、どうしてあそこまで、肉の焼けるところを描写してしまったんでしょうね」遠い目のまま詩織さんが語りますと。

「僕は、生きながらネコ科の猛獣のお夜食になってしまった箇所の描写が、今でも脳裏に残っていますよ、あれはそう、名前はアリッサさんという女戦士でしたね」同じく遠い目をする優さんでした。


 あまり話を続けても精神衛生上よくありませんので、すっぱりと頭を切り替えて、ぼんやりと、やんわりとした表現を心がけましょうと、取り決めました。


「恋愛要素はどの辺りまで踏み込みましょうか?」優さんが恐る恐る聞きます。

「一応、性教育は受けていますよ?後、じーじのコレクションの小説からの知識からですけど、相応の耳年増的な知識はあります」実践はまだですけど、とのたまう詩織さんです。

「うわ、この娘さん、野放しにすると危ないタイプでしたか。ええと羞恥心とかどうなっているんでしょう?」素直に尋ねる優さんも優さんだと思います。

「ええと、時代劇の登場人物でお武家さんのいい娘さんくらいの貞操観念は理解していますよ。それと、ええと、女性が弱い立場にあるというくらいの常識的な、防衛知識はあります。今の所男の人と付き合う気もありませんし」

「左様ですか」

「あ、同性愛には興味があります」

「」ぶっと吹く優さんです。

「創作上の話ですが、男の人どうしとか、女の人どうしとか、ファンタジーですよね」

「そっちですか!ええと、もしかして結構腐っておられますか?」

「忌避感がない程度ですね」にっこりと笑う詩織さんでありました。

「お爺様の書庫にある作品のラインナップに興味が湧いてきました、僕のその辺嫌いじゃないんですよね」

「通報案件でしょうか?」

「現実には興味ありませんからぁ!」

「それはそれで、問題のある発言だと思うのです」じんわりと汗をかく、詩織さんでありました。


 その後、話し合いの結果、恋愛要素はできるだけ比喩を多用して、直接的な表現は避けると取り決められました。安全に、あくまでも安全にです。


 (((安易に、タグを増やす気はないのです。)))


「ボーイズラブ要素はあってもいいですよ?」男同士の恋愛という意味です。

「僕のキャラクターのマリンさんの性別は女性に決定しました、今、たちまち」


 それはそれで、普通の恋愛模様が描けるのでいいのではないでしょうか?と思う詩織さんでございました。


「ええとシナリオはルールブックに載っているもので良いですよね?」優さんが確認します。

「ソロシナリオだけじゃなかったでしたっけ?」詩織さんが疑問点をあげます。

「このシナリオは、一人じゃなくてもできるんですよ。むしろ複数人推奨ですね」

「あ、本当ですね、どうりで鬼のような難易度であるはずです」

「二人くらいではあまり変わらないかもしれませんけどね」

「このシナリオ作った方、どれだけ性格が悪いんでしょう?」不思議そうな表情の詩織さんでありました。

「たぶん本人が聞いたら喜ぶと思いますよ」優さんが、慈しむような笑顔になります。

「ええと、そういう趣味の方だったのですか?」詩織さん、驚愕の表情です。

「だいたい、ゲームマスターとか、市販のシナリオを作成するクリエイターとかは、どうにかしてゲームで遊ぶ人たちを苦しませて、楽しませようと、考えている奴らばかりだそうですよ」肩をすくめて優さんが言いました。

「変態さんですか?」少女の素直な感想です。

「まあ、大なり小なり、創作をする人はどこか精神が歪んでいて、そのたわみをどうにかした結果、何らかの作品が生まれる、とか言うらしいですしねぇ。たわみを正そうとするのか、そのままに共生するのか、さらにひん曲げてどこか、遠い地平の彼方まで到達しようとするか、スタイルは色々である、らしいです。少なくとも僕の知る限りゲームマスターを嬉々としてやっていた人たちは、ちょっと個性的な人達ばかりでした。そして、規模の大小はありましたが、あの人達は、クリエイターでしたよ」ちょっと遠い目をする優さんでありました。


「ゲームマスターと言うのはなんなのでしょうか?」詩織さんが尋ねます。

「『つくたん』にもどこかに書かれていたと思いますよ。

「一応読んでは見たのです。ゲームの進行役とか、判定を公正にする審判役とか、シナリオを作成してプレイヤーで楽しむ存在とか。でもあまり具体的にどうするとまでは、読み解いていないのです」詩織さんは、言います。

「あー、詩織さん、RPGのリプレイとかは読んだことは?」

「まだないです。えと、じーじ様の書いたのは少し読みましたけれど、その時は、ゲームマスターは決めていなかったみたいです」思い出しながら言う詩織さんです。

「おじいさん、リプレイまで書いていたんですね。そういうスタイルなのか、まだ別にゲームマスターをあるタイプのプレイもしていたのか、わかりませんけど、結構多くのロールプレイングゲームのシステムでは、プレイヤーとは別の役割でゲームマスターという立ち位置の参加者を立てることが多いんですよ」優さんが説明を続けます。

「『つくたん』はその立場がなくてもできるゲームなんですか?」

「十分にできるように作ってありますよ。参加人数が少なくてもできる、”一人でも出来るもん”が、売りの一つですし『つくたん』。シナリオもオートで作成できるルールもありますし、アドリブで展開していってもそれなりに、遊べるシステムですから」

「へえ」

「まあ、それでもゲームマスターがいれば、それはそれで、また別の楽しみ方もできますよ」


「じゃあ、そのゲームマスターってなんなんでしょうか?」詩織さんが改めて問います。






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