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21_逃げないで、180度転進。

 「このようにフィクションの世界を耽溺するというのは、現実世界からの逃避ではないでしょうか?という心配もあるんですけども」みどりさんが、ちょっときになることを言いました。

「それもありますね、というか逃避のどこが悪いのでしょうか?その場所にいることが致命的な結果につながるなら、それは避けるべきでしょう?」優さんがさらりと、議論を回避します。

「ああなるほど、必ず戻ることを前提とするなら、一時的な撤退はありということですね、わかります、危険は避けるという観点は。それでもあえて危険とか苦しみとかの、デメリットを取ってその先の報酬を求めて進む場合はどうなのでしょうか」みどりさんが尋ねます。

「そうですね、そういう場合もあると思いますよ」詩織さんが肯定します。

「それでは安易にリスクを避けるような、そのようになりやすい、習慣は避けるべきではないのでしょうか?」みどりさんが重ねて尋ねてみます。

「そういう側面もありそうですね。けれども、心を休める方法を全く知らないというのも、やはり問題だと思うのですね」詩織さんが考えながら、言葉にします。

「?休みたいのなら、何もしなくて、ゆっくりリラックスしていればいいんじゃないかな?」みどりさんは、そこを突き詰めてみます。

「いいですねー、たまにしますよ私も」詩織さんが賛同します。

「僕の場合はそうすると、あ、やっちゃったな、とか思っちゃうので、難しいかもしれないのです」優さんがちょっと反論めいたことをします。

「『やっちゃった』?」詩織さんが疑問点をやまびこにします。

「うん。こう、時間を無駄にしちゃったな、とか。もったいなかったなとか、そういう意識が湧いて出て、リラックスとか、回復しきれない感覚になる、のですよね」少し、休日の夕方、赤く染まる空をベッドの上から見てしまった事を思い出して、切なくなる優さんでございました。

「夕方まで寝てしまう休日ですか、確かにそれはもったいないなーとか思っちゃいますね」詩織さんが同意しますし、みどりさん、あきらちゃん、すみれさんも頷いています。

「まあ、そこまで寝てられねーけど、僕ら」すみれさんが、言外に僕らまだ若い小学生女子だから、みたいなニュアンスを伝えて、優さんは、僕は歳をとったのでしょうか?と少しショックを受けています。


「朝起きたら、軽く運動をしてみますね。体を動かしていると結構リラックスできますよ?もちろん水分の補給やら、運動することによる不具合を緩和してからですけど」と、みどりさんが言うのですけれど、基本的にインドア派の優さんや詩織さんは菩薩のような表情で曖昧に頷くだけでございます。

「私はジョギングというか、走り込みに近いことをしてますよ。体を動かすのは気持ちがよろしいですよ、本当に」

「いや、理屈はわかるのですけれども」

「体を動かす習慣になってないのですよね、僕らは」詩織さんと優さんが、反論とも言えないような意見を口にします。

「僕は体操くらいはするかな?」すみれさんは、そう言いながら、肩をぐるぐると回します。

「私、朝は軽くシャワーとか浴びて、瞑想する習慣がある」あきらちゃんが片手を上げて宣言します。

「ああ、朝風呂って気持ちいいですよね」ちょっとずれた感じで同意する優さんです。

「どちらかというと、禊の代わり?」疑問符をつけて返答をするあきらちゃんです。

「汚れを祓うわけですか、神道の考えでございますね」詩織さんがコメントを返します。

「どちらかというと、精神集中、とか、整える、落ち着かせる、対応を平坦な心で行えるようにするとか、恣意を削ぐとかの意味合いの方向性が近い?感覚に任せやすく行動するための、スイッチを入れるみたいな感じかな」うまく説明できそうにない感覚を、伝えようとして言葉を重ねるアキラちゃんでございました。


「そもそも逃げるという言葉にネガティブなイメージがつきすぎているのではないかなぁとか、僕は思うのですよ」優さんがお話を戻そうとします。

「逃げちゃダメだ、なんじゃないのか?」すみれさんが、結構生き残っている、元が何だかそろそろ判明できなくなっているような台詞を公開します。

「回避もせずに攻撃を受け続ける戦士とかありえないじゃないですか」優さんがロールプレイングゲーム的と言いますか、ゲーム的な指摘をします。

「確かにそうですね優さん、回避を捨てた戦士なんているはずがありません」詩織さんが感心して追従します。

「いや、そういう戦士も珍しくはないんですが、そういうのは防御力とか回復力を爆上げしておいて回避に変えているわけでありまして。言いたいのは、逃げるのはダメージコントロールの一つであって、立派な戦略でもあるし、戦術でもあるわけですよ」ちょっと口数を多くして語る優さんでございます。

「それはわかりますね、わざわざディフェンダーが待ち構えているところへドリブルで突入するフォファードはいないわけですから、的確にそれを避けて、パスを回したりしますね」サッカーで例えるのは、みどりさんです。

「なのに、現実で、逃げることに対して評価が厳しのがおかしい」アキラちゃんが指摘します。

「雰囲気なんだろーな、こう真正面から突き当るのが、美しいという風潮、と言ってもいいかもしれん、少年漫画風な感じ」すみれさんが腕を組みながら分析します。

「そうなのですね、基本、流行り廃りの部類だとは思うのですよ、長年の風習が作り出した幻想なんですよきっと」優さんが追従します。

「幻想でない現実は存在する?」根本的な疑問を唱えるのはアキラちゃんです。

「現実は共同幻想であるというのはもっともな意見だとは思いますけれども、幻想であるならば、それは作り変えることができるということでもありますので、結論から言うと、どちらでもよろしいのではございませんか?」お茶を優雅に手にとって、発言後飲んでいく詩織さんでございます。


「戦時中とかそれに備えての兵科の教練とかも歴史的には関わってきているのかもしれません、こう、兵士が逃げることを考えてしまうと戦争ができないでしょうから」優さんがちょっと憂鬱な表情になって言います。

「それもありそうですが、それ以前に、少数の犠牲で多数を生かすことができるという戦略を有効にするためには、自身の不利益を無視しても、前に進む、危機に飛び込む人材が必要であるから、逃げることを忌避するように文化が作られた、可能性もございますね」詩織さんがもう少し過去の文化てき側面から、指摘します。

「その捨てごま志願の人材を育成するための文化が現在エラーとして浮かんでいると?」アキラちゃんが踏み込んでみます。

「エラーというか、齟齬は昔から存在はしていましたが、今現在、個人の人権が大切なものだとされてきている中で、その辺りの矛盾が浮かび上がって目立ってきたのかもしれませんね」詩織さんがなんとなく指で宙を指し回しながら、会話に乗ります。

「民主主義の弊害」アキラちゃんがつぶやきます。

「ああ、そちらの方向性もありそうだ」優さんが同意します。

「ええとどういうことでしょうか?』みどりさんが、模範的な問いを発します。

「つまりは人を育てるコストが大きくなっているのに、その使用方法が全時代的な概念やら風習をもとにしているということですか」優さんが説明しようとして、何かを省いてしまいます。

「つながりませんよ優さん、その説明では」詩織さんが指摘します。

「そうだね。つまり民主主義というのは、みんなで考えて社会を運営していきましょうというものでして、そのためには、それなりの教育やらを国民に施さなければならないわけですよね」

「そうですね、義務教育とかそのままそれがお題目の一つなわけでしょうし」みどりさんが合いの手がてらに、自身の認識を提示します。

「これはつまりは、個人が国家の行くすえを考えられるくらいの知恵を持ってもらおう、という政策なわけですけど、これにはかなりコストがかかるのですよね」優さんが、コストというところで指を立てて、ポイントですよここと、話します。

「まあ、わかります」

「でもですね、社会的には、逃げてはダメで、困難には立ち向かうべきであるという認識のもと、労働者に無茶を強いる風潮があったりするわけです。そして、その過程で倒れても、それは尊い犠牲という、語句でごまかしたりして、コストの一部として許容してしまうのですね。昔はそれでもよかったのですよ、人がたくさん、安く大人にできましたから。でも今はそうじゃないですよね」優さんが立て板に水のように喋ってみます。

「ああなるほど、高いコストがかかるようになった大人を、ある程度使い潰すことを前提すると、それはまあ、よくありませんね」みどりさんが納得します。

「ある面から見ただけですけどね。多分もっといろいろな現象が社会を窮屈なものにしているのだとは思いますし、専門家ではないので、正確かどうかすら検証できないですけど、そういう風に捉えることができると、僕が思っているだけなんですけどもね」ちょっとしどろもどろになる優さんでございました。


「いやお前ら、小学6年生がしている会話じゃねーだろ、正直、よくわからんわい」すみれさんが、冷や汗を流しながら、少し離れたところから声をかけるわけでございました。



「簡単に言うと、別に現実から逃避しても、その後にコストが回収できるならそれはリソースを割く理由になるんじゃないかなと」優さんがまとめます。

「なるほど、逃げてもいいのか」すみれさんが納得したような顔になります。

「程度には寄るような気もしますよ」みどりさんが一応歯止めのような言葉をかけます。


 立ち向かうのも逃げるのもほどほどがよろしいのでございましょうね。


「それはそれで、本当に現実から逃げてしまって帰ってこない方々はどうすればよろしいのでしょうかね?」詩織さんが、ちょっと上の方を眺めながら発言します。

「物理的に逃げ切れないのですから、そのうち戻ってくる可能性は高いとは思うよ」優さんが言います。

「いえ、それは戻る場所がある方のお話で、逃げている間に、戻る場所を失うとかよくありそうな感じもするのですけど」みどりさんが反論します。

「やっぱ親とかに頼るんじゃねえか?」すみれさんが、まっとうな意見を言います。

「保護者が的確に対応できるかはまた別問題」アキラちゃんが言います。

「まあ確かに、親になる試験とか受けて合格したから、子供を育てているわけはないですし」優さんも同意します。

「昔はどうしていたのでしょうね?」みどりさんが気になりますね、と尋ねます。

「それこそ、労働力としてカウントしていないと生き残れないという時代なら、自然と現実から逃げている暇はなかっただろうし、逃避という概念自体が余裕がある時代のものではないのでしょうかね?」優さんが考察します。

「余裕が生まれたからこその逃避」アキラちゃんがポツリと言います。

「最初にも言いましたが、逃避という言葉がネガティブなだけで、文化的活動とか、芸術的なとか、冒険心あふれるとかも、根っこは同じなんだと思いますよ、つまりは、生き残ることだけに時間を使わなくなったという、余裕な生き方なわけですから、ようは遊びな訳で」優さんがもう一度、逃げることについての概念が凝り固まっているのでは、と意見を言います。

「ええとそれは無駄なことをしているということ?」みどりさんが言います。

「無駄だから、いいんでしょうねぇ」優さんが肯定して、否定します。

「そうね、無駄なのは、とても豊かなことですからね」詩織さんも同調します。


 アキラちゃんも頷いています。

 みどりさんは、まだ疑問符が顔に浮かんでいます。

 すみれちゃんは、飽きて、カーペーットの上をゴロゴロしています。ネコですか。


「ええと無駄なのはいけないことではないのですか」みどりさんが、素直に聞いてみました。

「それを捨てるなんてとんでもない!とか言われる類のものでもありますよ、無駄というものは、つまりはそれは余裕、とか遊びとかでありますから」優さんが持論を述べていきます。

「遊びがない社会とか機構とかは、何か突発的な事象が巻き起こった時に、脆いそうですよ」詩織さんもそれに追従します。

「ええと、それは無駄なものではないのではありませんか?」みどりさんが混乱しています。

「無駄と遊びと余裕は見方を変えたものですから、都合の良いように言い換えて使用しているだけでしょう。コストを削減したい方がそれを無駄と呼び、安全度を高めたい方がそれを、余裕と呼ぶわけでございまして、ものも言いようということでございましょうね」詩織さんが説明を重ねてみます。

「まあ、どう見ても無駄にしか見えないというものもありますでしょうけど、万人が否定する事象は、つまりは、人以外から見れば有益なものであるという可能性もあるわけです」

「それは詭弁のような?」首をひねるみどりさんです。

「一見役に立たないことも、のちにつながってくる」

「アキラちゃんが言うと説得力がありますね」アキラちゃんのセリフに的確に言葉を返す詩織さんでございました。




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