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11_遊びの証明。

 「こんにちは、お邪魔します」すみれさんが、詩織さんに連れられてやってきました。一度詩織さんは、自宅に戻って、午後に訪ねてきたすみれさんを案内して優さんの部屋へと現れたのでした。

「はいいらっしゃいませです。今日はよろしくお願いします、奥の部屋へ入ってください、テーブル周りに適当に座っていただけると、はい、良いかと思いますので」優さんの言葉遣いが少し変になっています。

「優さん、そんなに緊張しなくていいですよ?」詩織さんが少し笑いながら言います。

「いえ、初対面だと誰に対しても結構こんな感じになってしまう僕なのですが」優さん、ちょっと顔を赤くして、反論します。

「そうですやですぜ、あれ、こうじゃないや、ううんと、そう、気楽にいきましょう、ゆーさん、こちらこそよろしくなのでありますぜ?」こちらも少しわたわたしながら、応えるすみれさんです。今日も、ズボンタイプで、ジーンズ姿です。上着も軽くジーンズ生地のジャンバーを羽織っています。

 手には、小さめの、黄色のリュックサックを持っています。

「そう言っていいただけると、あ、サイダーお好きですか?」

「好きですね、よく飲みますよ」

「じゃあ、コップ出しますので、駆けつけいっぱい」

「お酒じゃないんですから、優さん、落ち着いて、まずは優さんがいっぱい飲んで、落ち着いたら、よろしいのではございませんか」

「あ、『まずは君が落ち着け』じゃね」すみれさんがツッコミます。

「お?結構懐かしいネタが飛んできましたね?」

「家であの映画は見たんですや、父が好きでして、あーゆー特撮?物?」

「まあ、あれはペットボトルのお水でしたが」

「優さんんとすみれさんが私に分からないネタで盛り上がってますね。疎外感を感じてしまいます」

「あ、ごめんな、今度一緒に観よ、あれはいいものやから」

「倉庫を探せば、出てきそうな気もします。確かパンフレットこみで保存してあったような?」優さんが、付け加えます。

「いいですね。それはノベライズはしているのですか?」

「シナリオが書籍になっていたかもしれませんが、ちょっと詳しくはわからないですね」


 三人はそれぞれ、ローテーブルにつきます。ごそごそと鞄やら、リュックやらから筆記用具を取り出していきます。

「ええと、それじゃあ、そろそろゲームを始める準備をしましょうか?」

「はい優さん。ええと今日はどんな感じで行うのでしょうか?」

「すみれさんが『机上世界の冒険譚』略して『つくたん』初心者ということですので、まずは簡単にキャラクターを作り上げてルールの確認を兼ねて付属のシナリオをやってみようかなと」

「ゴブリン退治でございますね」

「あ、よろしくお願いしますね。で、やっぱりゴブリンって何ですか?とか質問した方がいいんだろうか?」

「えと、知っているんですか?というか、その手の内容は結構詳しいでしたよね?」

「バーレターカー。いや、まあ、漫画になったよーなファンタジー系列のやつは結構乱読していたし、お父さん、そういうの好きだったから、家に結構あって、小さな時から読んではいたんよ」ちょっと外連味たっぷりにお話を返すすみれさんでありました。

「ちなみにどんな漫画がお好きなのでありますか?」優さんがさらに水を向けます。

「そうですね、いわゆる剣と魔法の世界は好きですよ。一度文明が崩壊した未来の地球で、魔法が復活して、主人公の魔法使いが封印をとかれて、お姫さまとか、大神官との娘とかと大冒険をするとか?主人公が鬼畜というか、非道というか、人間離れした外道?なのが、いいんですよね。呪文とかも格好良かったですし」

「へー。ああもしかして『あれ』ですか?こういろいろ曰くつきの、担当編集者が土下座したとか」

「それそれ。ちょっとエッチな描写もあったりして、少年誌でいいのかな?とかツッコミどころがありまくるやつで。掲載誌を道連れにして爆発四散したとかいう噂もあったやつです、完結していれば、もっと良かったんですけどもねぇ」

「確かになぁ。あれ?完結していなかったでしたっけかあれ?」

「そのあたり突き詰めていくと矛盾が生じるといいますか、未来を予知しなければならなくなるかもしれないので、深く掘り下げない方がよろしいかと、思います」静かに詩織さんが、口を挟んできます。

「そ、そうだね」

「うん、そだね」


「他にも、『呪われた島』とかのコミカライズと、あれは確かアニメーションも見たことがあるかもしれないですね。一見ライトに見える『幸運を探して』シリーズも、読んだことはありますよ。『ダンジョンでご飯を食べる』ことをテーマにしたものも面白かったですし、ゴブリンということなら、そのまま『ゴブリンを狩ることに命をかけた戦士』の物語や『朝起きるとゴブリンになっていた』みたいなお話とかも読んだことがあるや」

「おおう、結構新旧合わせて、ディープなご趣味のようで?」

「まあ、漫画しか読んでないけどな。詩織みたいに小説とか文字ばっかりのものは、こう読んでいて頭が痛くなるんだ。キャラの位置、これは空間てきな話な、も、わかりにくいしなあ。ただ、一時、異世界へ行ったり、転生したり、召喚されたりとかのジャンルが小説でバーと流行った時に、合わせて山のように小説がコミカライズされていたんで、比例してその手の漫画も結構読んだぜ?」

「ああ、僕も結構手を出しましたよ。こっちは小説がメインでしたけど。電子版じゃなければ置き場所に困るような大きさの書籍で、文庫で出してくれないかなぁとか思いながら、結局結構の量と購入したりしました。主に古本屋ですけれどもね」

「お爺様も一通り、興味の惹かれたものは買い揃えてありましたわ。私はまだ読んでいませんけれども、ええと、ジジ様、確か昔、似たようなタイトルが多すぎて、整理に苦労していたような記憶がうっすらとございますわね。指輪物語とか置いていた棚にしまってましたか?大きさは同じような感じでございましたけど」

「あー、お爺さん、赤色の本で指輪物語を持っていたんですね。結構筋金入ですねぇ」関心する優さんでありました。

「文庫本も近くにありましたから、わざわざ探したのでしょういか?私は大きい方で読ませていただきましたけど、面白かったです」

「小学生が読むには冗長な物語だとは思いますが、まあ詩織さんですから違和感はありませんね」

「ありがとうございます?」

「しおりん、学校でも少しの暇があったら何か読んでたもんな。図書館の貸し出し件数なんて小学校で1位じゃなかったっけ?」

「だいたい読みたい本は読んでしまいましたね、結構自宅にある本と重なるものも多かったですから、それほどは借りてないかもしれませんけど?」

「うん、あんたんちの本の数は、非常識な感じだからね、そこは自覚しておこうな」

「そんな……」

「いや、今更ショックを受けたような振りをされてもな」

「知ってましたけれど」けろりと宣う詩織さんでありました。

「うん、詩織さんのお爺様の書庫は、僕も興味があります」

「よければ、今度いらっしゃいますか?ちょうど薫さんも食事にお誘いしましょうかとか言ってましたから」

「大家さんからですか?そうですか、いいですね」

「あー、いいなあ」

「すみれさんも一緒します?週末の夜とかになりますけども?」

「ううん。どうかな?予定がなければ大丈夫だと思うけど、詩織の所なら心配されないしな、店が忙しくなければ?」


「ええと、すみれさんはどんなお話が好きなのでしょうか?」

「その質問の意図する所はどこだい?優さん」

「ゲームのシナリオとか進行の指針とかにしようかと」

「そういうことなら、そうだな、私はダークヒーロー的なのが好きかな。法の外にあるような相手を闇に紛れてしまつするような」

「仕事人的なお話が好きなのですね」詩織さんが相槌を打ちます。

「仕事人?ってなんだい?」

「表立っては、はらせぬ悪を討つと言うコンセプトのお話で、江戸時代がモチーフになってます。昔何度かテレビドラマ化している時代小説です。こう、権力とかと癒着したりして社会的に守られている、悪人を、適度な金銭で暗殺する筋書きですね」

「正義の暗殺者みたいなものかい?」

「正義と一口に言ってしまうとどうかなとかは思いますが、弱者の味方であるのは確かでありましたでしょうか。『死して屍拾うものなし』とか特徴的なフレーズがあったりしましたけど」

「詩織さん、そのフレーズは仕事人ではなくて隠密同心だったと思います」優さんからのツッコミが入りました。

「ううん?どうかな、そういうんじゃないよ気がする。そうじゃなくて、過去に色々あって、そうだな元暗殺者とかで何かがあって引退とか、転身するんだよ。でも、過去が追いかけてくる、ような感じで」

「抜け忍ものでございましょうか?」

「ああ、そういう捉え方もありますかね?時代小説が基本なのですか詩織さん?」優さんが引き取って話をつなげます。

「うんハードボイルドな渋いオヤジの元暗殺者とか、影のある美人の女暗殺者とかのイメージから、一息に、古風な着物の短刀を逆手にもって草むらをかけていく少年の姿へと変わったぜ、どうしてくれる?」

「おうジャパニーズニンジャ、ワザマエヒロウ、でございましたか?」

「詩織さん、あれ読んだことあるんですか?」

「歴史物とか捕物系の棚に紛れ込んでいたんですよ。あ、ジャンル間違えましたねお爺様とか一瞬思いましたけど、もしかしたらわざとかもしれませんね。こう一種のジョークと言う可能性があるような気がいたしましす」

「いやそれ違うから、どうせ忍者やるんなら、そっちじゃなくてセクシー路線で、くノ一で。トンデモ設定は、さすがに遊びきれそうにないからな!」

「くノ一というと、先の副将軍的なドラマのお色気担当ですね」

「ごめん、わかんない」

「さすがに古すぎましたか」

「むしろ詩織さんがそのドラマを知っていることに驚きなんですが」

「それは優さん、私の祖父とそのつながりで薫さんもそれが好きだったからです、その影響ですね」

「お爺さん多趣味だったんですね、まあ確かに、あの作品はテーブルトークRPGのシナリオネタ広いにもぴったりだったようですし」

「そうなのですか?」

「だから、なんだよその副将軍とかって」

「ええと、かなり高くて権力よりの身分を隠して、諸国を巡っている老人一向が、その地方地方で、権力を盾に悪さをしている悪人に対して、その悪事の証拠を集めたりして、追い詰めて、で、それに対して権力とか暴力とかでもって、切り抜けようとした悪人とかその集団相手に、最後に身分を明かして、懲らしめると言う形で進めていく時代劇ドラマが昔ありまして」

「なにそのご都合主義展開」

「安心して見られる、勧善懲悪モノとしてお茶の間の人気を集めていたそうですよ?」

「そうなのか。と言うかお茶の間ってのもあまり聞かない言葉だよな」

「リビングとかの言い換えでしたでしょうか?確かにどうしてお茶の間なのでしょうかね?」

「昭和は遠くなりにけりですね」優さんがサイダーの瓶を傾けて、コップにおかわりを注いでいきながらつぶやきました。


「さて、共通認識がずれてきましたね。前提の知識に偏りがあるのでこのようになるわけですが、すみれさんはつまりは、過去がある、影のあるキャラがやりたいわけですよね」

「そうそう、ええと、この『つくたん』はやりたいキャラを選べばすぐに始められるシステムで、暗殺者とか、ダークエルフとかもあるんだよな、じゃあ、それがいい」

「『つくたん』はキャラ作成が一瞬で終わるのが売りですからね。ですから全滅してもすぐに次が始められるという」

「えっ?」

「最後のは聞かなかったことにしてもらいましょうか?」優さんへ語りかける詩織さんです。

「あ、いや、プレイヤーが増えればある程度生存率は上がっていくから、まあ、大丈夫。じゃないかな、でもまあちょっとは覚悟しておけ?」優さんは混乱しているようです。

「ええと、なんだか怖いんですけど?」

「あまり過度にキャラへ思入れしてのめりこむと、ロストした時に辛いかもしれませんね」詩織さんがしんみりとして表情で言います。

「え、死亡すること前提!?」

「いやそんなことはないよ?そうならないように知恵を絞ったりするゲームだから。君は生き残ることができるか!的なテーマが秀逸ですよね」

「そうですね、その知恵を絞った結果を、カード運が全てダメにしてしまう所なんて、破滅的でゾクゾクしますよね、こうひりつくような刺激がもう」目を輝かせて言う詩織さんです。

「ええと、詩織って、そんなにギャンブラーだったっけ」ちょっと引いているすみれさんでございました。

「ジョークだと思うよ?多分?きっと、おそらく」優さんが自信なさげにフォローを入れていきます。


 そんなこんなで、ゲームが始められていくようです。




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