非日常の足音
「行くぞ行くぞッ!!流焔【プロミネンス】!!」
「招き入れては縛り咲け――。【藤】!!」
まるで生きた蛇のように鎌首をもたげて突き進んで来る炎に斬撃が巻き付き縛り切る
炎と斬撃が縦横無尽に舞い、飛ぶさまは絵梨や郁斗でなくても現実かどうかを疑う光景だがその最中にいる二人は一進一退のやり取りをしている
「くっ……!!」
「のおっ?!」
既に二人とも少なくないダメージを追っており、特に近距離を主体としている悠は避けるために地面を転がったり、多少の無茶を押し通しても接敵して行っているためいたるところに擦り傷や軽い火傷を作っている
対する女性は遠距離からの炎を用いた攻撃であるため、悠の様に体中に傷を作っている様子は無い
ただし、相手にしている悠はその技一つ一つが一撃必殺を信条とする高嶺流
一撃を掠らせただけでも女性に血を滴らせる程度には驚異的な攻撃力は女性にも並々ならぬダメージを与えていた
「やるのぉ、お主まだ20かそこらの歳じゃろう?」
「まだ16!!」
炎を掻い潜り、肉薄してきた悠の一撃を腕で受け止める
何度となく起こった鍔迫り合いに笑い声が絶えない女性と、苦い顔をする悠は対照的で両者の精神的余裕の差をまざまざと見せつけていた
「真剣であれば儂ももうちょっと本気で行くのだがな。試合用の木剣では分が悪いのは仕方あるまいて」
「舐めるなぁッ!!!!」
戦えば戦う程分かる、女性の戦闘能力の底知れなさ
悠のそれをあっさりと飛び越えて行く。それをまざまざと見せつけられる悠は歯噛みをしながら全力で噛み付いていた
「はっはっはっ、見た目によらず負けん気が強いのぉ。似たようなのが近くに居るから親近感が沸くわい」
女性の言う通り、悠は自身や周囲が思っている以上に負けん気が強く、特に武芸で後れを取るとその相手にこれでもかと食いついて行く
その性格がよく分かっていないのは悠より強い人がそうそういないからだ
「それ、そろそろ終いにしとくかの。あんまり派手にやり過ぎると怒られるでな」
「こんのぉ……!!」
余裕綽々と言った女性に対して今にもグルルルルと唸りそうな勢いで敵意剥き出しなのは段々と殺伐した雰囲気からチワワが大型犬に絡んでるそれに近くなり始めていた
「くふふふ、では行くぞ。地に噛み付きしは劫火の狂犬。堕ちた太陽――」
「っ!!天に乱れて華と舞い、ひらり落ちては花と散れ――」
一人ピリピリと感情を昂らせる悠だったが、女性が大きく距離を取り大げさに高らかと何やら唱えだす
一見するとあまりにも大き過ぎる隙に見えるが、その言葉の裏で膨れ上がる大きな何かに悠も咄嗟に同じような『詠唱』に入る
「燃やせ!焔やせ!!炎やせ!!!!その牙が焼け落ちてなお、食い散らかせ!!【炎牙地――】」
「散りゆく花は一時の華、堕ちて乱れる幻想の華!!【天華乱――】」
詠唱が進むにつれ両者の周りにはそれぞれ変化が訪れ始める
女性には火の粉が舞いながら脚に巻き付くように炎が踊る
悠の方も風が強く吹き渦巻くように髪をはためかせる中で花びらのようなものがキラキラと舞い散り始めている
あと一歩、その一振りで明らかな大技がぶつかり合おうかと言うその瞬間
「なぁにをやってんのこのバカっ!!!!!!」
ズゴンっ、と多分人の頭からは鳴ってはならない音が、辺りに響いた
「んのおおおおおぉぉぉぉぉ??!?!!?!」
「この世界在来の人相手に何ケンカ売ってるのよ!!わざわざ関係ないところで面倒を起こすなって何回言ったらわかるのよっ!!!!」
「だ、だからと言って超高速で後頭部を強打しなくてもいいではないかッ?!」
「何度言っても分からないバカには拳骨で充分よ!!」
突然降って沸いて来た新たな女性は拳骨一発。悠に相対していた女性に対して思いっきり叩き込んだ
もはや殴打に近かったそれを喰らい、涙目で地面を転がる女性をもう一人の女性が見下ろしている
「どうなったんだ、これ」
「ごめん、分かんない」
呆然とそれを眺めていた悠の下に何が起こっているのか確認しに来た郁斗も、社の中で頭を抱えている絵梨も一体どういう状況なのか、全く理解できていなかった




