非日常の足音
続々と殺到する炎弾に悠はしかめっ面を隠さないままその場を駆けだし、直撃コースのみの炎弾だけを木刀で叩き落して行く
木刀が燃えやしないのかと考えている暇は無い。実際叩き落せているのだからそんな細かいところを今考えている必要は無い
地面に着弾しては爆発する炎弾のその爆風すら味方につけながら、悠は地面を飛ぶように駆け抜け、余裕綽々で宙に立つ女性を自身の射程に収める
「風に舞え――。【楓】!!」
爆風を背に受け、一気に跳躍した悠は空中で【名付きの型】である【楓】で仁王立ちを続ける女性目掛け5つの斬撃を飛ばす
同じ斬撃を飛ばす【蔓】と違うのは【蔓】が地面や壁を這って進むのに対して【楓】は空中をその通り飛んでいく斬撃である
「ほうっ!!面白い!!」
面白いものを見た時の子供の様に目を細めて笑い、飛んで来た斬撃を避け、炎弾で相殺していく
「ハハッ!!よもやこの程度ではあるま――」
「巨木となりて空を割れ――」
「むっ!!」
「【楠】!!」
女性が【楓】の斬撃を対処し、一瞬だけ悠を視界から外している間に着地し、女性の真下に潜り込んでいた悠は足で素早く円陣を描き、その中心に木刀を突き立てる
それと同時にその円陣の中が爆ぜ、一気に空中へと目掛け樹木がいきなり生え聳えるような印象を女性に与える
「結界を空中目掛けて一気に巨大化させるとは面白い使い方をするのぉ!!」
笑みを崩さない女性は変わらず面白そうに笑い声をあげるて半身をそらして【楠】を避けるが、悠の追撃はここで終わったわけじゃない
「落とせ――」
「……ほぅ」
「【林檎】」
【楠】に乗って一緒に空中に飛び上がった悠はゆうに10mは飛んでいる
それでも臆することなく頭上を取った悠は渾身の一撃を放つ
女性もまたその渾身を受け止めるべく頭上で腕を組み、その一撃を受け止めるが【林檎】の一撃は止まることなく悠と女性を一気に地上まで落とした
「風に結界に重力操作とは多彩じゃな!!見事な魔法剣、よもやあらゆる幻想が退廃したこの世界でここまでの魔法剣がお目にかかれるとはの!!」
腕と木刀、本来なら鍔競合う事すらない地面を背にガチガチと一歩も引くことなくせめぎ合う
その中、悠が女性を押し倒しているような体勢にも関わらず焦りの表情が浮かぶのは悠の方だった
「そんな剣受けといて、今まで無傷なアンタは何なのさ……」
「さあなんじゃろうな!!次はこちらから行くぞ!!熱装【コロナ】!!」
完全に優位な体勢なのに押し切れない。明らかな地力の差に慄いていると今度は女性が地面に転がったその体勢のままニッと笑う
ゾクリと背筋に悪寒の奔った悠は女性が言葉を放つ前に一気に飛び退き、その場から離れる
勘に任せて下がった悠に伝わって来たのは遅れて動いた自身の髪の毛の先がジュッと言う音と共に髪が焼け焦げた鼻につく匂いだった
「惜しいの、もうちょっとで丸焦げだったんじゃが」
「……熱の壁か!!」
不敵で余裕な笑みを崩さない女性がゆっくりと立ち上がるその周りはゆらゆらと空気が揺らめいており、その地面もプスプスと煙を立てて焦げて行く
それを見て悠は忌々し気に歯ぎしりをしてより鋭く女性を睨み付けた
「まだまだ行くぞ!!凌いで見せよ!!」
両手を振るうと同時に沸き上がる爆炎に舌打ちを隠さない悠はそれでも果敢に女性へと挑んでいった
「なに、コレ……。映画の撮影なんかじゃないよね……」
「映画撮影なんかじゃねえよ。紛れもなく、俺たちの目の前で起こってる現実だ」
女性が起こす手品の域を超えた炎と、それを避け、斬り、叩き落し、お返しにと斬撃まで飛ばして見せるその光景はさながらフルCGのアクション映画を見ているような現実味のないものだ
「悠って一体……」
「悠ってよりは『高嶺家』がそういう血筋なんだろうな。そういうお前もそっち側なんじゃねぇのか?」
「……」
郁斗がぶつけた質問に、絵梨は目を伏せ答えかねる。対する郁斗はその答えが返って来る期待はしていなかったらしく、黙って悠と女性の戦いを固唾を飲んで見守っていた




