非日常の足音
「ぐぅッ?!」
「きゃあぁあぁっ!!?!」
身を焦がす炎とその衝撃にそう遠くない場所にいた郁斗は耐え切れず吹き飛ばされ地面に転がり、社の中にいた絵梨もその熱気と閃光、爆音に悲鳴を上げる
「――悠っ!!」
「そんな……っ!!悠っ!!悠ぁっ!!」
ようやく衝撃が落ち着いたところで身体を起こすことが出来た郁斗はその爆炎の中心部にいた悠の、現実的に考えれば絶望的な安否を確認するように声を張り上げる
絵梨も訳も分からないままに格子戸にしがみ付きながら悠がいるはずの辺りを必死に見つめる
人が吹き飛ばされるほどの爆炎にその中心地にいた生身の人間が耐えられるはずはないと何処かで分かっていながらそれでも絵梨は悠の名前を叫ぶ
「――ふっ!!」
自然と浮かんで来た涙で視界が滲んで来たその時、聞こえるはずがない力強い声と共に地面すら焼いていた炎が吹き飛ばされるように晴れる
「悠っ!!」
「とんでもないな……」
その中にいたのは火傷している様子もなさそうな悠の姿で、絵梨は悲痛な表情から一転して笑顔に、郁斗は驚愕から苦笑いへとその表情を変える
とりあえず悠は何らかの方法でその場を凌いだらしい、そう自身を納得させた郁斗は幼い頃、悠から小耳に挟んだ言葉を思い出す
「俺の剣は魔法の剣、か。まさか本当だとは思わないだろ、それ」
魔法の剣、子供の頃に自慢げに話された事を今更実感した郁斗はここに転がっていたら邪魔になると転がり込む様に社の影へと避難し、物陰から悠を見守る事にした
茫々と燃える炎。触れれば火傷で済まないその高温の炎に悠は心の中で「あっついな!!」と文句を言いながら手にした木刀に力を込めて気合い一閃、周囲一帯を薙ぎ払う様に右足を軸にして一回転する
「――ふっ!!」
轟ッと力強く放たれたそれは一薙ぎで周囲の炎を粗方消し飛ばして見せる
剣圧で辺りの物を吹き飛ばすなど漫画やアニメでしか出来ない芸当だが、悠は実際にそれをやってのける
「やろうと思えば出来るもんだね」
本人もぶっつけ本番のそれだが、悠からすれば斬撃を飛ばす【蔓】をもっと雑に扱うような感覚で扱えた
初歩、とはいかないが多分父の豪や母の桜も似たようなことは出来るんだろうなぁっとぼんやり考える。兄の新一は早々に得物である槍を手放したため、少し怪しいかもしれない
「儂の炎を耐えるか、小娘」
少し思考の寄り道をしていたところで、上から感心したような、驚いたような感情を含ませた若い女性の替えが聞こえて来た
「あんた、誰?」
「それはこっちのセリフ何じゃがの……。簡易とは言え結界に入り込んで来た挙句、獣どもを一掃し、儂の炎を耐えて見せる。只者ではないことは分かるがな?」
「それはあんたも同じだと思うけど」
そう言って空を睨み付けると、そこに立っていたのは黒髪の美しい20代半ばと思われる女性だった
革のライダージャケットに白のシャツ、ジーンズ生地のショートパンツにブーツとその釣り目な顔立ちと相まって非常に勝気で荒っぽい性格の女性像を前面に押し出したその姿はファッションショーに出ても遜色ないレベルの美女だ
ただし、何もない空中に平然と仁王立ちし、その周囲にはメラメラと沸き上がる炎の弾がグルグルと動き回っているが
「クックックッ、匿っているのと親しそうにしていたから恐らく連中の仲間ではないじゃろうが、気に入った」
睨み付けて来る悠の眼光と殺気をモノともせず、愉快そうに肩を揺らすと意味ありげな言葉と共にニイィっとその口角を獰猛そうに歪める
「ちと相手してやる。行くぞ、小娘」
そう言って手始めと言わんばかりに周囲に浮かぶ炎の塊を悠に撃ち出して来た




