非日常の足音
「なんなのよ、コイツらッ!!」
雑木林を抜け、見覚えのない小さな神社の境内に先に足を踏み入れていた悠は訳の分からない現状に悪態をつきながら、オオカミのような風貌をした獣を飛び掛かって来る順から片っ端で木刀を使って殴り飛ばしていた
一体ここは何処なのだろうかと、果たして絵梨は何処にいるのかと辺りを見渡し、唯一の建物である社に近付いたところでけたたましい鳴き声と共にこのオオカミのような獣が襲い掛かって来たのだ
「悠っ!!」
一匹、また一匹と木刀で吹き飛ばすが、オオカミっぽい獣は怯むことなく悠に挑みかかって来ており、キリがないなと思い始めた頃、悠の耳に探していた友人の驚いたような声が聞こえて来た
「絵梨?!どこ?!」
「お社の中!!何でここにいるの、ってかどうやって――」
突然聞こえて来た絵梨の頃に慌てて辺りを見まわたが、その絵梨は生憎ながら悠の背後の社の中にいるらしい
流石にこの正体不明なオオカミっぽいモノを目の前にしながら視線を後ろには出来ないのでそのままそれらの相手をしながら悠は絵梨と会話を続ける
「変な声に道案内してもらった、って言ったら、信じる?」
「へ、変な声ぇ?」
どうやってここに来たのかと質問する絵梨に、悠は悪戯めいた返事をして絵梨を困らせる
実際、よく分からないと木の葉の道に導かれて此処まで来たのだから、嘘は言っていない。信じ難いだけで
「で?絵梨はこんなとこで何してんのさ。私達に連絡もしないでっ、探しに来たんだよ?私」
ちょっと強めの言葉で言うと絵梨はうっ、と詰まったような声を出すとしょんぼりと項垂れているような声音で悠にここにいる理由を話し始める
「ご、ごめん。最近、変なのに追い掛けられたりしてて、怖い思いしてたら二人組の女の人が助けてくれてね?自分たちが君の周りにいる変なのの原因を取り除くから、私を安全な場所に隠すって言ってくれて……」
「それでここ?せめて、連絡くらいは欲しかったなっと。で、変なのはこのオオカミっぽいのだとして、その女の人二人は?」
「外の方で騒ぎがあるからって、悠と入れ違いくらいで外に行っちゃったんだけど……」
「入れ違いかー。色々話を聞きたかったんだけどな」
理由が聞けて、絵梨の安否さえ分かれば悠としては既に万事OKな訳だが、この奇妙な状況を詳しく知るには、絵梨を保護したという女性二人に詳しい話を聞かないといけないだろう
悠とほぼ入れ替わりだと言うその二人と出くわさなかったのは運が悪いなと思いながら、悠は未だにしつこい目の前のオオカミ擬きにいい加減イライラし始めていた
ハッキリ言ってこのオオカミ擬き達は悠にとって雑魚だ
大型犬に近いがっしりした図体で牙も爪も犬の物に比べるとずっと太く鋭いが、動きが鈍重で頭が悪い
動きだけで言えば、夏休み前に悠がスーパー前で出会ったトイプードルの方がずっとマシなレベルだ
8匹もいるのに同時に襲い掛かって来ない頭の悪さも相俟って見た目とは違い、びっくりするくらいの雑魚であった
「しっかしこいつ等気持ち悪いなぁ」
顔を顰めながらまた飛び掛かって来た一匹を木刀を使って空中で捉え、思い切り地面にたたきつける
まともな生き物なら骨を折られて身動きを取るのも難しいだろうに、このオオカミ擬きは何事も無かったかのようにのっそりと立ち上がり、また悠の周囲をウロウロし始める
木刀から伝わって来る感触も異質で、木刀を当てるたびに感じるのは骨がある故に芯がある硬めの物ではなく、ブヨブヨと柔らかい、肉の塊を叩いているかのような感触だった




