非日常の足音
ひどく昔に聞いたような、でもずっとそばにいたような、そんな安心感のある声達が悠の耳には届き続ける
「ごめん、上手く聞こえないの!!知ってるなら教えて!!絵梨は、私の友達は、どこにいるの!!」
「悠……?」
悠の必死の声に呼応するように、ざわざわと枝葉が揺れる音が大きくなる
『そう―、むか――た――――こえな――だね』
『――たな――。エル―――かし―――っと―――くない――』
『で――しえてあ――き―』
『―う――える?』
『かぜ――いにも―――っても――う』
『――のせい――つだい――って』
『――、じゃ―――のっで―――』
『『『せーのっ!!』』』
幾つかの声が徐々に増えて行き、やがて聞き取れない程雑多な音になった時
その声がハッキリと聞き取れなかった悠の耳にも鮮明に、息を揃える何かの掛け声と
「きゃあ?!」
「うわっ?!」
突如起こった強いつむじ風に、驚いた二人が声を上げたのはほぼ同時のことだった
咄嗟に目を瞑ってしまう程の強いつむじ風が一瞬で通り過ぎたのを肌で感じた二人は恐る恐る目を開け、パンパンと乱れた着衣や髪を軽く整える
「ったく、一体何だってんだよ。おい、悠、大丈夫か?」
「ねぇ、郁斗」
「ん?」
目にゴミでも入ったのか、ゴシゴシと眼を擦る郁斗は悠の無事を確認するべく声をかけるが、返って来たのは想定していた声音とはまったく別種の、驚きと困惑に満ちた悠の声だった
「風が通った後が、道になって……」
「んなバカ、な……」
呆然と呟く悠の言葉に、まさかそんなことがあるかと郁斗は鼻で笑いながら悠の見つめる先を見ると、同じように驚愕で目を見開くことになる
その視線の先には、確かに雑木林の木々を可能な限り真っ直ぐ伸びて行く木の葉で出来た道が出来上がっていたのだった
「こんなところに、道……?いや、でもさっきまでそんなの」
「こっちに絵梨がいる!!」
「あ、おい、悠!!?」
下草すらも掻き分けて出来た木の葉の道は雑木林のずっと奥まで続いている
即席の山道のようなそれは郁斗が記憶する限り、ついさっきまでは無かったものでこのハイキングコースにそもそも脇道があったかことすら定かではない
一体あの一瞬で何が起こったのかと混乱する郁斗を他所に、悠は確信めいた言葉と共にその木の葉の道へと駆け出した
慌てて追いかけるも、悠の身体能力と元はと言えば悠に負けず劣らずのハイスペックさを秘めた身体能力を持つ郁斗だが、怪我を抱えた足では追いつくのも一苦労だった
「あのバカ、俺が追い付けない程全力でダッシュしやがって……!!」
可能な限り駆け足で進むも、そもそも慣れない山道。そして普段なら草木が思いのままに生い茂っているだろうその道は人が全速力で駆け抜けるには適していない足場の悪さを所々に出している
まともな運動神経を持つ人でも怪我をするリスクを鑑みて、精々早足、頑張って駆け足
そんな中を悠は全力疾走しているらしい
「アイツの前世は山猿だな」
珍しく悠に悪態をついた郁斗は、それでも追いつけるようにと可能な限り足を速め
「ここ、は……」
そうしてたどり着いた場所は、小高い丘程度の笠山には不釣り合いな、広く開けた平地だった
どうやら神社と思わしき敷地らしく、小さくも一軒家程度の社と、鳥居、石畳の参道がある
郁斗はその参道ではなく、脇の林の中から飛び出して来た状態だった
「こんなところに、神社なんてあったか……?」
笠山には頂上に小さな祠があったことは覚えているが小さいとは言え社と鳥居を持った神社があるとは記憶していない
また首を傾げる郁斗だったが、それもまた思考からからすぐに弾き出されることになる
「災い転じて福と成せ――、【南天】!!!!」
それはいつになく緊張に満ちた悠の叫びに近い声と、獣の吼える音が原因だった




