非日常の足音
一方、悠たち子供たちも独自に動き始める
大人には大人の情報網があるが、子供には子供の情報網だ
クラスの女子の殆どが参加しているトークアプリのグループに絵梨の件を伝えて情報を募ったり、電話番号を知っている教師、この場合は担任の牧野先生に連絡をし学校にこの件を伝え、男子クラスメイトにも情報の共有をお願いしたりなどだ
ただし、この場合クラスメイト同士での情報共有に限る
それ以上の不用意な情報の拡散は無用なモノも呼び寄せる場合があるためで、余計なところで絵梨に負担をかける可能性がある
「とりあえず俺らに出来るのはこんなもんか」
「うん、後はホントに自分たちの足で探すか大人の力を借りないと」
一先ず、連絡先を知っているクラスメイトに一通り連絡をつけた二人は強張った身体を解し、郁斗は天井を見上げ、悠は不安そうに携帯の画面を見つめる
そんな二人の様子に妹の郁香はそわそわと視線を忙しなく動かしていた
「その、絵梨さんってハルねぇの友達なの」
「うん、私がこの身体になって二番目に出来た友達。身長が男子に負けないくらい大きいんだけど普段はのほほんとしてて、遊べる時間になると元気いっぱいになるんだ」
「分かり易く言うと大型犬だな」
「ああー」
大型犬という郁斗の表現を本人が聞いたら噛み付いて来るだろうが、悠にとっても絵梨の第一印象は大型犬だ
郁香もその大型犬と言う喩を聞いて、成る程と納得を示せる程分かり易い喩ではある
「で、えっとその仲良しの絵梨さんが、えーっと」
「無理してお喋りしようとしなくて大丈夫だよ郁香。落ち込んでなんていられないもん、でも焦るのもダメ。まずはちゃんと情報を集めないと」
「やみくもに動くのは時間と体力の無駄だしな。学校と、さっきお袋が親父に連絡してたし市役所にも連絡が行ったはずだ。流石に学校と市役所が動くのに警察が動かない訳にもいかないだろう。警察が動けば嫌でも何かがわかるはずだしな」
何時になく暗い雰囲気の年上二人を必死で元気付けようと頑張る郁香に二人は笑いながら話しかける
そう、不安に駆られて落ち込んでる場合ではないのだ
出来ることを精一杯やって行けばきっと絵梨が何処でどうしているかがわかるはずだと二人は自分に言い聞かせ、奮い立たせる
「大体、一番年下が上の心配何てしてんなっつーの」
「そうだそうだ、郁香はいつも通り能天気でいないとほれほれほれ」
「わーー!!!二人とも止めてよ!!髪ぼさぼさになるじゃん!!」
わしゃわしゃと頭を二人がかりで撫で回された郁香は見るも無残にボサボサにされる髪の毛を少しでも守ろうとジタバタと身を捩るが、元運動部の兄と武術に長けた悠に捕まってはそれはあまりにも弱い抵抗でひとしきり撫でくり回された後に膨れツラになりながら髪を整えることになる
「まぁまぁ、そんなに怒らないのお姉ちゃんが直してあげるから」
「ハルねぇホントにちゃんと直せるの~?」
「女子力免許皆伝を舐めちゃいけませんよ。はい、動かないでね」
ヘソを曲げた郁香にヘアブラシ片手に髪を梳き始めた悠にその女子歴の長さから疑惑の目を向けるがその当の本人は心外だと言わんばかりに鼻をふんすと鳴らしながら自信満々に髪を梳き続ける
最も、悠が自身で普段からの身嗜みを整えていることを知っているのでこれは不機嫌な郁香のちょっとした嫌味ではある
笑って流せてしまうくらいの可愛い嫌味ではあるのだが
そんな妹と幼馴染を横目に収めながら、郁斗はクラスメイト達から上がって来る情報に目を通していく
と言っても殆どが分からない、知らない等の返事や絵梨の安否を案ずる心配の声ばかりだ




