非日常の足音
「でも怖いわね、今は人に被害は無いけれどもしこれが人間を対象にしていたら大事件だもの」
「面白半分に生き物を殺してるならいつ人間にその矛先が向くか分からないしね。あんた達、しばらくは勝手に出歩くんじゃないよ」
子供たち三人がニュースを見ながらあーでもないこーでもないとしていると昼食の準備をしていた母親二人が手を拭きながら自分の子供たちに注意をする
ここで余計な反抗心など必要ないので三人ははーいと適当な返事をして、退屈そうにまたテレビを眺めていた
「んで、本心はどう思ってるんだ?」
テレビを眺めながら時間を潰し、昼食を済ませた悠と郁斗は部屋に戻るなり悠はベッドに、郁斗は座椅子にドッカリと腰掛け、お互いの考えを本心から交わせる
「アイツが絡んでる可能性があるから是が非でも動きたい。一瞬で移動する技も持ってたしね」
「てことはこれはお前を誘き出す罠か……?いやでもあの野郎ならこんな事しなくてもお前に標的を絞ることは出来てるし、やってるよな」
「そうなんだよねぇ。ただ、無関係とも思えないし出歩きたいんだけど」
「こうも缶詰にされちまうとなぁ……」
悠を悠にした原因のあの男が、この珍妙な事件に関わっている可能性を感じている二人は、それでも自由に動けない今の状況に歯噛みしながらも、どうすることも出来ないのが現実でもあった
両親の監視がある以上。そう易々と外には出してはもらえない。何にせよ理由付けがいる
理由もなしに出歩くのは親なら絶対に反対するのは火を見るよりも明らかなのだから、それを覆すほどの大きな理由がいるのだ
「あー、もう、モヤモヤする!!」
「少し事態が落ち着くのを待つしかないな」
じたばたと身振り手振りで不満を表す悠に郁斗はお手上げだと告げるしかない
如何せん状況が状況だ。この親の監視無いし庇護の下をわざわざ抜け出て何か収穫がありそうなのかと聞かれるとこれもまた微妙なところ
明確なリスクに対して、リターンがあまりにも不明瞭すぎるこの事件の調査は後日、事が落ち着いてからの方がいいだろうと言うしかなかった
そうして悠が不満を募らせている最中
「悠~、お客さんよ~」
玄関の呼び鈴が鳴ったのを聞いた週十秒後、悠の下に客人が訪ねて来たと階下の桜から声がかかるのであった
「あれ、確か……」
「久しぶりだねぇ。突然で申し訳ないけど絵梨はここに来てないかい?」
玄関先に来ていたのは以前、テスト勉強で利用させてもらった図書館を管理していた柏木 珠代、絵梨の遠縁の親戚だと言う女性だった
「絵梨がどうかしたのか?」
「最近物騒な事件があるだろう?あまり大きな声で言えないけど、あの子は親ととんでもなく不仲でねぇ、一人暮らしもその関係でしてたんだけど、どうにもそのアパートに戻ってないみたいでねぇ」
「悠」
「ちょっと電話してくる」
高嶺家を訪ねた理由を尋ねると、なんと絵梨が一人暮らしをしている自宅アパートに戻っている様子が無いらしい
巷を賑わすニュースの件も考えると心配になる内容
直ぐに悠がスマホで絵梨に電話を掛けてみると
「ダメ、コールはするけど電話には出ない」
数回のコールの後、留守番電話サービスへと繋がってしまう。一応、トークアプリに一言送信するが、いつもならすぐにつく既読表記はやはりつかなかった
「家に戻ってないんだから、部屋に置きっぱなしか、単純に気が付いていないのか」
「出られる状況じゃないのか、だね」
暑い空気がスッと冷える様な雰囲気が二人に纏わりつく
何事も無い日常なら、ただスマホを忘れただけとか、友達の家に遊びに行ってるとか言えるのかもしれないが、今笠山市を取り巻く状況は些細なことでも気にすべきだ
「あまり大事にしなくても良いと思うけどね。あの子、あれでもしっかりしてるから」
「しっかりしてても今出歩いて帰ってないのはちょっと心配なんで、探すの手伝いますよ」
「おかあさ~ん、ちょっと良い?」
珠代はあまり騒がなくても良いというものの、だからと言って何もしないという訳にもいかないだろう
人探しには人が多い方が良い、何かあってからでは遅いのだ
「お父さんが外のみ見回りしてるから、そっちにも連絡するね。おばさん、良いよね?」
「あぁ、じゃあ頼めるかい?……いい友達に恵まれたんだねぇ」
バタバタと連絡をしたり、大人に事情を説明したりし始めた二人に、珠代は感慨深そうに目を伏せて頷くのだった




