寄り道をしよう
「あまり、面倒をかけないで頂戴。貴女みたいなのでも一応は私の子供、貴女が面倒を起こすと私が迷惑なのよ?分かる?」
「……ごめんなさい」
各自親が迎えに来て、それぞれ引き取って行ったその帰り道
絵梨は一応、自分の母親が運転する車の中で母と会話を交わしていた
その温度は親子とは思えない程、互いに冷え切った声だったが
「それにしても、貴女に友達何て作れたのね。あの子たちも貴女と同類かしら?」
「……私の友達を馬鹿にしないで」
「あらごめんなさい。貴女みたいな『化け物』に真っ当な友達何て出来ないと思ってね」
化け物、自身の娘に対してそう罵って見せた絵梨の母親は変わらぬ澄まし顔で車の運転を続ける
それを聞いた絵梨はギリッと奥歯を噛み締めて堪えるだけだった
「ま、高校を出るまでは最低限の面倒は見る。そう言う約束なんだから面倒は止してちょうだい。私の外聞も悪くなっちゃうでしょう?本当なら早く出て行ってもらいたいんだから」
「……」
その後も出て来る暴言や親とは思えない発言の数々を絵梨は無言で受け止め、ひたすらに耐える
そう、彼女の親の言う通りこの二人の関係は高校を卒業するまで、との約束なのだ
そこから先は事実上の絶縁だ
法律的に親子の縁を切ると言うのは出来ないが、絵梨はそこから先、親の援助は一切受けない、受けれない
絵梨が中学時代に決まった、この親子の約束事だった
「ほら、着いたわ。もう、手間をかけさせないで頂戴ね。貴女のこと、娘だなんて思いたくもないから」
その内、絵梨は見た目は決してよろしいとは言えない古めかしいアパートの前で降ろされ、三度、親とは思えない言葉を投げつけられ、車が走り去っていくのを見送る
車が見えなくなった頃、ようやく動き出し、アパートの2階にある一室へと向かい、鍵を開けて中へと入った
6畳ワンルーム、台所とトイレは有、シャワーは無いので近くの銭湯通い
月の家賃と光熱費、食費は銀行の口座に定期的に振り込まれている
ここが絵梨の自宅。高校に入る際、ようやく手に入れた、彼女だけの城だ
「はあああああああああ!!!あのクソババァ好き勝手言ってんじゃないわよ!!私だってこんな能力、欲しくて手に入れた訳じゃないっての!!」
靴を脱ぎ棄て、どすどすと音を立てて部屋を進んだ絵梨は鞄もポイっと床に投げ捨て、自身もベットへと身を放り投げる
「一番むっかつくのは皆のことまで化け物呼ばわりしたのだよ。化け物は、私だけだっつーの」
そう言って枕に顔を伏せ、うがー!!と唸る
イライラすることがあるとこうしてストレスを発散するのが絵梨のいつもの癖だった
「……ホント、『心を読む』なんてことする化け物は、私だけ、だよ」
そう言って抱きしめた枕に顔を埋めたまま、絵梨は諦めたように呟く
彼女は未だ、孤独だった




