寄り道をしよう
「おいしかったー、ちょっと高いけどたまにはいいよね」
空になったカップを脇に置いてジェラートを満喫した絵梨は満足そうに足を投げ出す
悠や桃、郁斗も各自完食し、スマホを弄ったり、辺りをぼうっと眺めたりしていた
時間は16時半、まだ陽の長い7月なので傾いた日差しはまだまだ熱いもので4人もジェラートを食べたと言っても汗ばんでいる
「あっついなー、夏だから仕方ないけど」
「とりあえず建物の中に行かない?ここでダラダラしてても仕方ないし」
「んー、どっかカフェでも入る?それとももう帰っちゃう?」
「あ、それなら先に私はお手洗いに」
「おっけー、んじゃとりあえず中に入ろ」
となるとジェラートで涼んだ雰囲気はあっという間に霧散し、暑さから逃げるように4人は目の前の駅ビルへと入り、多少なりとも冷房の効いた屋内にほっと息を吐くと桃が駆け足でお手洗いの方へと駆けて行き、残った3人はのんびりとその後を歩いて着いて行く
「で、この後どーする?カフェでも帰宅でもそれ以外でも私は構わないけど」
「んー、何だかんだ疲れてると思うし俺は帰る方向で良いと思うぞ?夏休み序盤に金を使い過ぎて何処にも行けないなんて笑えないしな」
「8月になったら仙台七夕祭りだもんね。皆で一緒に行こうよ」
この後また遊ぶか、今日のところは大人しくするかで3人で話し合いながら、桃が向かったお手洗いの向かいの壁に寄りかかり、桃が戻って来るのを待つ
意見としては絵梨はどちらでも構わないが彼女の性格からして本心はギリギリまで遊んでいたいのだろう、郁斗はお金の温存も考えて今日のところは帰宅、悠もどちらかと言うと8月6日頃から始まる仙台七夕まつりを存分に楽しむためにお小遣いは温存したいようだ
遊ぶ1、帰る2と多数決的には帰る寄りだが、桃の意見はまだ聞いていないので何するのも桃待ちととなったところで
「お、桃―、こっちこ……」
桃の姿が見えたのだろう、絵梨が手を上げて呼びかけた時に絵梨の表情が歪み、その場を飛び出す
「えっ、絵梨ちゃんどうした……」
「そこの泥棒野郎待ちなさい!!」
見たことも無い表情で向かってきた絵梨に桃は困惑するが、絵梨が手を伸ばして声を張り上げたのは全く別の人間だった
相手はごく普通な中肉中背の男性だ。むしろこざっぱりとした印象があるその男性になんと泥棒野郎と怒鳴りつけたのだ
「ちょ、どうしたんだっておいアンタ――ッ?!」
いきなり大声を上げる絵梨に対して後ろから追いついた郁斗が肩を掴んだところで、男の方はその場から逃げるように走り去る
何が何だか分かってない郁斗を放って、絵梨は桃のトートバックを奪い取る様にして手にし、中身を確認すると
「やっぱり桃の財布無い!!アイツ掏り(スリ)だ!!」
「え?あれ、ホントだ?!えっ、どうしよ」
トートバックの中にしまわれていた桃の薄桃色の長財布が無くなっていたのだ
財布が無くなっていることに慌てる桃と男が逃げた方向をキッと睨み付ける絵梨
「郁斗ッ!!」
「無茶し過ぎんなよ!!」
そこまで来て状況の理解が追い付いた悠と郁斗は一言ずつ声を掛け合うと悠は郁斗に荷物を投げ渡し、なんだなんだと周囲に集まった野次馬を押しのけてその場から一気に駆け出す
郁斗は桃の手を掴み、引っ張ると同じくその場を抜け出す
「悠の方に私は行くよ!!服装とか覚えてるから!!」
「任せた!!こっちは駅の人に話を通す」
絵梨もすぐに自分のするべきことを判断して猛スピードで人混みを駆け抜けていく悠の後を追いかけて行く
対して郁斗と桃は駅構内で起こった事を説明して、警察等に連絡を取ってもらうために一先ず駅員が必ずいる改札口へと向かっていた




