仙台レジャーランド
水着を買ってから二日後、予定や準備を終わらせた四人は普段は笠山駅から仙台駅へ、そして仙台駅から普段は全く使わない別の路線に乗り換え、仙台レジャーランドの最寄り駅へと向かって電車に揺られていた
「昔ながらの路線って感じがして、なんか良いね」
「車両は結構新しいけど、景色は良いな。秋は紅葉でそれ目当ての乗客もいるらしい」
「プチ旅行には持って来いだね」
電車特有のガタンゴトンと定期的にやって来る音と振動に身を任せながら、悠と郁斗の二人は二人掛けシートが向かい合わせになっている通称、ボックスシートのそれぞれ窓際に座っていた
外は田舎の夏真っ盛りの風景が広がっており、 やたらと青々と晴れ渡る空と、同じく青々と生い茂る草木の深緑、いつの間にか背が高くなっていた田んぼの稲に背の高く立体感を際立たせている入道雲
まさに典型的な、誰もが脳裏に浮かばせたことがあるような夏らしい夏の日となっていた
「ちょっとー、お二人さん。イチャイチャするのは良いけど、二人だけの世界を作らないでください~。私達もいるんですけどー」
「そうだそうだー」
そんな二人を反対側のボックス席から非難するのは活発ガールを体現したかのようなストリート系のダボッとした服装に身を包んだ絵梨と、それに対をなすように少女然としたパステルグリーンのワンピースに身を包んだ桃の二人だ
二人とも水着の入ったバッグを隣の席に置いて、悠たちと同じ様に外の景色を楽しんでいたのだが、あまりにも自然に二人でいる悠と郁斗に四人で遊びに来ているんだぞと主張している
「別にイチャイチャはしてないと思うけど」
「嘘だ―!!何年も一緒にいる熟年夫婦みたいな雰囲気だしといてそんなのは嘘だ―!!」
「熟年夫婦はともかくとして、何年も一緒にいるってのは幼馴染なんだし当然だろ……」
「それにしたって私達のこと蚊帳の外にし過ぎです。やっぱりここは何時もと席順を交換しましょう!!」
悠と郁斗の二人がそれぞれの主張をするも、それらはすぐに絵梨たちによって否定され、桃の提案により、いつもの組み合わせとは別になるよう席替えが行われた
「悠ちゃーん!!」
「桃ちゃーん!!」
「……」
「……」
結果、悠と桃、郁斗と絵梨という組み合わせになったのだが片やキャッキャッとじゃれ合うのに対し、郁斗と絵梨の方はお互いが不服ですという表情を隠すことなく出しており、ぶすりとした表情で睨み合っていた
「なんで間と一緒なの」
「それはこっちのセリフだ」
この二人は別に仲が悪いわけではないのだが、かといって仲が良いという訳でもない
郁斗からすれば悠の友人、絵梨からすれば悠の彼氏、という立ち位置で簡単に言えば友人の友人で共通の友人がいる為に一緒に遊ぶ機会は多いが、この二人で連絡を取り合うことはない、という関係に落ち着いていた
「前から聞きたかったんだけどさ」
「なんだ?」
そんな友人の友人、という遠くも近くもない間柄の二人は隣のボックス席で一緒にお菓子を食べてお喋りをしている二人とは違い、淡々とした会話が進む
「悠の彼氏、ではないよね?」
「……まぁ、否定はしない。別に付き合ってる訳じゃないってのは事実だ」
絵梨の口から出て来たのは、少しばかり予想してなかったことだったが、郁斗は冷静にその問いに答える
彼氏彼女の関係ではないが、周囲が勝手にそう思ってるならそう思わせておこうというのは以前に二人で決めた方針だ
気付いたのなら、それはそれで隠す必要は無いだろう
「その割には随分と過保護だけど?」
「色々と事情があるんだよ。俺はアイツに借りがあるし、アイツは今ちょっと、まぁ訳アリでな。あまり一人にしないようにしてるんだ」
「この前襲われたのと関係あるの?」
おちゃらけたいつもの雰囲気はなりを潜め、真剣な表情で郁斗と向かい合う絵梨に郁斗自身も出来るだけ真摯に応えて行く




