不思議な二人
ぷいっと見られていた恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いた悠は急かすようにさっさと歩き出してしまったので他の三人もそれに合わせて歩き出す
「しかし悠ってば意外とヤキモチ妬きなんだね」
「何のことだ?」
三人の先を行く悠を見失わないように着いて行っていた郁斗、絵梨、桃の内、絵梨がすこし驚いたような口調でそう漏らす
その内容を聞いて郁斗は思わず聞き返した。郁斗からすれば悠がヤキモチを、嫉妬するような要素が見受けられなかったからだ
「またまた惚けちゃって。君が逆ナンされて面白くなかったから逆ナンされないように自分の隣まで引っ張って、水着を選ばせて自分を見てってアピールでしょうに」
「いや、アイツに限ってそんなことは……」
「あらあら、間も案外唐変木?悠も大変そうだねー、桃もそう思うでしょ?」
まるでお手上げだと言わんばかりに大げさに肩を竦めるジェスチャーをして見せた絵梨は、桃にも悠が妬いているという話と郁斗がそれに気が付いていない、という事について意見を求める
郁斗からすればヤキモチを焼く理由も、自分が唐変木などと揶揄されるいわれなどないつもりなので少々眉を潜めるしかない
「んー、と言うよりは灯台下暗しって気がしますよ。近すぎて見えてないなんてよく聞く話じゃないです?」
「確かに~」
「お前ら、何の話をしているんだ?」
見当がつかないと言いたげな郁斗の物言いに桃までもがかぶりを振ったのは本人からすればまことに遺憾であったが、分からないものを考えても仕方がないのでこれ以上は深く追求するのを止めて、今だ先を行く悠を追いかけることにする
「遅い」
「お前が早いんだ」
いつまでも追いついてこないことに文句を言う悠に文句を返しつつ、二人はまた並んで歩き出した
「んん?」
とある地方都市の駅、そこに直通したショッピングの専門店街。通称駅ビルの一角でその女性は自身の感覚に引っ掛かった複数の反応に思わず辺りを見渡す
「どうかしたの、照?」
「いやな、香よ。中々に面白い一団がおったものでつい、の」
その女性と行動を共にしていた別の女性が目にしていた案内板から目を離し、彼女の言動から何かあったのかと警戒を露わにするが、当の本人は全く違うことに気を取られたらしく、彼女の警戒は杞憂に終わっていた
「面白い?……ああ、成る程確かに『魔法や幻想種が限りなく退廃したこの世界』では相当珍しい組み合わせね」
「うむ、エルフに鬼に、あれは覚かの?そこにただの人間の小娘も交じっておる。ちらほらと亜人や幻想種の末裔はおるが、ああも数人がまとまっておるのはここでは珍しかろう?」
その視線の先には学生と思わしき年の若い4人が仲良さげに歩いている
今が一番華やぐ、楽しい時期だろう。素直にそう二人は思った
「確かにそうだけど、今はそれに気を取られている場合じゃないでしょう?とりあえず、この世界の物価とか生活水準とかを知って、『この世界での』生活基盤を整えておかなきゃいけないんだから」
「分かっとる分かっとる。まぁ、今回は生活水準は相当に高いじゃろ。しばらくの金銭と住む場所さえ手に入れば特に困ることはなさそうじゃな」
「その金銭を得るのが毎回大変なんでしょうに」
能天気に話す一人に、もう一人は大きなため息をする
おおらかで大雑把な彼女と細かくたくさんの配慮をする彼女は全く性格こそは違うがその凸凹具合はなんとも良いようにハマっているように見受けられる
「で?金銭はどうする?その辺の子悪党から巻き上げるのが一番楽じゃが」
「却下。これだけ文明が発展してる世界で不用意な面倒起こしてられないわよ。順当に他の世界で手に入れた宝石類を換金するのが妥当でしょうね」
「なんじゃ相変わらずつまらんし手間のかかる事をするのぉ」
「あんたみたいな適当さで物事を進めてたら上手く行くことも上手く行かなくなるの」
適当な事をのたまい続ける相方に頭を抱えながら、香と呼ばれた女性は当たりを隈なく見渡し『この世界がどういった世界で、どの程度の文明水準をもっているのか』を今までの経験から予測を立てて行く
元より、ある程度の知識と常識はもらってはいるが、知っているだけと見聞きしたのでは大きな齟齬がある。確認とはどのような物事においても重要なモノであった
「科学技術が、特に物理と電子演算関係に秀でた世界の様ね。それでいながら魔法なんかの概念が完全に絶えてる訳でもない、中々見ない世界ね」
「そうじゃの。ではまぁ確認も程々に動くとするかの」
「えぇ、出来るだけ迅速にことに当たる必要があるもの
――『世界を壊す』なんてふざけた所業を止めるためにもね」
そうして二人はお互い腰まで伸びた黒髪を翻し、次の目的地にふさわしそうな場所を探す
「?」
「っと、急に止まるなよ」
ふいに感じた不思議な感覚に悠は思わず足を止め、少し後ろにいた郁斗にぶつかってしまう
そうでなくても往来の真ん中で突然止まるのはちょっと迷惑なものだ
「ゴメンゴメン、なんか変な感じがしたから」
「変な感じ?」
「ううん、何でもないよ。気のせいだと思うし」
「そうか」
その不思議な感覚も今は悠は感じられなくなってしまっている。気のせいか、と結論付けて二人はまた歩き出す
これが、遠くで鳴っている非日常の足音を、始めて聞いた瞬間で
それがそうだと分かるのはまだ先の話だった




