水着選び
芸能プロダクションに所属する女性、よくよく見れば広報部部長という肩書きと氏名が掛かれているそれなりのお偉いさんからの名刺を受け取った絵梨と桃はその場できゃあきゃあと騒ぎだす
本命は郁斗と悠だろうが、あの口振りだと絵梨や桃も含めた4人全員をスカウトしている様だったのだから二人が騒いでしまうのも無理はないだろう
芸能人になれるチャンス、という一般人には殆どの人に訪れない出来事に興奮しない女子高生など中々いない
「……」
その中々いない女子高生は、絶賛不機嫌オーラを全開にしている訳なのだが
「悠、どうかしたか?なんかえらく不機嫌に見えるが……」
「べっつにー、なんでもないですー」
完全に棒読み、間違いなく何かあるのは目に見えて分かるのだが、その理由は本人にもいまいちよく分かってないと言うのだからタチが悪い
不機嫌の矛先が向いている郁斗も、此処まで露骨に悠がムスッとしているのが珍しいのでどうしたものかと頭を悩ませるが原因も分からないのに解決策が浮かぶわけもなく、結局そのまま次のショップまで騒がしい二人を先頭に進むことになる
「二人はどうするの?芸能事務所だよ!!所属出来たら芸能人だよ!!」
「スカウトなんてホントにあるんですね、びっくりしました。間君と悠ちゃんなら分かるけど私まで声を掛けてもらえるなんて……」
興奮冷めやらぬ絵梨とほぉっとため息を吐いて感慨深げに名刺を見つめる桃はあの女性の本命だろう二人にどうするのかを聞きたいようで後ろに着いて来ている二人をチラチラと見ていた
「……さっきも言ったけど私は道場の手伝いとかがあるし、何よりあんまり興味がないかな。お洒落は好きだけど、人に見てもらいたくてお洒落してる訳じゃなくて、お洒落そのものが楽しくてやってるだけだから」
「俺も、まぁ興味ないかな。そっちに労力を割くなら膝を治すのに集中したい」
その二人はバッサリと興味なしとの結論を示し、スカウトを受けるつもりはない
むしろそれぞれが持つ目標や目的を達成するために時間が欲しいくらいなため、なおのことその意志は固いだろう
「えー、勿体無いなぁ」
「絵梨もスカウト受けてるんだから話聞いてみたら?」
「ま、芸能事務所に所属するのと、芸能人としてのし上がるのとじゃ天と地ほどの差があるだろうけどな」
絵梨からすればせっかく有名人になれるチャンスをふいにしている二人が信じられないが、ただ所属するだけと、そこで努力して仕事を貰い、有名になる程になるには並大抵の努力では成し遂げられないものがあるだろう
その辺は現実が見えている二人からの間違いのない助言であった
「桃はどうする?話だけでも聞くの?」
「私も芸能人とかは自分には向かないと思うから……」
「ちぇー、興味があるのは私だけかー」
人前が苦手な桃もスカウト自体は喜んだが、受けるかどうかは話が別で本人の性格上、予想が出来る答えを聞いた絵梨はぶーっと口を尖らせるのだった
そうしてまた次のショップに着いた一同はまた同じように別れたのだが
「……」
自分でも判別しがたいモヤモヤに襲われている悠は水着を選びもそこそこに店の外で待っている郁斗の様子を盗み見ていた
むしろ水着選びには殆ど集中出来ていない。殆ど郁斗のことを睨むように見ている始末だ
やがて、スマホを弄っていた郁斗に悠たちと同じ様に買い物に来ていたのであろう女子高生数人が郁斗に声を掛ける
それを見た瞬間に悠は考えるよりも先に身体が動いていた
「悪い、友人の買い物に付き合ってるんだ。お茶とかそう言うのは……」
「じゃあ連絡先交換だけでも!!時間ある時一緒に遊べたらなーって――」
またお茶しようと言う名の誘い文句でデートないしイケメンを捕まえようとしている女子達と郁斗の間に無理矢理割り込んだ悠はむんずと郁斗の腕を掴むと無理矢理店内へと引っ張っていく
突然のことに女子高生たちも郁斗もぽかんとするしかなかった




