水着選び
確かにオシャレで顔も良い郁斗なら逆ナンされてもおかしくはないものだが、それを見た瞬間、何となく悠は少しムスッとしてしまう程度には気分が悪くなった
「あ、すみません友達が戻ったみたいなんで俺はここで」
「あら、残念」
「また会ったらよろしくねー」
悠が少しモヤモヤした胸中を抱えているとは露知らず、三人が戻ってきたことに気が付いた逃げるようにして女性たちの前から立ち去り、三人の近くへと駆け寄ってきた
「助かった、どうにもしつこくて大変だったんだ」
「流石学校イチのモテ男は違うね」
「お疲れ様です。パパッと次のお店に行っちゃいましょうか」
茶化す絵梨と疲れただろう郁斗のことを考えて次のお店に移ろうと提案した桃の脇で悠だけが腕組みをして何でもないような顔をして黙っている
それに少し違和感を感じた郁斗がどうかしたか聞いても本人は別にと素っ気ない返事を返すだけ
実際、なんでこんなモヤモヤするのかも本人もよく分かってないと言うのが事実なのだが
「じゃあ次のお店へGO!!」
意気込む絵梨を先頭に移動を始めた一行は次のショップへと足を延ばすと同じように気に入った水着が無いか物色し、その間、郁斗は外で待つという状況になる
再び30分程度店内を隈なく見た3人が郁斗の元へ戻ると
「ハイ、これ私の連絡先だから」
「え、あのその、俺学生なんでそういうのはちょっと……」
「良いから良いから、後で連絡してくれると嬉しいな。じゃあね」
また、今度はOL風の女性に逆ナンされている郁斗が困ったように手渡されたメモ用紙を眺めていた
それを目撃した悠はピクリと不機嫌さが増したように眉を潜め、絵梨は再び茶化し、桃が労う
「よおし、次の店いこー!!」
再び別の店へと足を向け、一旦駅ビルから出て、隣の商業ビルへと移るとまた別の水着ショップがちらほらと見受けられた
そこでまた30分程度悠たちは店内を練り歩き、郁斗は外で待つ
「流石に三度も逆ナンされてるってことはないよねー」
「でも二度あることは三度あるって言うからもしかしたら郁斗さんならありそうですね。やっぱりモテますし」
「まぁ、そだね」
流石に三度めは無いだろうと笑う絵梨に、もしかしたらもしかするかも知れないと予想する桃、いまいちテンションが低い悠が戻ると
「貴方カッコイイわね。どう?おばさんのところでアルバイトして見ない?」
「え、いや、その……」
「貴方くらいのイケメンならすぐにファンが付くと思うの。バイト代も弾むわよ?まずはスタジオの見学からでも良いから、ね?」
「りょ、両親に聞いてみないと、なんとも、はははは……」
ちょっとグラマスな色気を持ったおばさまに逆ナン無いしスカウト的にことをされているところだった
悠の眉間にいよいよ皺が寄り始める
「あら?貴方と来てたってお友達?」
「あ、ハイ」
「三人ともそれぞれ個性があっていいわね。特に貴女、スタイルも良いし、どう?ウチでアルバイトして見ない?」
ムスッとした表情をいよいよ隠せなくなった悠を見て、その女性が郁斗と同じアルバイトをしてみないかと誘って来るも悠の内心はどうにもそれどころではなく
よく分からないが、とにかく面白くない、などと言った不満が胸の内を占めている状態だった
「……父が許さないと思いますし、家業の手伝いがありますので」
「あらそう?貴女も彼もきっとあっというまにカリスマモデルの仲間入りができると思うのだけれど、本人達にその気がないなら仕方がないわね」
でも気が向いたら連絡を頂戴ね、と名刺を人数分、4人に手渡すと颯爽とその場を立ち去っていく
その名刺には芸能プロダクションの文字が躍っていたが、そんなことよりも悠はとにかくこの面白くない胸の内をスッキリさせたくて仕方がなかった




