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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
変化の先の日常
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仙台散策と最初の再会

気が付いた時には遅かった。今後、もし高嶺 悠に今起こっていることを聞けば彼女はそう答えるだろう


郁斗達4人で独特な雰囲気を保ったままの路地を進んでいた悠は通り道に水汲み場や洗濯場、と呼べばよいのだろうか

ともかく、今では見ることもない共用の水場を見つけてふらりと皆から4、5歩離れた


水をくみ上げる緑のペンキが剥げ掛けた汲み上げ機は恐らくはただの飾りなのだろうが、この場の雰囲気に良くマッチしており、タイル張りの水場もまた昔を感じさせている


「んー、好きだなぁこういうの。なんて言うか可愛いよね。ねぇ、郁、斗……」


自分だけの秘密基地を見つけたような高揚感を胸にはにかみながら最近はずっと隣にいる親友に声を掛けようと振り返ったところで、悠は異変に気が付いた


後ろにいたはずの郁斗、桃、絵梨の姿が見当たらないのだ

それどころか今まであった僅かな喧騒と人の気配、いや雀や鴉と言った街中でもよく聞く野鳥の声すら辺りには一切聞こえない


不自然なまでに静かで、不気味な雰囲気が辺りを支配していた


「また随分突然な訪問ね。今日は何の用?」


悠はこの雰囲気に心当たりがあった。というより一度体験している




今の身体になった原因のあの日に




「勘はそこまで衰えてい無いようだな」


悠の直感が告げた通り、聞き覚えのある声が響いたと思うと通路の影からスルリとあの男が姿を現した

相変わらず声も姿も見えているのに薄ぼんやりと頭に靄がかかりその姿と声音がはっきりと認識できない


ただ体格と口調などから男だと判別が出来るくらい

情報はその程度だ


「何の用?私に目的があるとは聞いてるけど二度も会いに来るなんて」


警戒を緩めず、じりじりと間合いを図っていく。今の悠の体格と移動速度だと男のいる場所は間合いの外だが男はそうではない


この距離くらいなら一瞬で詰めてくるのはあの時も経験したことだ


「ククク、『私』か。この短い期間で随分と毒されたものだな」


「……なに?」


何時でも動ける中腰の姿勢を保ちながら少しずつ距離を取る悠を見て、男は肩を揺らして笑った

何がおかしいのか、ピリピリとしている悠にこの笑いは非常に不快でピクリと眉を動かす


その様子にも男は面白そうに肩を揺らしてから、腰に手をやり何かを引き抜くと悠へ向けて放り投げた


「その身体になってからのお前の実力を試してやろう。なに、殺す気は毛頭ない。これは稽古だ」


渡されたのは一振りの木刀。重さと強度、茶色味が強い赤茶からして本赤樫(ホンアカガシ)で作られた本格的な打ち合い用の木刀のようだ


正直、今の悠には少し重く感じられるサイズと重量感だがそうも言ってられないし、悠としても明らかな挑発に頭が沸騰しそうだった


何が稽古だ。他人の身体を全く別物に仕立て上げたクセに良くそんな口が開けたものである。悠からすれば道場を継ぐと言う夢が大きく揺らいでいるところ

それはもう、男の軽口には今すぐ飛び掛かってやりたいところで


「それとも、女の真似事が楽しくて剣を置いたか?」


「舐めるな」


もう一度男の軽口が聞こえたところで、悠は今まで出したことが無いようなどすの利いた声と共に男に斬りかかっていた


ドゴッと重みのある音が聞こえたが、これは直撃した音ではなく木と木がぶつかり合った音で悠の一振りが男に防がれていたことを表すものだった


「お前のせいでこっちは散々な目にあってるのよ。とっとと戻してもらえる……っ!!」


「そいつは叶わない相談というやつだな。お前に薬を飲ませた後、なんて言ったか覚えていないのか?」


鍔迫り合いのまま互いの言い分をぶつけ合うとやはり膂力の差か、悠の剣は押し返されてから横薙ぎに一振りされる

押し返された勢いのまま後退した悠はこれを難なく避けて再び両者は距離を取った



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