仙台散策と最初の再会
満員、と言う点を除けば特に支障を来すことなく走り出した電車はガタンゴトンとレール特有の音と揺れを発しながら加速していく
そのうち流れていくように過ぎていく景色を悠はぼうっとした様子で眺めていた
「……どうかしたか?」
「んぁ?」
珍しく、完全に気を抜いている様だった悠を見て、何かあったのかと心配した郁斗が声を掛けると返ってきたのは想像以上に気の抜けた間抜けな返事で、思わずぶふっと吹き出してから耐えるように忍び笑いをする
「なにさ」
「怒んなよ。悠の珍しい間抜けな顔が拝めただけだからさ」
声を潜めてずっと笑っている郁斗に眉を寄せて抗議するも、逆に返されてしまい悠は更にぶすくれた
これも悠が女の子になってからの特徴である
男の頃も比較的喜怒哀楽の分かり易い言動をしていたが、それは主に行動に置いての表現で今の悠のように表情でハッキリと感情を示している訳ではなかった
良いか悪いかはこの際は置いておいて、こういった微細な変化も感じ取りながら、郁斗は徐々に変わりつつある親友の頭を撫でてみた
「ちょっと、髪崩れるじゃん」
「良いから良いから」
頭を撫でられるのが好きなのも郁斗はしっかり把握済みで事実、文句を言いつつも撫でられている当の本人は気持ちよさそうに目を細めている
ついでに言うと髪を梳かれるのと顎の下辺りをこしょこしょと擦られるのが好みなのも把握しているため、機嫌が悪くなったらこの三つを組み合わせてご機嫌を取るのが最近は多い
「可愛くなったもんで」
「ふふん、お洒落は前は全然興味無かったけどこうしてやってみると面白いもんだよね。女子の服は種類も多いし組み合わせ考えたりするの結構楽しいんだ」
「そうか」
そういうことを言ったつもりは無かったのだが、可愛くなったという言葉をお洒落するようになった、ととらえた悠は今度はあの服が欲しいとか、秋のトレンドがもう出てるんだとか、以前は聞くことも無かったカタカナばかりの女子ウケのする言葉がたくさん出てくる
男子としてお洒落好きの部類に入る郁斗も異性のトレンドや用語となると把握してない物も多く、ずっと喋っていて口を挟む暇もないので話半分程度に聞き流しながら、先程とは逆の立場となってぼうっと窓の外の景色を眺めた
「郁斗、どうかした?」
「ん?あーー……、いや、何でも無い。ちょっと考え事してた」
「そっか」
一瞬、答えようかどうか迷ったもののかぶりを振って浮かんだ考えを振り切る
悠が悠になって既に二ヶ月が経過している。結局、警察の捜査も虚しく、悠が相対した男の足取りは欠片も掴むことが出来ぬままに事件は未解決のまま早々に終結してしまいそうな雰囲気であった
悠自身も、あまり戻ることへの執着というモノを見せておらず、戻れれば戻りたい程度に留まっているようだ
それどころか、こうしてお洒落を楽しんでいる辺りは流れに身を任せるだけではなくて状況そのものを楽しもうとしている節もある
ただ、ずっとこのままな場合。親友たる彼ないし彼女はどういった選択をするのだろうかと、何気なく郁斗は考えていた
このまま、女の子として生活することを認めて、男に戻る気が無くなってしまったら親友は、そして自分はどう思うのだろうか
「なんかやっぱ私達ってお邪魔虫な感じだよねー」
「蚊帳の外ってこういうことを言うんですね」
「だから別にイチャイチャしてる訳じゃ……」
「おやおやぁ?私は別にイチャイチャしてるとは一言も言ってないけどなー???自覚がやっぱりある感じ~?」
「だから、ちがうってっ」
ただ、今のこの状況も決して悪いわけでもないのだから良いかな、と目の前で騒ぐ女子三人を眺めながらそう思うのであった




