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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
プロローグ
4/206

どうしてこうなったのか

「悠!?目が覚めたのか?!」


看護師に言われてベッドに戻り、大人しくしているとドタドタと慌ただしい足音と共に大柄な男性が体格に見合った大きな声で悠を呼びながら病室に飛び込んできた


「親父、ここ病院」


「え、おおう、すまん。お前が目を覚ましたと聞いてつい、な……」


この大柄な男性は高嶺(タカミネ) (ツヨシ)、悠の実の父親で古武術たる高嶺流の師範だ

隆々と鍛えられた筋肉と大きな背丈は日本人らしからぬものである


「悠ちゃん……」


「母さんも来たんだ」


「新ちゃんも来てるわ。先生と一緒に来るって言ってたわ」


続いて息を切らせながらこちらも慌てて病室にやって来たのは母の高嶺(タカミネ) (サクラ)

剛とは違い、平均的な身長と体格の彼女は大和撫子、という言葉が似合う二児の母


艶やかな黒の髪を揺らしながら、大きく肩で息をする様はよもや40代とは思えぬ美貌を放っている


「あぁ、良かった……。悠ちゃんなのね?そうじゃなかったら本当にどうしようかと……」


「え、あぁ、うん、俺だよ。間違いなく、俺は母さんの子だよ」


涙を流しながら悠を抱きしめた桜に悠は一瞬疑問を浮かべるもすぐにそれを打ち消す

自分の体が男性のそれから女性の物へと大きく変化しているのである


おそらく顔つきも変わっているはずだ、そうだとするなら彼女たちは高嶺 悠っぽい何かが目覚めるのを待ち、そうしてから自分の子なのかを判断する以外は方法がなかったのであろう


「悠、目が覚めたようだな」


「兄貴」


そうやって桜を宥めていたところに再度声がかかる

最後にやって来たのは悠の兄、高嶺 新一だ。悠とは違い、勉学に才気を見出した彼は優し気な悠とは打って変わって知的でクールな、ちょっと近寄りがたい雰囲気を持っている大学院生


実際は見た目だけであり、その内には情熱的な感情を秘めた頼れる兄貴である


「先生、早速ですが」


「まずは現状を私から説明させてもらいます」


新一は悠と短く言葉を交わすと何かを確信したように頷き、伴って来ていた壮年の男性

白衣と名札から察するに悠を担当した医師に説明を促し、医師もそれに応じて一歩前に踏み出して、今の高嶺 悠の状態を語りだした


「まずは高嶺 悠君。君の意識がはっきりしているかどうかだけ軽くチェックさせてほしい。……ふむ、特に意識の混濁は無いようだね」


まずは石が悠の前へと屈み、ペンなどを使った軽い診断を行う

意識の有無や、記憶や身体に障害等が無いかの簡易チェックで特に躓くことなく悠が熟してみせ、そのチェックは終わる


「さて、悠君。君は今自分の身に何が起こっているかは分かっているかい?」


「えーと、身体が女性の物になっているようなのですが」


「その通り、男性だったはずの君の身体は、少なくとも見た目だけは女性のそれと遜色ない。具体的にはどうなのかは検査入院で明らかにするしかないから、後で詳しい検査をさせてもらうよ」


こくりと悠は頷き、検査に同意する

そもそも何が起きたのか分からない以上、断る理由もないのだが


「次に現在の君の状況についてだ。率直に言おう、現在この国に高嶺 (ユウ)という男子高校生はいない」


「……?」


「代わりに高嶺 (ハルカ)と言う、同い年、同じ生年月日、同じ学校。性別以外のその他が全て合致する女子高生が存在している。君の生徒手帳から、戸籍まですべてそうなっている」


医師はそう説明するが、悠は全く理解が追いついていない

自分は男である、身体が変わってしまっているが戸籍や所持していた生徒手帳の性別欄は変えようもなく男と記されているだろう


だが、医師が言うにはそれら全てが書き換わっているらしい

非現実的だ、不可能、あり得ない、そこまで考えて悠はとあることを思い出す


「あ、そういえば【都合の悪いことは全部こっちで手配しておく】とか言っていたような」


「む?心当たりがあるのかね」


悠に大怪我を負わせたはずの男の言葉、確かそう言っていたはず

自分の身に起きた事と出会った男について思い出せる限りのことを伝えると医師はふむ、と唸りながら考え込み始めた


「俄かに信じ難い、荒唐無稽(こうとうむけい)な話だが、私自身が君の身体の変化と言う本来あり得ないものに遭遇している以上、嘘とはとても思えんな」


「体の変化、ですか?」


どうにも医師が言うには悠の身体は急速に変化していったらしく、みるみるうちに致命傷だろう傷はふさがり、それに伴って肉体の方も女性へと変化していったのだという


悠自身も信じ難い話だが、紛れもない証拠が自分自身である以上目を逸らすことは出来ない


「これを知っているのは君を担当した救急隊員と一部の看護師、そして私と君の家族、それと君の同級生の一人と教師が救急車に同伴していたため君のその体の事を知っている」


「郁斗君と担任の牧野先生だ。悠を心配して同伴していたそうだよ」


どうやら親友の郁斗と担任の牧野先生もこの出来事を間近で見たらしい

牧野先生はともかくとして、無条件で信頼できる郁斗が状況を知っているのは僥倖(ギョウコウ)と言える


「さて、現状説明はこのくらいかな。だが、私も色々と情報を交換したい。もう一度悠君の話を聞いても良いかな?」


「はい、僕もよくわかっていないので……。あ、鏡ってありますか?自分の姿を確認したいんですけれど」


「わかった、用意させよう」


一先ず簡単な説明と確認をしたところで、改めて状況の確認をするべくこの場にいる全員で何があったのかを話し出す


特に悠の話は現実味の無いものであったが、それを納得できるだけの不可思議な現象がなんなのか、一同は頭を悩ませることとなった

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