結成!!仲良し三人娘
私立図書館とは、その名の通り個人で経営している小さな図書館だ
笠山市立図書館は近隣の街でも大きな図書館で良く知られているのだが、こちらは所謂穴場
町の真ん中にあるお世辞にも広いとは言えない館内には所狭しと、それでも少々図書館にしては少な目の蔵書数が一同の前には広がっていた
「おばちゃーん、ちょっと談話室借りても良い?」
「借りるってあんたまた家に戻ら、っと今日は連れがいるのかい」
入館して早々入り口近くにあるカウンターの下に駆けだした絵梨は内側を覗き込むように身を乗り出して誰かに呼びかけると返って来たのはしわがれた、それでもよく耳に通る女性の声がカウンターの奥から聞こえて来た
「いらっしゃい。あんたら最近絵梨に出来たっていう友達だろう?勉強ってなら閉館時間を過ぎてても使ってくれて構わないよ。ただし、晩御飯までには戻りな」
カウンター奥の暗がりから出て来たのは皺が目立つ顔に黒縁の眼鏡をかけた白髪のおばあさんだった
目つきが鋭く、口調も厳しめでいかにも頑なな偏屈な人物に見えるがその話の内容からはそういった印象は受けない
きっと見た目だけで優しい人なのだろう
「よし、じゃあ談話室行こう。奥にあるから案内するよ」
ここを頻繁に利用しているっぽい絵梨が先頭になって私立図書館の奥へと歩を進める
カウンターの前を通る時におばあさんに一礼して通り過ぎて行くと、最後に通り過ぎた悠の姿を見て、むっと唸り声を上げる
その声に思わず悠は足を止めて首を傾げる。何か無作法をしたつもりはないのだが、たまたまなのだろうか
「んー?あんた、名前は?」
「え、高嶺 悠ですけど……」
訝し気に目を細め、悠の事をジッと見つめるおばあさんに悠は思わずたじろぎ、一歩後ずさる
「高嶺のヤンチャ坊主の娘かい?あそこにいるのは息子二人だったはずだけど」
「従兄妹なんです、今居候してて……」
何故か詰め寄られている状況に目を白黒させながら悠はいつも通り、自身の設定をおばあさんに教えている
父の豪の事をヤンチャ坊主と呼称するに豪とはかかわりがあるようだが、悠には記憶にないためこの事態には心当たりが無かった
「絵梨、ちょっとこの子借りるよ」
「え、どうしたのおばあちゃん」
「知り合いの家の居候らしいからね、ちと近況を聞くだけさ」
そう言いながら既に悠の腕を掴み、カウンターの奥へとズルズルと引き摺り込まれて行く
ご老体とは思えぬ膂力にも目を丸くしながら顔の前で掌を縦にして、気にしないでのジェスチャーを送ると向こうは一様に不思議そうな表情をしながらも奥へと歩みを再開する
郁斗だけが少し不安げな表情をしていたが、まあ乱暴されるという事も考えずらいので大丈夫ではあろう
「で、だ」
カウンターの奥のさらに奥。暗い奥まった廊下の先にある部屋は対照的に明るく、ふんだんに日光を取り入れた吹き抜けの空間が小さくも存在していた
置いてあるソファーに腰掛け、いつの間にか用意されていた紅茶を啜っておばあさんは悠を問いただした
「あんた誰だい」
「えっと、高嶺 悠ですけど……」
「豪の姪かい?おかしいねぇ、アイツにもアイツの嫁にも兄弟はいなかったはずなんだけども」
変わらず紅茶を啜るおばあさんの鋭い返しに悠はうぐっと言葉に詰まる
確かに悠は両親に兄弟がいるとは一言も聞いたことが無い、訪れたこともない。少なくともいたとしても悠はその存在をしらない
「正直に話しな。あたしは嘘は嫌いなんだ」
「い、いえ、その……」
「事情があるんだろう。じゃなきゃこんな荒唐無稽な嘘はつかない。別に誰かを傷つける嘘じゃないのも分かってる。だが、私は嘘が大嫌いだ。此処を使うなら少なくとも私にはあんたがついてる嘘の内容を話してもらおうか」
妙に勘が鋭い、と言うか他人に反論を許さない強い言いようのおばあさんに悠はもうたじたじでどうしたものかとあわあわとするしかない
対しておばあさんは慌てず騒がず、先ほどと同じようにティーカップを片手にただ悠が喋り出すのを待っていた




