どうしてこうなったのか
笠山市の病院の一室に1週間前に緊急搬送されたその人物は小さなうめき声と共に薄っすらとその意識を覚醒させていく
「うっ……」
まず目に映ったのは病院の白い天井、次に見たのはその部屋の様子
木製の簡易なテーブル棚と椅子、その上には幾つかの果物と飲み物が食べかけ飲みかけのまま置いてある。そして小さな冷蔵庫
部屋の窓は少し開いており、カーテンが春先の少し強めの風で揺らいでいる
「……病院?」
典型的な病室の風景にその人物は体を起こしながら呟く、そしてすぐに違和感に気が付いた
先ずは自分が発した声である。彼は一般的な男子高校生であり、変声期は中学生で終えており、当然その声は女性に比べると低めである。それなのに今彼が発した声音は自分には聞き覚えのない声の高さだった
次に手元にハラリと落ちてきた細い何か
訝しんで手に取って見てみるとどうやらそれは彼の髪の毛らしく、引っ張れば当たり前に痛い思いをする
だが彼はやはり一般的な男子高校生である。こんな背中の中程までありそうなロングヘア―とは無縁で、むしろ髪の毛は適度に短くもみ上げも襟足もそこそこに短いと記憶している
そして視界の端に映った胸元の大きな何か
果て、これは何だろうとむんずと掴んでみたらその刺激でビクリと体を震わせる羽目になった
どうやらこれは彼自身の肉体の一部であるようだ
まるで豊満な女性の胸部にも思えるが再三言うように彼は男である、よもや胸部から下を視認できないほど胸筋を鍛えていたわけでもないし、何よりそれは非常に柔らかい
そして最も大きな違和感に気づく
「んんー?」
その違和感、率直に言うと股間部の妙な物足りなさを感じ、その感覚の赴くままに薄手の病衣の下を覗き込み
「―――――っ!!?!?!?!?!!」
衝撃のあまりにベットから転げ落ちた
「どうしました?!」
病室からベットから落ちるというスゴイ音がしたために通りがかりだったであろう看護師のお姉さんが慌てて扉を開けて駆け込んでくる
「俺の息子がどっかいった……」
「は?」
ベットから逆さまに落ちたままの彼、否
彼女、高嶺 悠の一言に看護師は眉をひそめて応えていた