一か月の成果
「いやぁ、男女が部屋に二人きりとかヤることは一つっしょ」
「馬鹿野郎、悠は中身男だし親友だ。んなことするかよ」
アホ言うなと兄に窘められるとつまらなさそうに女子にしては短い髪をガシガシと掻き上げ適当な返事をして入れ替わりで階下に降りていく
「母さん、そこら辺にしときなよハル姉困ってるよ」
「あらごめんね。あ、そうだ桜に連絡しとかないと、郁斗―!!あんた隣に連絡してきなー!!」
「電話あんだろうが」
母妹で郁斗をからかういつもの光景に苦笑いしながら悠は間家にお邪魔する
子供の頃から何かとお世話になっていた間家は半分自宅のようなもので色々と勝手も分かっている。ぺちゃくちゃとおしゃべりを始めた郁代と郁香はさて置いて、悠はそそくさと二階の郁斗の部屋へと向かった
あの二人は一度喋り出すととても長い、先にとんずらさせてもらわないと下手をすれば一時間は待ちぼうけを食らってしまうだろう
「お邪魔するよー」
「おーう」
二階の郁斗の部屋は元サッカー少年という事もあっ選手のポスターやサイン入りのボールなど如何にもスポーツ少年らしい者が所々に見られる
全体的に青で統一された色調も見慣れた光景だ
「ってわっ?!ズボンくらい穿いてから呼べよ」
中に招き入れた郁斗はまだちゃんと着替えておらず、脱ぎ捨てたスラックスとジャケットを床に放り投げて部屋着のスウェットに着替えているところだった
「んなもん見慣れてるだろ。つーか口調戻ってるけどいいのかよ」
「此処なら母さんたちもいないし、人目を気にする必要もないだろ。此処くらい口調を戻させてくれ。あー、疲れた」
部屋に入ってくるなり口調を崩した悠に注意するとやっぱりまだ気を張らないといけないのか鞄をそこら辺に投げて郁斗のベッドにダイブする
枕に顔を突っ伏し、ぐだーっと脱力するさまは如何に友人言えど普通はしない行動である
この二人の場合、兄弟同然に育っているので気にもしないのだが
「制服皺になるし、他人のベッドで寝んな。せめて靴下は脱げ」
「仕方ねぇなー」
悠の卸したての制服はまだ皺も染みもない新品ピカピカの物。そんなものを早々に皺にするのはいかがなものかと郁斗は程々に注意し、悠は言われた通りにせめて靴下は脱ぐ
まだ履き慣れないハイソックスは靴とはまた違う窮屈感でそもそも家では裸足派の悠はこれ見よがしに足を上げて靴下を脱ぎ始める
その様子にはぁ、と郁斗はため息をついて悠の脚を掴んで佇まいを戻させた
「なにすんだよ、靴下脱げって言ったのは郁斗だろ」
「あのな、お前気を抜き過ぎだ」
「ん??」
脱げと言われたから脱ごうとしたのに無言の制止を掛けられて、訝し気に郁斗を睨む
そうすると郁斗は肩を竦めてそう答えた
意味が分からず小首を傾げるその様子は実に可愛らしいのだが、そういう所作も含めて悠はガードが甘い、と郁斗は感じていた
「パンツ、丸見えだったぞ。今日は水色か」
「んなっ?!」
バっと慌ててスカートの裾を押さえてキッと睨み付ける。その対象の郁斗はあのなぁ、と再び肩を竦めて見せた
「男の部屋でベッドに腰掛けて衣類脱ぎだして、指摘されるまで気付かないの、色々とマズいって思わないのか?」
「えっ?いや別にこのくらい……」
平気だろ?と言外に言う親友の危機管理の無さに郁斗ははぁぁぁ、と大きくため息をついて頭を抱えた
元男、という経歴こそ付くが、今の悠は何も知らぬ男からしたら黒髪巨乳のまるでアニメから飛び出て来た美少女である
そんな美少女が無防備に男のベッドで下着を見せながら靴下言えど、衣類を脱ぎはじめているその風景を第三者が見た場合、一体どのような想像をするだろうか
もし、ここが郁斗の部屋ではなく、違う男の部屋だったら悠の行為はどういう風に目に映るのであろうか




