一か月の成果
「まぁ、んなことはどうだっていい。問題は今後お前らがどうしたいかだ」
「ホントは昨日のうちに聞いておきたかったんだけど昨日はどうしても私の都合がつかなくてね」
確かに今回集まった主目的には全く関係ないが、この二人の関係性を正しく知っている生徒はいるのだろうか、多分知ったら自分たちと同じようなリアクションを取るに違いないと悠たちは予想する
「っと、こいつがどうするか、でしたよね?」
「えっと、一先ずは牧野先生に話した通り、従兄妹と言う形でこの学校の皆には説明していくつもりです。変に波風を立てる理由もありませんし」
これはもう一か月前に決めたことで既に実行している。今更変える必要もないし、変えようとも思わない
わざわざ矢面に立つ必要もないだろう。これは桜と剛にも了解を得ている話で新一も含め、もしもの時は話を合わせてくれる算段になっている
「友人には話さないのかい?」
「恥ずかしい話、俺ら実は放課後集まって遊ぶような友人がお互い以外いないんですよ。こいつは道場の手伝いで、俺は去年の冬までサッカーバカでずっと練習漬けでしたし、怪我してからは皆に腫物扱いで」
「あぁ、そう言えばお前らクラスの人気者だった割には遊びとかに誘われてるの見た事ねぇわ」
校長先生の話はごもっともで、普通、高校生には2,3にんくらいは放課後連れだってブラブラしたり、土日でも集まって遊ぶような友達はいるもの
しかし、二人揃って見事にその例外のルートを辿っていた
何か遊ぶにはいつも一緒、そうでない日は悠は自宅の道場の手伝い、郁斗は冬まではサッカーにのめり込み練習の毎日
怪我をしてサッカー部を退部してからはクラスメイト達はどう扱っていいのか分からず、結果として郁斗といつも通りに接していたのは悠だけだった
ぼっちと言われても仕方のないような灰色の学校生活。これでも当時の彼らは相当なクラスの人気者であったはずなのだ
家庭環境と努力と不運が重なった先に有ったのは二人でいるのが当たり前という日常だけであった
「……お前らホモじゃねぇよな?」
「いくら先生でもグーパンの一発かましますよ?」
「今は何の問題もないだろう?」
「そう言う問題じゃないですよっ?!」
話してみたら意外と親子だった、割と話をぶっ飛ばしてくるあたりそっくりである
悠と郁斗はため息を吐きつつ頭を抱える
友人同士で確かに異様に仲が良かったのは認めるがそれだけでホモ扱いは勘弁である
……実は一部女子の間で話題になっていたことは二人のためにもそのまま闇に葬り去るべき事実である
「そんなことはどうでもいい」
「言い出したのは先生ですけれど?」
「現状はそうとして、これ以上高嶺さんの秘密を知る人を増やすのか、増やさないのか。それだけでも教えてもらえると私たちとしても何かとサポートに回りやすい」
「あ、無視し始めたよこの人たち」
自分たちで話を振っておきながら自分たちで水に流し始めたずるい大人二人をジト目で睨みつけつつ、悠と郁斗は話を聞く
サポート、と言っても教師から出来るのは微々たるものだろう精々悠が目立たないように適当に配慮するくらいだが、それでもある種の情報規制を敷くためにはどれだけの見方がいるのかを把握しておきたいのだろう
「今のところ、誰かに話そうとは思ってないです」
「もしもの時があったら先生方にも一報入れる方向でどうですかね?」
悠たちもその点に関しては決めかねている部分であり、現状バレて不味そうな人種にはそもそも近づかない、味方に引き込めるなら引き込むべき
と言った具体策がでないまま横ばいの状態である
流石バレた時の対処ばっかりはケースバイケースで対応するしかなさそうだというのも現状維持の理由である
「無難な判断だな」
「では、何か困ったことがあったら気兼ねなく言ってくれ。対処できることであればこちらでしよう」
「出来るだけそういったことが起こらないよう注意します」
「よろしくお願いします」
こうして、学校内で悠の本性を知るメンバーでの初めての顔合わせが終わったのであった
今後、これが生かされるかは悠の努力次第と言えよう




