一か月の成果
授業は滞りなく熟され、昼休みに昨日と同じ体育館の庇の下に向かおうと二人で教室を出た時に囃し立てられたくらいだ
そうして放課後、悠と郁斗は言われた通りに校長室へと足を運んでいた
「校長室か、初めて入るな」
「校長先生自体は優しい人だけど一体どんな話するのかな、ちょっと緊張する」
今回校長室に呼ばれたのは間違いなく悠の件についてなのだろうが、どういった内容なのかは一高校生でしかない二人には想像が難しい
怒られることはないと思うのだが、呼び出されるというのは中々に緊張するものだ
これから下校、あるいは部活に向かうだろう生徒たちとすれ違いながら二人は数分かけて校長室の前までやって来てノックを三回
因みに二回のノックはトイレ用であるから気を付けるとよい
「どうぞ」
そんなくだらないことを思い出しながらノックをするとすぐに中から声がかかった
渋い男性の声で声だけ聴けば口元にひげを蓄えたダンディなおじさま的な想像が出来るくらいには良い声
「失礼します」
「失礼します」
先に悠、続いて同伴の郁斗が続いて校長室へと入室した
既に牧野先生は来ていたようで校長先生が座る机の前に立ち、こちらをニッと笑いながら見ていた
「ようこそ、わざわざ来てもらってすまないね。まずはそこのソファーに適当に腰掛けてくれ」
校長先生、細身の体に臙脂色のスーツを身に纏った初老の男性はビシッと着固めた如何にもデキる男性と言った印象を持つ、その美声に違わぬダンディなおじ様である
そんな校長先生に促された二人は少し緊張で動きをぎこちなくさせながらも革製のソファーに腰掛けた
「ふふ、そんなに気を張らなくていいよ。別にお説教ではないしね」
「今日はまぁ、校長先生からの直々の謝罪とお礼、それと今後どうするのかとかの簡単な話し合いさ。あまり肩肘を張らなくていい」
対面に腰掛けた校長先生と牧野先生は笑みを浮かべながらそう二人に話しかける
それでも目上の人間に話しかけられるのはやはり緊張するもので二人はそこまで緊張が抜けることは無かった
「ではまず高嶺 悠君。いや、今は高嶺 悠さんか。学校を代表して謝罪しよう、危険な目に合わせて、教育者として、この学校の最高責任者として力及ばず申し訳なかった」
「うえぇぇ?!ちょ、校長先生!?頭下げるのは止めてください!!別に何とも思ってませんから!!」
深々と頭を下げられ、悠は狼狽する。目の前の男性はこの場で最も目上の人間なのだ、そんな人に面と向かって頭を下げられるのは悠からすればたまったものではない
怒られるよりもとんでもないことをしてしまっている感が凄いのだ
「いや、これは私なりのケジメなのだよ。教育委員会からもPTAからも君のご両親からも特にお咎めは無かったがね、私はこの学校で君たち生徒を預かっているのだ。それを抜け抜けと傷つけさせてしまった、それは――」
「ハイハイ、そこら辺にしとけって親父」
悠に言われても頭を上げ続ける校長先生はどうにも責任感が人一倍強いらしく、申し訳ない思いで一杯なのだろう。それでいてお咎めも無しだというのだから本人にとっては不服で仕方ないのかもしれない
だがそれ以上に度肝を抜く発言が校長先生の言葉を遮る様に牧野先生から放たれた
「む、薫、しかしこれは――」
「だからって子供相手にコンコンと謝り続けてもしょうがねぇだろ。こいつら見ろ、大人に頭下げられてどうしたらいいのか分かんなくなってんぞ」
「え、っと二人は親子なんですか?」
「さっき親父って聞こえたんですが」
親し気に話す二人、先程『親父』と聞こえた気がした二人はおずおずと声を出してみると当の本人達はキョトンとした顔をして
「あれ、言ってなかったっけ?」
「薫は私の一人娘だ」
「「えっ」」
割と誰も知らないのではなかろうかと言う爆弾発言を残してくれた
それもそのはず、この二人全く似ていないのだ。顔立ちも目元も口元も体格も口調や性格ですら全く似ていない
これで親子と言われても全然分からないレベルである




