一か月の成果
「んぐ、ちょっとなんで私には手渡しじゃなくて投げ渡すわけ?」
「お前なら何の問題もねぇだろ」
その扱いの差にムッと来たのか悠が噛みつくが飄々とした態度で郁斗は受け流し、自分もシュークリームを一口
クリームが横に飛び出して、やはり食べ歩きには向かないような気がした
悠を挟んで歩く桃も袋を開けて食べ始めたのは良いものの悪戦苦闘している様だ
何処か座れるような場所は無いものかと辺りをキョロキョロと見回していると
「いただき!!」
ささっと食べ終えた悠が郁斗のシュークリームにかぶりついていた
割と容赦なく、がっつり口の中に含んでいる
「あ、てめっ?!」
前は甘いものがそれほど好きではなく、どちらかと言えば辛いものを好んで食べていた悠がこんなことをするとは思いもしていなかった郁斗はシュークリームの1/3程を見事に持ってかれていた
「♪~」
対する悠はしてやったりと上機嫌な笑顔で口周りに付いてしまったクリームを指や舌で拭っている
はぁぁ、と悠の突然の悪戯にため息を付きつつも郁斗は頬を綻ばせる
昔から悪戯好きだったところはあるがここ最近は特に悪戯が好きで、頻繁に高嶺家を訪れていた郁斗はその度に何かしらの悪戯をされていた
きっと身体が変わり、生活が急変したことによるストレスからの無自覚な八つ当たりみたいなものだろうと思い至っている郁斗にこの程度の八つ当たりや悪戯なら笑ってやり過ごせる
自分がそうなったら塞ぎ込む自信がある、そう思うだけに悠の負担は少しでも減らしてやりたいと思っていた
そしてそのまま特に何も考えずに残ったシュークリームを口にしながら、形だけでも良いから肘で悠を小突いておく
それにニシシシと悠は笑顔を返した
「はわわわわ……、やっぱり、お二人ってそういう関係なんですか……!!」
二人を凝視しながら真っ赤になっている桃のこの発言を聞くまでは、だが
「そう言う関係って?」
「別にこいつが他人のシュークリームを勝手に食っただけだろ?」
当の二人は何のことだか分からずに首を傾げる。悠は特に考えもなくシュークリームをパクっただけ、郁斗は悪戯されただけ、そういう認識でいるし深く考えたことは無かった
「だ、だって、間接キスですし……、郁斗さんも笑って許してるしで、完全に彼女と彼氏のじゃれ合いにしか見えません!!……もしかして私ってお邪魔ですか?」
この桃の言葉に自分たちが公衆の面前でどんだけ恥ずかしいことをしていたのか二人は自覚する
同性同士なら確かに友人のおやつを奪い取って食べてしまうじゃれ合いに見えるだろうが、二人は今男女である
しかも二人の距離感はかなり近い、ずっと隣り合って歩いているし、郁斗は悠の歩行ペースを考えて普段より歩くスピードを落としている(これに関しては単純に郁斗の紳士っぷりが発揮されているだけである)
しかも女子が男子の食いかけを悪戯でいただき、男子は笑顔でそれを許して女子が食べた部分を何食わぬ顔で食しているのである
正直言ってかなりの度合いでイチャイチャしているようにしか見えない
桃もそうだが、周りを改めて見回してみれば周囲にいる同じく下校中の笠山高校の生徒たちがチラチラとこちらをうかがっている様子が見えた
公道の往来で堂々と若い二人がイチャついているのである、しかも同じ学校の生徒が
興味、はともかくとして視界には映るはずである
特にラブコメ大好きな思春期乙女の女子達からの視線は次は何をするのかと熱い視線を送っていた
悠も郁斗も見てくれはかなり整っている、美男美女と言うのも視線を集める理由であった
「―――――っ!!!!」
あちゃーと思っていたのは郁斗で、悠はその横で顔を真っ赤にさせて俯き始めてしまった
自分がどういったことをしていたのか自覚したのだ、しかもその他大勢に物凄く見られている
完全にやらかしていた




