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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
秋めく日々は初恋の季節
202/206

ラブ&ピンチ

香達のところに行く前に着替えるからと自宅の前で別れた二人。

その悠の側は、玄関の中に入るや否や、いつもは揃える靴を脱ぎ棄てて、部屋に駆け足で飛び込んでいく。


突然の運動に悠は息を切らせながら、後ろ手で部屋のドアを閉めると、そのままズルズルとドアにもたれかかるようにして、床にぺたんと座り込んだ。


「はぁぁぁぁっ、何言ってんだろ私……っ!!」


大きく息を吐きながら、真っ赤になった顔を抑え込んで先ほど郁斗に投げかけた『もしも』の質問を思い出して、更にその赤色を増させる。


もう顔どころか耳や首筋まで真っ赤だ。早鐘を打つように鳴る心臓の音もやたらに早い。

ほぼ衝動的に口にしたあの質問は一体自分が何を思って口にしたのか、悠自身もよく分かっていなかった。


「あ、あんなの告白してるのと変わんないじゃん……!!いや、そもそもこの間もやらかしてるけどさぁっ?!」


先日のキス事件もそうだ。よく分からないモヤモヤした感情に頭の中が埋め尽くされたと思ったら、今まで自分が考えてもいなかった言葉が、自分の口から飛び出てくる。


先輩の告白現場を冷かしてやろうと、教室の外から眺めていた時も、先輩が郁斗にしなだれかかってるのを見て、何も考えずに教室に飛び込み、攫うようにして郁斗をあの場から連れ出した。


どっちもそのモヤモヤが頭を埋め尽くした時だ。

そういう時は頭で考える前に身体が動いている。このモヤモヤの正体は何なのか。


端から見れば、このモヤモヤの正体は実に明瞭なものだし、本人の口からも告白、という単語が出ている時点で分かっていよう者だが、この時点で悠は本気でそのモヤモヤの正体に気付いていなかった。


「もー!!なんなのさこれーーーっ!!!!」


「おい、うるさいぞ悠。ご近所に迷惑だろ」


「うぅぅぅぅ……」


叫ぶ悠に、最近マトモになって戻って来た兄の新一が隣の部屋から注意をしてきて、悠は叫び声を唸り声に変える。


全くと肩を竦める新一は妹に何らかの変化があったことを察知しつつも、静観を決め込むことに決めている。何せ、自身も他人のそれに構っているヒマは無いのだから。


【どうしたんです?先輩】


「あぁ、ごめん。妹が青春してるだけさ。で、何だっけ?」


【デートの場所ですよデートの!!初めてのデートなんですから、2人でしっかり選びましょう?】


「あぁ、そうだった。君が先輩なんて他人行儀にするから忘れてたよ」


【……新一さんのそういうとこ、ズルいと思います】


はははっ、ごめんごめんと笑うこの男。先日のシスコン事件での騒動の後に早々に彼女を作り、現在、その初デートの打ち合わせ中なのであった。


抜け目が無いと言うか、有言実行をした新一は初めて参加した合コンで見事に後輩の女子生徒のハートを射止め、それなりに順調な滑り出しを決めていた。


【妹さん、青春してるとか言ってましたけど、彼氏さんでも出来そうなんです?】


「あぁ、ちょっとややこしい関係なんだけど、良い男をほぼ手中に収めているかな。問題は、その二人が自分の感情にも相手の感情にも、鈍感だし見て見ぬふりをしてるってところかな」


【あぁ、確かにそれは青春ですね。すれ違わないと、良いですけど】


「そんなヤワな関係でもないさ。後は時間が解決すると俺は思ってるよ」


PCを使った音声通話でそんなことを喋りながら、新一とその彼女さんはデートの日時や場所をあれこれと決めていく。


隣でうーうー、唸る悠の声が壁の向こうからうっすら聞こえてくるが、そんなものは新一にも彼女さんの耳にも入ってはいなかった。


新一の言う、その感情。悠の感じたそのモヤモヤの正体。

それらは嫉妬や、独占欲やらなども内包した複雑な感情。時折、身を焦がすとも表現される『恋』と呼ばれる感情に、悠が気付くのは、もう少し先の話になりそうだった。


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