ラブ&ピンチ
そんな彼女の告白を断るために、彼女のクラスを訪れた郁斗だったが、今まで無かった反撃にすっかり困り果てていた。
過去にも、諦めの悪い女子は何人かいたが、それでもこちらの意思をキチンと示せば諦めてくれる子が大半だった。
更にその中には振った後こそ猛烈なアピールをして来た子もいたのだが、それに関しては敢えて冷たく対応することで相手に諦めを促していた。
そこからまた更に逆恨みのような事をして来て、悪い噂を流してくるような子も極数名いたのだが、その辺りは当時のクラスメイトや、元々の郁斗の良さを知っている人たち、郁斗本人が持っているイメージや実際の対応などなどが、早々に払拭してくれていた、と言う経緯もあったりする。
そんな告白による男女関係のもつれ、と言うやつを若いながらに沢山経験して来たモテ男、間 郁斗でさえ、ここまで食い下がり、逆に何故付き合わないのかと詰め寄って来る女子は初めてのことだった。
「さぁ、私の納得のいく回答をしてください。その気が無い、なんて不明瞭な良い訳じゃない、ちゃんとした理由を」
そう言って詰め寄って来る先輩に対して、郁斗が真っ先に頭に浮かべた感想は、この先輩めんどくせぇ、である。
恐らくその感想は何も間違っていない。郁斗にとって、ついでに言うなら世間一般的な考えとしても、下心でもない限り好きでも何でも思ってない相手と男女の仲としていきなりOKを出せるかと言われたら、NOだろう。
下心があれば話は別だ。お試しで、という軽い感覚や、とりあえず彼氏彼女が欲しい、ワンチャンいけるとこまで行けたらラッキーなどなど、そう言った打算や腹積もり、あわよくば、と言う考えが無いのであれば、初対面でその気も無い相手とお付き合いが出来るのか。
少なくとも、郁斗はNOだ。
この男にはそう言ったお試し感覚や誰でも良いと言う感覚は無く、故に告白されてもこの男の胸には特に響かないし、断る以外の選択肢は無い。
そのくらい、恋愛ごとに興味の矛先が向いていないのだ。罪づくりなイケメンではあるが、これが間 郁斗という男子高校生である。
そんな彼をもってしても、めんどくさいと思わせる須藤美々はある意味凄いのかも知れない。
「いや、その気が無いとしか……」
「そんなの納得出来ないわ」
何度目かのこのやり取りに、いよいよ郁斗もげんなりして来た。ほとんど悪魔の証明のようなものだ。
どんなに理由を述べても、彼女が納得できないなら、彼女は引く気が無いのがありありと見て取れる。
参ったな、と郁斗は表情を歪めるまでになって来ていた。
「じゃあハッキリ言います。俺は貴女に魅力も感じないし、興味も無いです。迷惑なんで、これ以上は止めてください」
押し問答に疲れ、さっさと終わらせたくなって来た郁斗は、いよいよ容赦なく興味が無いとバッサリと言葉のナイフを突き立てた。
彼からすれば、あまり言いたくなかった発言内容の一つだ。それはそうだ、あまり無闇に人を傷つけるような事を言うのは気持ち良くないし、不和を呼び込む原因にもなる。
トラブルを引き起こしやすい恋愛関係では特に、だ。
「あらそう。それなら、私から魅力的な提案をしてあげるけど?」
「魅力的な提案?」
ただし、そのナイフは須藤美々にはあまり効果が無かったらしい。逆に魅力を感じないなら教えてあげると言わんばかりの笑みで、郁斗に腕に触れ、しなだれかかると。
「私が良いこと教えてあげ――」
「はいはーい。郁斗が遅いから迎えに来たよー」
大凡、女子高生とは思えない、蠱惑的な表情を見せた瞬間、締め切られていた教室のドアがわざとらしく大きな音を立てて開けられ、ズカズカと悠が大声をあげて入って来たのだった。
「はいはーい、悪いけど郁斗はこの後、『私と』予定があるので、この辺でお暇させてもらいますね。せ・ん・ぱ・い」
わざとらしく手を叩きながら、これまたわざとらしく郁斗にしなだれかかる先輩とは逆の腕を取って体に密着させ、さらにわざとらしく言葉の端々を強調させて、郁斗をグイっと引っ張って、悠は歩きだす。
「お、おい、悠……」
「行くよ」
突然の悠の行動に、困惑する郁斗と、同じようにポカンとする須藤美々を尻目に、悠はあっという間に郁斗を連れて教室を出て行ってしまったのだった。
「……~~~~っっ!!!!!!」
その後、教室から派手な音が聞こえたのは、2人の耳にも届いていた。




