ラブ&ピンチ
そんな告白事件の翌日。その日からこそが、本当の事件の始まりだった。
悠、郁斗、絵梨はいつも通り3人一緒に登校し、昇降口までやって来る。そしてこれまたいつも通り、何も考えることなくそれぞれが自分の下駄箱の蓋を開けると、ドサドサドサと何かが大量に落ちる音と様子が3人の目に映った。
悠の下駄箱には両手で数えきれないほどの封筒。郁斗の下駄箱にも両手ほどの可愛らしい封筒が下駄箱の中に鎮座していた。
「えっ、ナニコレ」
「……久々に来たな」
「……」
初めての経験に戸惑う悠と、久々の出来事にこんなのあったなと漏らす郁斗。そして唯一なに一つとして下駄箱に何も入っていなかった絵梨が何とも言えない無の表情をしながら、上履きを取り出していた。
「えーっと、これは……」
「ラブレターってやつだ。女子がやるのは定番だと思っていたけど、男でもやるんだな」
「いや、突っ込むのそこじゃないでしょ」
悠と郁斗の下駄箱に入っていたのはまごうことなきラブレター。恋文とも書くそれは、若き少年少女が意中の人へと自分の思いの丈を伝えるための定番の方法の一つだ。
思いの丈を手紙でつづり、返事を求めるやり方や、日時と場所を指定し、改めて直接、お付き合いを申し出るかはその人によるだろう。
ただし、SNSや連絡手段が豊富な現代においては実際には中々見聞きしない方法でもある。
現実にあるものなんだと感心する悠と、度々女子からのそれをもらっていた郁斗がそれぞれ反応を示しながら、床に散らばってしまったそれを拾い集め、とりあえずさっさと教室に向かうことにした。
「で、これってどうすれば良いの?」
教室までやって来た3人はクラスメイトへの挨拶も程々に、悠の席を中心に、届いたラブレターを広げる。
数えると郁斗が7通。悠が16通ある。それぞれ目を引いてもらおうと工夫の施された封筒が多い。悠の受け取った封筒の中には茶封筒もいくつかあるが、これはあれだろうか果たし状か何かなのだろうか。
仮にラブレターなのだとしたら、もうちょっと考えた方がだろうと思う。
「俺は、まぁ一応一人一人丁寧にお断りの返事をしていたけどな」
「律儀ねー。無視とかしないの?」
突然届いた大量のラブレター。恐らくは昨日の告白事件に触発されて巻き起こった告白ラッシュなのだろうけど、突然の事態に本人たちは困惑ばかりが募る。
今までは音沙汰無かったことなのに、一体どうして突然こんな大量のラブレターが届くことになったのだろうか。3人は揃って首を捻るしかない。
「一応、向けてくれた好意を無下にするのもな……」
「かと言ってこの量はちょっと困るかな……」
一方的とは言え、受け取ってしまったラブレターを無視するのも気が引ける。実際、郁斗は過去に貰ったラブレターには全部しっかり応じた上でお断りの返事をしていたらしい。
こう言うところがきっとモテる要素の一つなのだろう。今でも、悠が横にいても遠くから女子が羨ましそうに見ていることは、悠も気付いている事だった。
同時に、自分も男子たちに割と見られている自覚もある。
女子は羨望と嫉妬、男子は憧れと好色の視線とそれぞれ性別によって全然違う感情を込めた視線を向けて来るのは面白い部分だと思うところだ。
「おはようございます。ってなんですかそれ」
「ラブレター。悠と間に届いたのよ。その処遇についての作戦会議」
「流石に量がね」
桃も少し遅れて登校してきて、いつもの4人が悠の席を中心に合計23通のラブレターの取り扱いについて頭を悩ませるのだった。




