夏休みが明けまして
事態が動いたのはその日の夕方の事だった。郁斗がサッカー部に一度顔を出すと言って珍しく先に教室を出て行き、昇降口で待っていようかと悠、絵梨、桃の三人でいつも通り一緒に昇降口まで降りて来た、そのタイミング。
「す、すみません!!高嶺さんですよねっ」
「えっ?うん、そうだけど……」
突然、見覚えのない男子生徒から悠が声を掛けられる。彼の声は上ずっていて、顔も赤く、緊張で息が少し上がっている様子があったが、悠はとりあえず彼の話を聞くことにした。
第一印象自体は別に悪い人ではない。むしろ真面目や誠実と言う言葉が似合いそうな雰囲気を纏った彼は、立ち止まってくれた悠にお礼を言うと、しっかり90度頭を下げてこう言った。
「突然ですみません!!好きです!!付き合ってください!!」
正々堂々。今時珍しい真正面からのお付き合いの告白。
度肝を抜かれた悠は固まってしまって、どうするべきかあたふたとしてしまうが絵梨に肘打ちされて、ハッと冷静さを取り戻す。
ここは昇降口。何かと人目に付く。そんな場所で告白してしまう勇気と無謀さ、少々配慮に欠けた行動ではあるが、逆にそれを見られても恥ずかしくない、と言う真正面からの好意故とも言えるかも知れない。
ともかく、彼をこのままにしておくのはあまりにも失礼な事。
「えっと、ごめんなさいっ!!」
バっと悠も同じように90度しっかり頭を下げてお断りの返事をする。
告白して来た彼に、悠は別に不快な感情を覚えていた訳ではないが、だからと言っていきなりお付き合い出来るかと言われると、ハッキリ無理と答えられるくらいにはその答えは明確に出るものだった。
「……そうですか。すみません、失礼しました。自分、5組で空手部の小林 健司って言います。その、一度高嶺道場で見かけてから一目ぼれしてたんですけど、こんな身勝手なことして申し訳ないです。どうしても、ちゃんと自分の気持ちをハッキリさせたくて」
「あ、ウチの道場に通ってる……。あー、ハイハイ、お父さんが教えてる門下生にいた気がする。……うん、ありがとうね。お付き合いは出来ないけど、嫌な気分じゃないから気にしないで。むしろ、そうやって自分の気持ちがハッキリしてるの羨ましいな」
「裏表無いのが、自分の取り得なんで。じゃあ、ありがとうございました!!師範に扱かれて来るっす!!」
「頑張ってね」
ハキハキと喋る彼を見送った悠ははぁっと息を吐くと、びっくりしたぁと驚きの声を上げて下駄箱に寄り掛かる。
突然の告白というイベントに固唾をのんで見守っていた周囲も時間が動き出したように各々本来の行動へと戻っている。
「なんて言うか変わった人だったね」
「今時、人通りのある往来で告白なんて度胸あるわね~。ま、ハキハキしてたし、振られてもナヨナヨしてなくて、結構好感度高いわ」
桃と絵梨はそれぞれ健司少年にそう印象を持ち、口にする。二人の言う通り、彼は今時珍しい&少々珍しいタイプの人間だろう。
今時の学生の告白なんて、たいていメッセージアプリを介したやり取りで交わされることが多い。
そんな中で、人の往来がある中、正々堂々と真正面から告白をしてきて、ハキハキとしたやり取りをした彼は今時とも世間一般とも少しずれているように思う。
「すっごい緊張した。告白って、される側もドキドキするんだね」
「まぁ、相手の緊張がこっちにも伝わって来る感じはあるわよね」
「私も見ててドキドキしました。ホント、びっくりです」
三人の話題は健司少年と、その告白の仕方に対する評価になり、あーでもないこーでもないとお断りの返事はしたものの、彼の評価と言うものが女子的目線でされるのは、郁斗がサッカー部から戻ってくるまで続いた。
お久しぶりです(震え声
絶好調な他作品ばかり更新してて申し訳なき……。更新途絶えてばかりで申し訳ないですが、またボチボチ始めます。よろしくお願いします。
魔法少女アリウムフルール!!
と
勇者召喚されたあと女体化の呪い受けてクビになり帰れなくなった話
のTS系2作品も暇があればどうぞ。
いや、しかしマジで申し訳ない……




