夏休みが明けまして
「で、実際どうなんだよ?お前が高嶺さんの彼氏だって噂も出てたしさ」
「確認してどうすんだよ……」
事の真相を知りたい彼に詰め寄られ、郁斗はめんどくさそうに眉根を寄せる
以前、虫よけも兼ねてワザとそう言う噂が立つようにしたのは事実。だが、実際は男女の交際関係にはなってないのも事実だ
この辺りを掘り下げられると、少々めんどうが起こりそうなので出来るだけそうならない様に努めてきたが、どうやら先日の騒動が尾ヒレを付けて妙な噂に発展している様だった
「そりゃ、フリーなら俺にワンチャンあるかもだろ?」
あわよくば告白が成功して彼氏彼女の関係になれるのではないかと妄想を膨らませる彼に、郁斗は鼻で笑うと共に少しばかりイラッとも来て、嘲笑うかのように口角を上げる
「ワンチャンもねーよ。悠は俺とキスしたいらしいからな」
「はぁッ?!なんだよそれ!!」
「本人談だ。俺のクラスの奴は全員聞いてるぜ?」
圧倒的有利は自分にある。そう主張した郁斗に、彼は驚きの声を上げるが、郁斗のその余裕綽々な態度にそれが事実だと認識すると、はぁっと肩を落として項垂れた
モデルとして雑誌に載ってもおかしくないようなイケメンがライバルともなれば逆立ちしたって勝てっこないのは、16年という彼のまだ短い人生の中でも嫌という程味わって来た現実なのだ
世の中、大体顔の良いやつが上手く行くように出来ているのである
「チクショー、儚い夢だったわ」
「諦めるの早いなおい」
「お前に対抗馬張れるとか言えちゃうほど、俺は無謀じゃないぜ……」
郁斗がライバルと知って、早々に諦めた彼を薄情と言うのかある意味男子高校生らしいとも言うのか
特に若い頃の恋愛何て外見的な特徴がモノを言うものだし、彼氏彼女がいることが一種のステータスや憧れみたいなものである。学生の頃にする恋愛というのは、得てして中身まで見れてないことの方が多いのだ
これを大人になってからも続けると、ひたすら長続きしないか、×が増えて行く恋愛をして行くことになるのだろう
「てかさ、郁斗は高嶺さん狙ってる訳?」
「狙ってると言うか、俺の隣にいてくれるならアイツ以外のビジョンが浮かばないってのが正直な話だな」
「はー、イケメンはそう言うクサいセリフもサマになって良いよなぁ。友人以上、恋人未満って感じ?」
身を投げ出すように、座り込んでいた日陰のコンクリートの地面に彼が寝ころび郁斗に対して悪態をつく
顔が良いだけでキザったらしい言葉も実にカッコよく聞こえる。これがフツメン以下の男性諸君が言っても、イマイチパッとしない印象にしかならないのだから、顔の良さと言うのは罪深い
「友人以上なのは認める。恋人かどうかは、まぁ向こう次第だろうな」
「てことは、お前は高嶺さんに気がある訳だ」
「……あんだけ可愛い幼馴染がいたら、誰だって良いなって思うだろ」
観念したように、郁斗は吐き出す。ここの何処かでずっと燻っていた感情
幼馴染があぁも理想的とも言える可愛らしい女の子になって、互いの良いところも悪いところも、好きも嫌いも大体全部言い合える自信がある
そんな女子に、年頃の男子が心惹かれない訳がない
「だよなー、そりゃ男ならそう思うよなー。つーか、キスしたい言われたんだろ?ほぼ告白みたいなもんじゃん、ちゃんと付き合わないのかよ」
「その辺がちょっと複雑な事情ってのがあってさ。俺から言うと、アイツを混乱させることになりそうって言うか、何て言うかな」
悠と郁斗の関係が、ただの男女の幼馴染だったらこんなことにはならなかったのだろう
郁斗が思いの丈をぶつけて、成就するか、玉砕するかくらいの話になるはずだ
それをとびきりややこしくさせているのが、やはり悠が悠だと言うこと。これが、兎にも角にも、悠の心を混乱に貶め、郁斗の感情を一歩も先に進めない位雁字搦めにしている原因だった
「今の関係を壊すのが怖い、的な?」
「……あぁ、それ、かもな」
よくドラマや漫画で見るような理由に郁斗は妙に納得しながら、どうしたものかと頭を悩ませるのだった




