夏休みが明けまして
夏休みが空けた、とは言うものの東北の短い夏休みのお陰でカレンダー上でも8月のバッチリ真夏。この時期の体育と言うのは大抵何をしても地獄である
プールという多少の救いもあるが、炎天下の中温められた温い水の中に入っても特にありがたみは無い上に、無駄に疲れてクラスの大半が次の授業は撃沈する始末
そういう事もあってか、無くてか、定かではないがここ笠山高校では二学期にに入ったらプールの授業は無い
男子は外でソフトボール、女子は体育館でバレーボールがこの時期の授業内容だった
「――ふっ!!」
バチンっと軽快な音を立てて、悠の撃ち込んだスパイクは相手のコートに突き刺さる
チームを組んでるクラスメイト達とハイタッチしながらまたコートの所定位置に戻ると、女子らしいふわふわとしたサーブが、悠達のクラスメイトの女子から打ち上げられる
それを何回かラリーして、その内綺麗に上がったトスを悠がスパイクで相手に返して得点
これが先程から繰り返されている光景だった
「相変わらずの運動能力チート。止まらないでしょアレ」
「悠ちゃん運動神経良いもんね」
何と言うか、相手している隣のクラスの女子達が可哀想に思えるがあれでも手加減している方なのだ。この夏の香達の修行の成果は、悠達の身体能力を明らかにワンランク以上引き上げていた
おかげで、悠が女子になってしまったばかりの頃に悩まされていた、男の頃との微妙な体格などの差異の殆どは解消されつつある
そんな元々が身体能力で頭一つ出ていた元男子が、女子側で本調子を取り戻して来たのである。もはや体育は悠の独壇場の時間と言っても過言ではなくなっていた
「高嶺さんって、部活やってないんだっけ?」
やがて、試合が終わり次のチームと暑さでバテながらノロノロとのんびりした歩調でチームを入れ替え、次のチーム同士がこれまたノロノロと試合を始める中、悠に先程の試合を見ていた隣のクラスの女子が声を掛けていた
確か、バレー部に所属している生徒だ
「私?うん、部活はやってないよ未所属」
「でも、ウチの学校ってどっかの部活に入ってなきゃいけなかった筈でしょ?バレー、やらない?」
やっぱりかーと悠は大よそ予想がついていたその女子の話の内容に困ったように笑いながら、返事を続けつつ、持って来ていたタオルでかいた汗を拭う
「ウチ、道場やってるからその手伝いがあって部活は出来ないんだ。学校にも説明済みで了承も貰ってるから」
「あー、成る程ね。道理であんなに運動できるのに、誰も運動部に誘わない訳だ。勿体無いなぁ、高嶺さんなら殆どの競技でレギュラー取れるんじゃない?」
悠の断りの言葉を聞いて、その女子は成る程ねぇと合点が言ったように頷きながら、それでも悠が部活に入らないことを勿体ないと表現する
悠からすれば、部活をやってるくらいなら道場で自分を鍛えていた方が有意義だと思っているので大きなお世話だが、この手の話は昔から散々言われている事でもあり、悠は笑いながら受け流す
「いやーそんなことは無いと思うよ?私の場合、運動神経で誤魔化してるだけだから、本当にちゃんと練習してる人には全然敵わないと思う。それに、私は道場でやりたい事があるから、部活にあんまり興味も無いんだ」
「んー、そっか。ちゃんと目標ある人を無理に誘っても良くないしね。まぁ、もし何かの拍子に気が向いたら、うちの部を覗いてよ」
「難しいと思うけどね。その時はお願いします」
相手も引き下がり、悠も軽く頭を下げて、二人は別れる。彼女は断然聞き分けの良い方で、悪気もなくフレンドリーなタイプなのでこのくらいで済んでいるが、中にはしつこく勧誘してくる輩もおり、苦労したことを思い出しながら、悠は何時もの二人のところに足早に駆けて行くのだった




