一か月の成果
「ホントにただの幼馴染なんだって~」
グラグラと肩を揺すられ、頭を揺らしながら悠は半泣き状態で答える
見た目はそう見えるかもしれないが事実は全く違うのだ、出来れば勘弁してほしいのが悠の本音であった
「ちぇ~、じゃあとりあえずそういうことにしとこっかな」
「私らそろそろ部活だからなんかあったら話聞かせてね」
「じゃあねー」
彼女たちからすれば頑なに吐かない悠に諦めたのか、一人がそう言いだしたのを皮切りに次々と女子クラスメイト達は離れていく
まるで嵐のような勢いで迫ってきて、嵐のように去っていく。勢いに翻弄された悠は全員が離れた後、ぐったりと机に突っ伏した
「災難だったな」
「災難だと思うならどうにかしてよ」
「無茶言うなよ。置いて帰らなかっただけ優しいと思ってくれ」
ニヤニヤしてる郁斗を睨んでは見るもののさっきと変わらずケラケラ笑うだけではぐらかされる
確かに置いて行かれなかっただけマシだが、少しくらい助け舟を出してくれても良かったじゃんとブスくれながら、悠は机のわきに掛けてあるバッグを取り、背負った
「あ、あの、悠ちゃん。一緒に、帰らない?」
そこにおずおずと話しかけてきたのは昼休みにお話をした桃だ
変わらずくりくりと可愛らしい目を不安げにさせながら悠の様子をうかがう姿は庇護欲をそそられる
思わず悠も郁斗も頬を緩ませるくらいには
「勿論良いよ、郁斗も一緒だけど。もしかして待ってた?」
「た、助けられなくてごめんね……」
「良いよ良いよ、モモちゃんそういうの苦手だろうしね。そこで笑ってるだけの野郎とは大違いさ」
「ひゃあっ」
引き合いに郁斗を出して桃の罪悪感を薄めてあげた後に可愛さのあまりに悠は桃を抱きしめる。腕の中で可愛らしい悲鳴が上がったがそのまま頬擦りして「桃ちゃん小っちゃくてかわいいなー」とでれでれしながら郁斗を非難がましく見つめると
「分かった分かった、帰りに何か買ってやるよ」
郁斗も勘弁してくれと降参のポーズを取り、帰り道での寄り道を提案する
「コンビニのシュークリームで手を打とうじゃないか」
「へいへい」
占めたと言わんばかりに欲しい物を口にすると肩を竦めて郁斗は了承。悠の腕の中にいた桃が抗議の声を上げ始めたところで三人はようやく帰路に着くのであった
「そう言えば、悠ちゃんは何処に住んでるんですか?」
「ん?悠の家だよ。あいつ今家にいないから家具だけお互いのに交換してあいつの部屋が私の今の部屋になってるんだ」
帰り道、唐突に桃はそう質問して来た。確かによく考えれば高嶺家の親戚言えどそのまま家に上がり込んでるとは考えづらいのだろう
実際はそもそもに部屋の家具など弄っていないし、当の本人の性別が変わっただけなのだから高嶺家にいるのだが
「あ、そうなんですか。てっきり、アパートとかで一人暮らししているのかなぁって」
「それでも良かったんだけど、慣れない土地で女の子の一人暮らしはイカンだろーってなったらしくてさ。たまたま入れ替わりで部屋が空くってもんだからそのまま転がり込むことになったんだよね」
「不審者一人くらいならぶっ飛ばせるだろおぎゃっ!?」
余計なことを喋ろうとした郁斗の脚を思いっきり踏んづけて黙らせて悠は適当に当たり障りのない設定を口にし、桃を納得させる
男が女になるなんて発想自体があり得ないだろうが、予防線は張っておいて損はない
彼女には悪いが悠も郁斗も、桃に真実を語る気は欠片もなかった
「あ、コンビニ」
「分かった分かった、小高もなんか買ってやるよ」
「えっ、わ、悪いですよ……」
「良いから良いから郁斗に買わせといて大丈夫だよ」
帰り道にあるコンビニの近くまで来たのを確認して悠は自分の話を変える
遠慮する桃の背中をぐいぐいと押しながら、三人はコンビニへと入って行った