夏休みが明けまして
コソコソと遠巻きに二人を観察する絵梨と桃の事など、頭の中から消し飛んでいる二人は、チラチラとお互いの事を気にしてはいるのだが、先程の事を気にして中々何を言って良いのか言葉が浮かばない
たまに視線がバッチリ合うのだが、その度に悠が真っ赤になって俯いてしまい、その様子を見て、郁斗も何だか気が引けてしまい何も言えなくなる
「付き合いたての中学生か……!!ええぃまどろっこしい!!ちょっとイヤらしい雰囲気にして来る!!」
「絵梨ちゃん!!ステイ!!ステイだよ!!」
そのあまりにもじれったい光景に絵梨が我慢ならないと飛び出しそうになるが、桃がすんでのところで押し留め、何とか突入を阻止する
あの雰囲気こそが尊いのである。あれこそが聖域である、他人の恋愛を遠目で見ていることが何と心が躍る楽しいことかと心の中でなんともやましい考えを巡らせる桃はそれこそ野獣の眼光で二人の様子をつぶさに観察する
こっちの方が怖い
その内、二人の家の前までやって来ると二人は足を止め、お互い何か声を掛けようと口をもごもごとさせるが言葉が出てこない
その様子を変わらず桃と絵梨が観察しているのだが、絵梨は家がこの先にあるとはいえ、桃に関しては既に自宅のルートから反れている。帰宅時間よりも優先は二人の行く末であった
「お昼!!お昼食べ終わったら、またね」
「お、おう」
意を決したのは悠の方だった。大きな声で勢いをつけると、捲し立てる様に後で会う約束を取り付け、逃げるように高嶺家へと駆けこんで行った
それを眺めていた郁斗は、バツが悪そうに自分も向かいにある自宅へと足を向ける
その途中で桃と絵梨が遠目で観察していたことに気が付き、しっしっと手で払ってあっち行けとジェスチャーすると少し機嫌が悪そうにドスドスと自宅入って行った
「絵梨ちゃん、悠ちゃんの恋の予感ですよこれは」
「桃、案外こういうの好きなのね」
目をキラキラとさせる桃に絵梨はちょっと引きながら、二人もその場で別れる。絵梨は香達が待つ家へ、桃は当然元の道へと戻って自宅に帰宅だ
「……あの二人、あんな感じで修行大丈夫かな」
絵梨の不安いっぱいの予想は、概ね当たった
悠と郁斗が分かれて行う修行はいつも通り、滞ることなく行われた
悠はいつも通り実戦形式で照と
郁斗と絵梨は香のコーチのもと、術の原理と実際のコントロールだ
それを終えた休憩中が酷かった
「あっ……」
「ん……?」
お互い休憩の為、皆がいる場所まで集まると、まず先に悠がピューっとその場から逃げ出してしまう
それを見て、郁斗はバツの悪い表情を相変わらずするが、追い掛けるのも違うような気がして、汗を拭くタオルでガシガシと乱雑に頭を拭いて誤魔化す
「あの二人、なんかあったの?」
「キス未遂です」
「あー」
「なんじゃ、接吻くらい。恥ずかしがるならせめて一発ブッコいてからじゃろ」
「照、言い方。それにまだ若いんだから仕方ないでしょ。今まであぁならなかったのがおかしいんだから」
下品な言い方をする照に釘を刺してから、香はとりあえずこの状況を静観することにする。長く続くようなら考え物だが、まだ若い二人だ。ちょっとしたことでお互いを意識したら感情の方が追い付かないのは当たり前
二人はどんなに大人びていても、どんなに戦いに揉まれていても16~7歳の若者でしかないのだから
この中で唯一の所帯を持つ妻であり、母である香は優し気な目で二人の様子を眺めていた
「そうそう、初めてお互いを意識し合うってあんな感じよね。懐かしい」
脳裏には、帰るべき世界に残した、夫と息子の姿が浮かんだ香の表情は優しく、そして寂しそうだった




