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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
秋めく日々は初恋の季節
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夏休みが明けまして

そんな暑さと提出物の二重の地獄を一部の生徒が味わったLHRも特にそれ以上はやることはない、多少の教師故に話さなければならないお小言も、牧田先生はそこそこで終わらせ、自身も暑さでバテながら、教室脇にある教師用の椅子へと腰掛けて、時間が過ぎるのを待っていた


そうなれば、あとは騒ぎ過ぎない程度のお喋りタイムの始まりである


「そう言えば、親に連れ回されてたって言ってたけど、どこ行ってたの?」


いつもの3人も例に漏れず、また悠の席に集まってお喋りとこうじていた


「メインは北海道でしたね。避暑目的で。後は台湾とかにも行きましたよ」


「良いなー。ウチは国内旅行だって殆ど無いもんなぁ」


両親が旅行好きなんです、と笑って答える桃の家庭はこのメンツの中では唯一ごく一般的な普通の家庭と呼べるものだ。夏休みの間に北海道と台湾に行ってしまう辺りは、一般と言うよりは一回り裕福な家庭とも言えるだろう


悠の家、高嶺家は道場を経営する個人経営。休みは経営者たる豪の判断で決められるが、安定したお金や時間はあるかと言われると、正直微妙な話だろう


「……家族旅行かぁ」


そして、絵梨はそもそも旅行ということに接点がない生活を送って来た

目を伏せ、一つ声のトーンを落として、思わず漏れたその一言に、悠はしまったという表情を、事情を知らない桃はその調子に何かがあったのかと、心配そうに絵梨に視線を向けた


「絵梨ちゃん、何かあったんですか?」


「うーん、あんまり暗い話はしたくないんだけどね。ウチの親、雲隠れしたっぽくて」


「……えっ」


折角夏休み明けの楽しい時間に、あまりこういう話はしたくないんだけど、と前置きをしてから、絵梨はあの後起こっていたことの顛末を桃に伝える




あの夏休み終わりの戦いの後。絵梨の両親と思われる男女二人が、死霊術師によって二体の肉塊へと変異させられたことへの事実確認をするべく、絵梨は香と照の二人と一緒に、絵梨の両親が住む家を訪れていた


チャイムを数度押しても反応はなく、単純に留守か、不在を装っているのかと怪しんだ3人が意を決してドアノブを回すと、それはあっさりと回り、玄関のドアが開く


そのまま、警戒をしながら家の中に入った3人が見たのは、人気の感じない、もぬけの殻となった部屋の数々だった


多少の家具や衣服などは残っていても、必要な生活雑貨や幾つかの食器などまるで、人が住まなくなった空き家のような様相に、香は市の担当職員にすぐに連絡


警察などの検分も含めて出た結果は、夜逃げではないか、という結論だった


数日前に、銀行口座から多額の金銭が引き出されていたことなどを考慮しての結論であったが、3人はそれ以上の決定的な証拠を、警察が来る前に回収していた


それは駄菓子によくある、小さな箱のなか数粒のガムが入っている物によく似た。それでいて黒い、何か嫌なものを感じる丸い球状の錠剤のような物だった


それに魔的な何かを感じ取った香達が全て回収。解析した結果、魔力の無い人間に魔力を無理矢理埋め込み、死に至らせる魔術的薬物であることが判明した


つまり、あの死霊術師は何らかの方法で、絵梨の両親にこの薬物を摂取させて魔力を植え付け、死亡させてから死霊術で操り、あの場で絵梨を襲わせた、という事になる


つまり、一連の襲撃は執拗に絵梨を害するためだけに綿密に練られた作戦だった、という事だ

その結果として、絵梨は両親を失う事となったが


「く、雲隠れって、絵梨ちゃんを置いて?!」


「うん。まぁ、完全に捨てられたってこと。今は香さん達の養子になれないか、市役所の人達が色々してくれてるみたい」


話の重大さを知り、声を潜めながらも声を荒げる桃に、絵梨は自嘲気味に笑みを浮かべながら応える


絵梨は心の内に密かに秘めていた、何時かまた家族で一緒に生活すると言う夢を、永劫叶えることは出来なくなったのだった


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