修行、邂逅、三度
「クソッ!!」
少女との二転三転と目まぐるしく変わって行った戦いは、何とも不完全燃焼な結果で終わった
その苛立ちをぶつけるように、郁斗は近くにあった電柱を蹴飛ばす
特に妖力も何も使っていないため、電柱はただ揺れるだけだが、そうでもしないとやってられなかった
「絵梨、大丈夫?」
「ありがと、悠。今はごめん、ちょっと余裕ないや」
照に抱きかかえられている絵梨は心配する悠に、力なく答える。その目は当然のように泣き腫らし、真っ赤になっていて痛々しかった
「情けないの、相手に翻弄されてばかりで、全く決め手に欠けてばかり。事もあろうことか、絵梨、お主の両親が奴の手にかかっていることに儂らは全く気付いていなかった。力があると豪語しておきながら、このザマじゃ」
「本当にね。嫌ってほど力を有り余せているのに、絵梨ちゃんのピンチを救ったのも悠ちゃんと郁斗君だし、ホント、情けないわ」
力が有りながら、と現状を嘆く照と香。彼女たちほどの実力者でも、次々と裏をかき、予想外の行動をしてくる少女に対しては後手になってばかりだ
少女の言う通り、ここが住宅街で、ほとんどの人々が自分の身を守る術など持っていないこの世界では、二人の強すぎる力は逆に足かせになっている様だった
「用意していた対策もあっさり、逃げられたしね。間違えようもなく、私達の落ち度よ。ごめんなさい」
「香さんも、照さんも、悪くないですよ。悪いのは、あの死霊術師と、私の、両親、です」
力なく笑いながら、香と照の落ち度を否定する絵梨だが、その様子すら痛々しい。そこにいつもの快活さは無く、ただただ、現実に打ちのめされた少女がいた
それ見て、4人の手に力が入る。こんな理不尽を受けてもなお、当たり散らさない絵梨が、いや当たり散らす余裕すらも無い絵梨が、こんなことになる前にどうにか出来なかったのかと思わせる
「……今日のところは帰りましょう。二人も、長時間家を抜け出したままじゃあ家族が心配するわ」
「……ハイ」
「わかり、ました」
かと言って、ここで後悔や自責の念ばかりに囚われていてもしょうがない。やすやすとあの死霊術師に出し抜かれた事を教訓に、ここにいる全員で対策を立てて行かなくてはならない
それに、時間も経っている。霊衣を解き、寝間着の恰好に戻った郁斗がポケットからスマホを取り出すと、時刻は22時になっていた
1時間は夜中に外出していることになる。確かに、この時間では家族が心配するだろうし、何より警察などに見つかれば補導対象になる時間帯。帰る以外、選択肢は無かった
「ねぇ、間」
「なんだよ」
帰り道、全員がやりきれない気持ちで黙る中、照に抱えられた絵梨が、隣を歩いていた郁斗に声をかける
「怒ってくれて、ありがとう。嬉しかった。あと、ちょっとカッコよかったな」
「熱でもあんのかよ」
「酷いなぁ、褒めてるのに」
不躾な返事に、笑う絵梨に郁斗もホッと頬を緩める。少しとは言え、笑みが浮かぶなら郁斗もあそこで怒気を漲らせた甲斐があると言う物だ
ただ、それを手放しで受け取るのは気恥ずかしいので、お返しに絵梨の頭をわしゃわしゃと撫でる
それを更に郁斗の左隣りを歩いていた悠は羨ましそうに眺め、そっと並んでいる距離を縮めて、郁斗の腕を取る
「?」
「……」
それに気付いた郁斗が不思議そうに眺めるが、悠はその視線に気付きつつも無視を決め込んで腕を取りながら並んで歩いた
その心を何とも言えないモヤモヤした感情で包みながら、その感情がこの場にふさわしくないと分かりながらも、抗えなかった自分にも少し嫌になりながら、悠は結局その腕を、自宅前まで離すことは無かった




