修行、邂逅、三度
「アハハハハハハハハハ!!残念だったネ!!君のパパとママは、私も太鼓判を押す、正真正銘のクズだったヨ!!」
心底愉快そうに少女は笑う。絵梨のほんの少しだけこうあって欲しいと思っていた幻想も、その両親の生命も土足で踏みにじり、嘲笑う
それに絵梨は泣き叫ぶことしか出来なかった
「アハハハハハハハハ!!楽しいねェ!!これだから死霊術は止められナイ!!命も心も弄ぶ!!これこそ魔法の神髄だと思わないか――、おっと?!」
「黙れよ」
不快な笑い声を上げ続ける少女に、郁斗が離れた位置から炎球を蹴りいれる。それ自体は少女の魔法障壁により防がれるが、少女の笑い声は止めることが出来た
「お前が柏木と、柏木の親にロクでもない事をしたのは分かった。んでもって、柏木がそれで泣いてんのも分かった。それを笑いの種にしてんのも分かった」
炎球を右足の下で転がしながら、郁斗はその声音に怒りで燃え上がらせていく
そのボルテージが上がっていくごとに、足元の炎球の熱量もドンドンと上がっていくのが悠や香達も辺りの空気を揺らめかせてる様子で気が付いた
「お前みたいなのが、一番ムカつくんだ。人の不幸を指さして笑って、そいつだけじゃどうしようもないことをまるでそいつが悪いみたいに囃し立てるクソ野郎が大っ嫌いだ」
その内、その炎がオレンジから徐々に青色めいた色へと変化していく
その炎はまるで意思があるかの様に揺らめき、郁斗の右足に纏わりつく。そこから少し離れると今度は荒れ狂う様に赤く燃え盛っているのは郁斗が静かに、そして激しく怒っているのを表しているかのようだ
「何より、俺の友人を泣かせてる事が一番気に食わねぇ。そいつはヘラヘラけらけらと笑ってるのが一番似合ってんだ、テメェの下らねぇ道楽で泣かせてんじゃねぇよ」
そう言い切ると、轟ッとさらに炎が吹き上がる。その熱気が地面のアスファルトをジュウジュウと焼くが、今はそんなことは関係ない
「よく言ったわ郁斗君。その通り、その胸糞悪い死霊術師を許すわけにはいかないわ」
「キヒッ、とは言えお前たちはこの市街地で本気は出せないだロ?今は人払いの結界でどうにかしてる見たいだけド、こっちはむしろここまで来れば死人が出たって構わないからネ」
炎球の熱量を上げる郁斗に賛同し、香は一歩前へと歩み出る。確かに少女の言う通り、今は人払いの結界を張ることでどうにか人が家屋や通りかからない様にしているが、これ以上の戦闘になれば、間違いなく家屋、そしてその中で生活しているであろう人に被害が出る
その事は確かに、香や照だけではなく悠達の攻撃を制限する足かせだった
「ふふっ、私がその事に対策していないと思う?」
「ムッ」
だが、香は言っていた。それに関しては、対策を用意していると
それは空間系の術を得意とする彼女の絶対的な領分だ。戦闘用の空間を構築し、自分達と相手を強制的にそこに引きずり込むという荒唐無稽なトンデモ術式
それを、何の準備も小細工も無しに片手間でやってのけようと魔法陣を展開した香を見た瞬間、少女は
「後ろにご注意、だヨ」
香の後ろ、を指さし、にんまりと笑った
「っ!?」
バッと振り向いた香達の視界に写り込んだのは、焼けただれ、倒れていた筈の人型と、氷の槍に貫かれていた筈の人型が、揃って突進して来ている事だった
既に戦闘不能だと思っていた2体の人型の肉塊が向かって来たため、咄嗟に全員が回避行動を取る
その隙に少女は召喚していたアンデットを戻し、別の獣型のアンデットを召喚する
「じゃあネェ」
恐らく、移動用のアンデットなのだろう。今までの比ではない速度でその場から離脱した少女は一行が追う暇も与えないまま、その視界から姿を消した
追跡に有効な読心能力を持っている絵梨は、両親の事で気が一杯でそれどころではない。一同は再び、少女を取り逃がしたのだった




