修行、邂逅、三度
「悠っ?!」
「よそ見は行けないヨ!!」
背後で悠が蹲ってしまったのを視界の端に収め、郁斗の意識がそちらに向くが、郁斗は郁斗で少女と魔法戦の最中で気が抜けない
実際、その隙を付いて魔法が郁斗目掛けて放たれていた
巨体の異形こそ、今は行動不能になっているがそれも数分持てばいい方。対するこちらは少女の魔法を捌くので精一杯で、蹲る悠を抱えてこの場を離脱するのは不可能だ
それどころか、郁斗自体も少女の魔法にハッキリ言って押されている。初撃の相手がまだ油断している内に勝負が決められなかったのが痛かった
「くっそ……」
万事休すかと思われた、その時
「ありゃ、時間切れカ。うーん、中々しぶといネ。でもうんうん」
少女が魔法を放つ手を止め、その場でクルリと背を向け
「おい!!いつまで寝てるんだヨ!!」
「グォオンッ」
ふら付いていた巨体の異形に一喝すると、少女は脱兎のごとくその場から逃げ出したのだった
何が起こったのか分からない二人が呆然としていると
「二人とも、大丈夫?!」
香が、文字通り飛んでやって来たのだ。どうやら、少女は彼女の到着を察知してこの場から離脱したようだ
やはり、少女には香とやり合う程の戦闘能力は無いのだろうと、郁斗は思考をしながら、片膝を付いている悠に駆け寄る
「悠、大丈夫か?」
「あ、ありがと。ちょっと無茶しただけだから、少し休めば平気かな……」
「突発的に身体が慣れていない量の魔力を使ったのね?ホント、無茶し過ぎよ。でも、よく凌いだわね」
二人とも、特に大きな怪我も無いようで、ホッと一息をつく香だが、まだ逃げた少女を逃がすつもりはない
悠の介抱を郁斗に任せ、直ぐに別行動している照へと連絡を入れる
【予想通り逃げたわ。追いつけるかしら?】
【任せい。絵梨の読心もあるからの、そう簡単には逃がさん】
彼女達は、逃げ足の早い少女を追跡するため、直接現場にやって来ずに別行動をしていたのだ
こちらだって、いつも逃がすつもりは毛頭ない。可能なら討伐、あるいは捕縛。最低でも戦力を削ぐ
「どうじゃ絵梨!!追えとるか?」
「い、一応!!でも、夜だから動物たちも少なくて、見失いそう!!」
「むぅ、デカブツのクセに足の速い……!!」
絵梨を抱えて、住宅の屋根の上を疾走する照と、読心術を駆使し、周囲の動物たちからの目撃の情報を収集する絵梨とで少女と、異形の屍を追うが想像以上の足の速さに、中々追いつけない
「……いた!!右の路地の先、500m!!」
「速度を上げる!!舌を噛まんようにな!!」
ようやく視界に捉え、今まで絵梨の事を考えてスピードを抑えていた照が、500mの距離を縮める為に一瞬だけ速度を上げる
それだけで照は少女に一瞬で追いついて見せた
「チィッ!!噂通りのバケモノだネ!!いたいけな女の子を追いかけ回して楽しいのかヨ!!」
「ほざけ、歳なんぞどうせ100超えとるじゃろ」
巨体の背に乗り、移動していた少女が忌々し気に言葉を吐くが、照は鼻で笑って少女と巨体の前に躍り出る
「さて、捕まえたわよ。大人しくしてもらおうかしら」
「うわぁお、そっちももう追いついたノ?参ったなァ」
香もこちらに追いついたようで、少女の背後を取る様に空から地面へと降り立つ
香と照、二人の強大な敵を目の前に、少女は冷や汗を流してこの状況をどう切り抜けようか、軽口を叩きながら思案している様子だが、わざわざその時間を与えてやるほど、二人は優しくない
「【風――】
「【炎――】」
二人が揃って、それぞれの技で挟撃しようかと言うその瞬間
「キヒッ」
また、少女がその容姿に見合わない笑い声を小さく上げ
「絵梨……」
その場に、似合わない。優し気な女性の声が、その場に響いたのだった




